第130話
「ただいまー」
ラビは両手いっぱいに色々持っていた。
相当満喫したらしい。
「もう、満足したか?」
「うん、ニールねーちゃんがいっぱい遊んでくれた」
リンフィアの言う通り子供の世話をするのが得意な様だ。
幼い頃からリンフィアと一緒にいて子供慣れしたのだろう。
でも確かこいつタメなんだよな。
「お疲れ様、ニール」
「いえ、これくらい何ともないです。あ、リンフィア様、何かありましたか?」
「はい?」
「いえ、何となくそう思ったので………まさか」
出たよ。
またこのパターンか。
「言っとくが何もしてねーからな。なぁ、リフィ」
「はい。ちょっと恥ずかしいだけです」
「おい、誤解を招くだろうが」
恥ずかしいってさっきの事だろうか。
結局なにが言いたかったんだ?
「そうだ。リンフィア様、お聞きになりましたか?」
「何をですか?」
「この街に勇者が来ているらしいです」
予想外のセリフだった。
「なっ………」
嘘だろ、おい。
あいつら来てんのか!?
このままでは明日に起きるであろう魔族からの襲撃に巻き込まれてしまう。
いや、まさか任務か?
あり得る。
おそらく警備兵が多かったのは王都から兵が送られたからだろう。
つまり国王の耳に入っている。
そこまでは想定内だったが、勇者を送り込む必要性が見当たらない。
いや、あるにはある。
パフォーマンスだ。
勇者達に魔族討伐の功績を挙げさせ、一気に名前を売るつもりだ。
「へー、勇者ですか。魔王を退治するおとぎ話の勇者様ですか?」
「はい」
は?
「ちょっと待て!?」
「何ですか?」
「いやいや、勇者ってお前にとっちゃ敵だろ!? 何そんな他人事みたいに言ってんだよ!」
「いや、別に悪いことしたわけじゃないですし………」
「アホか!? アホなのか!? 自分で魔王を退治する勇者って言ってんじゃねーか!」
「話せばわかる」
「それフラグだ!!!」
流石に楽観視し過ぎだろう。
危機感がなさすぎる。
「大丈夫ですよ」
「その自信は一体どっから湧いてんだ!」
「だって、」
リンフィアは一切の迷いのない眼で俺をみた。
そしてこう言った。
「私には不良のヒーローが付いてますから」
「………!」
ちくしょう、こういうときに限ってそんなこと言いやがって。俺がその勇者だってのにも気づかねーでよ………………ナンも言えねーじゃねぇか。
「えへへ、なんか照れますね」
「私もいますよ、リンフィア様」
「はい、もちろんです」
「よくわからんが、ワタシもいるぞ」
「うん、そうだね」
3人はじっと俺を見てきた。
向こうには蓮たちがいるから心配はない。
こちらにもニールがいる。
でも、こいつは俺が護りたい。
ニールは確かに強い。
でも、何故かこいつは放って置けないんだ。
だから、
「………はいはい、わぁーったよ………不良のヒーロー、な。いいじゃねーか。お前は何があろうが絶対護る。これでいいんだろ」
「えへへ、よろしくお願いします」
こいつはホントに………
俺はなんとなく頭をかいた。
「オラ、とっとと中入って明日の準備をしろ。修行の成果がやっと披露できる」
そう、明日は祭りのメインイベントが待っている。
この日のためにこの2人は結構無茶な修行もこなして来たのだ。
「ふっふっふ。ししょう、おどろくなよ。ワタシのしゅぎょうのせいか、みせてやる!」
「ほー、あのダガーを使いこなせる様になったのか?」
「うん、もうしくみはわかった」
「!」
そうか。
アレに気づいたか。
それならこいつはもっと強くなれる。
「私も銃の扱いは上達しました。少なくとも前回よりは確実に命中率は上がってます。それに、三級魔法の弾が作れるようになったのでもっと強くなった筈です」
そうか。
三級魔法が自分で詰められるようになったんだな。
「頼もしいな。あ、そういやアレは忘れてねーよな」
「はい、ちゃんと取ってます。でもこれ中身がさっぱりわからないんですけど。だいたい属性くらいは分かるはずなのに………」
「その魔法に属性はねーよ。強いて言うなら“虹属性”だな」
「虹?」
これは使ってからのお楽しみだ。
まだ言わねーが、これは流石にとんでもない魔法なので扱いにはマジで注意してほしい。
「中身は内緒だ。前にも言ったが、危ねーから人には当たらねーように注意はしろよ」
「はい」
ま、人に当たっても死なないようにはなってるけどな。
「ニールは俺が言うまでもねーか」
俺はリンフィアたちが見ていないうちにニールに耳打ちした。
「頼むぞ」
「ああ、わかってる」
「よし、じゃあ明日は本番だ。寝不足だけはよせよ」
「「はい!」」
「了解だ」
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同時刻、 一本の通信が通信魔法具に入った。
『いよいよ明日だ。セレス、期待しているぞ』
「はっ、もちろんです。必ずや、我らの願望を果たしてみせます」
声の主は静かに笑った。
『いよいよだ。待った………この時を待った
ていたぞ! 必ず計画を遂行しろ。いいな』
「はっ!」
そして通信魔法具は切れた。
 




