第133話
フェルナンキア某所。
そこには、今回忍び込んでいた魔族が全員集まっていた。
屈強そうな魔族達だ。
そして、その中心にはセレスの姿があった。
人ではなく、魔族としての姿である。
「我らが同胞達よ!」
その一言で場の雰囲気がガラリと変わる。
「いよいよこの日が来た!」
魔族達は目をギラつかせながら、闘争心を高めていた。
人間への憎悪、破壊衝動、殺人欲求、様々な感情が渦巻いている。
「明日は、我らが主人の悲願を達成する、その礎となる日だ!」
その宗教めいた演説は、主人に絶対服従を誓う魔族には絶大な効果がある。
「此度の作戦、何があろうと成功させなさい!」
そして、こう叫んだ。
「我らが“栄光ノ十二”のためにその身を捧げ、命が尽きようとも戦い続けろッッ!!!」
「「「うおおおおおおお!!!!!」」」
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「………!」
リンフィアはふと目が覚めた。
何故だろう、胸がざわざわする………
昔みたいな感じ………
城を追われてすぐの頃、こんな事が何日もあった。
嫌な予感、気配のようなものが全身を這いずり廻るような感覚。
落ち着かなくなり、眠れそうにもなかったので、リビングへ向かった。
夜目は利くが、なんとなく暗いと感じる。
「明かり………」
リビングの照明をつけようとしたが、その手を一度止めた。
奥にチラッと人影が見えたのだ。
「あ」
覗き込んでみると、椅子に座って寝ているケンがいた。
またか、と思ってクスッと笑ってしまう。
「ケンくんもここがお気に入りかぁ………」
リンフィアはケンの隣に座った。
「今度は何をこんな遅くまで………」
ケンが握っていたのは、リンフィアがいつも装備している帽子だった。
少しアレンジをしているが、作っているところは、あまり見られたくはなかった。
「やっぱりすごいですね、ケンくん。えへへ、可愛いですね、これ」
帽子が気に入ったらしい。
「………あれ、無くなってる」
さっきまでのざわつきが消えていた。
安心して途端に眠たくなっていくリンフィア。
「ケンくんの横はやっぱり、落ち着くなぁ………」
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「………ん、ぉ。やべっ、寝ちまったか。まぁギリギリ完成してたし、セーフっと、お? 帽子どこいった………あ」
隣にリンフィアが寝ていた。
「はぁ………ったく、完成まで待てっつーの………なかなか似合ってんな」
ぼーっとリンフィアの寝顔を眺めていた。
こいつの寝顔を見るのも久しぶりか?
そういや2人の時もこいつ早起きだったなぁ。
あ、でも訓練から帰って寝てたことはちょいちょいあったな。
俺はリンフィアの頬をつつこうとした。
その瞬間、
「貴様何してる」
「うおッ!」
後ろにニールが立っていた。
「い、いや、起こそうと思ってたンだよ。起きろリフィ、朝だぞ」
ペチペチと頰を叩く。
すると、
「んん………ケンくんダメですよぉ………」
「貴様ァァァァァァ!!!!」
「うおおお!!! 何つー面倒な寝言だチクショウ!!」
朝っぱらからニールの襲撃を受けることになった。
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「ししょー、ごはん………」
少し遅れてラビが起きてきた。
「ああ、食ってろ。テーブルの上に出してる」
「あ、“わしょく”だ」
最近俺は和食に凝っているので、朝は基本ご飯になる。
だが俺はパン派だ。
「あれ? リンフィアねぇとニールねぇは?」
「最終調整だ。もう1時間前から起きてるぞ」
「おー」
聞いてるような聞いてないような返事をして席に着いたラビ。
「いただきまーす」
「おう、たくさん食っとけよ。今からちょっと出てくるから2人が帰ってきたら言っといてくれ」
「ん」
ラビは親指を立てて了承した。
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俺はてんちょーの店に足を運んだ。
と言っても用事があるのはてんちょーではない。
「おーい、てんちょー」
「あれ? ケンくん。どうしたんだい? こんな朝から」
仕込み中だったらしい。
奥からうまそうな匂いがする………はっ! いかんいかん。
飯食いに来たんじゃねー。
「ラクレーいるか?」
「え? 居るけど………」
「聞きたいことがあっから呼んで来てくんねーか?」
「うん」
てんちょーはラクレーを呼びに上の階へ上がっていった。
ドタドタ音が聞こえる。
暴れてるのか?
あ、降りてくる音がする。
「け、ケンくん………」
「うおおおお!? どうしたてんちょー!!」
降りて来たてんちょーはボコボコにされていた。
「あたしの眠りを妨げるものは何人たりともゆるさん」
「めちゃくちゃ言ってんな!?」
まさに傍若無人。
こいつ居候だろ。
こんな横暴を許していいのかてんちょー。
まあ、それは置いといて。
「よお、ちょっといいか?」
「なに」
「あ、僕は仕込みの途中だから。またねケンくん」
てんちょーは仕込みに戻った。
「下らない理由だったら斬るよ」
「いやいや、多分これはお前にとって都合がいいはずだぜ?」
そして俺はラクレーに言った。
「お前、今日の——————」




