第129話
「よう、お帰り。その様子だと負けちまったっぽいな」
「はい………剣を持った、すごく強い小さな女の子に負けちゃいました………」
剣を持った小さい女の子?
なるほど、大体わかった。
そりゃ勝てねーわ。
「ま、そんな事もある。次は勝てる様頑張ろうぜ」
「はいっ、ちゃんと訓練していつか勝てる様になってみせます」
気合いたっぷりのリンフィア。
思わず表情が緩む。
「あ、ししょうニヤニヤしてる」
「うるせー」
俺は表情を戻して、別の事を訪ねた。
「それまでは苦戦しなかったのか?」
「いえ、初戦の相手が強かったです。勝てるかなぁと思ってましたけど、どういうわけか急に強くなったんですよ」
「へぇ」
こいつのパワーは、大体Bランク相当。
つまり、そいつはそれに近いパワーを持っているというわけだ。
現在、Cランク以上、上級冒険者以上の人間はそこまで多数はいない。
故に、俺は思わず感嘆の声をあげていたのだ。
「そうか。楽しかったか? リフィ」
「はい! すごく楽しいです!」
リンフィアは心の底からそう返事した。
なら、なおの事この祭りを潰させるわけにはいかないな。
俺は本当にそう思った。
「ほら行くぞ。まだまだ祭りはこれからだ」
「はい!」
———————————————————————————
「はい、了解しました。ではそのように」
セレスは、ギルド本部にいた。
ギルファルドからの命令で、魔族掃討作戦のサポートするように言われている。
しかし、ギルファルドは彼女が魔族である事を知らない。
これは大変な事態だ。
敵側に情報がつつ抜けというわけである。
「なるほど、そういう作戦ね。なら………」
そして、それを最大限利用するセレス。
作戦の裏をかき、最も手薄な場所から崩し、制圧する。
「愚かね。私が間者だとも知らずに。本当に人間は扱いやすい」
彼女の長所はその要領の良さだ。
臨機応変に対応し、ズル賢く世を渡っていく。
スパイになるにはうってつけの人材だ。
「セレス殿」
ギルド職員がセレスを訪ねてきた。
セレスはスッと表情を変える。
「なんでしょうか?」
「勇者一行が到着した模様です。11時ごろにここを訪ねるとのことです」
「!」
勇者はここ最近噂になっている存在だ。
魔王討伐の時が迫っていると、少しずつ噂は大きくなっているのだ。
当然こちらにいる以上、セレスも勇者の事を耳にしている。
「了解しました」
セレスがそう言うと、ギルド職員は退出した。
セレスは勇者をよく思っていない。
魔族ならば当然といえば当然だ。
勇者は種族として敵である人間の、いわば戦いの代行者の様なものだ。
しかし、セレスにとっては別の意味で敵だと認識している。
「勇者か………出来れば消しておきたいけど、主人に聞いておかないといけないわね」
———————————————————————————
「久し振りにこんなに遊んだな」
「楽しかったですね」
初日を満喫し、ぐだーっとしている俺とリンフィア。
ニールはラビがまだ遊びたいと言っているのでそれに付き合っている。
面倒見のいいやつだ。
「そういえば、二人きりになるのはいつぶりだっけな」
「確かに、ニールやラビちゃんが仲間に入ってからはなかなかゆっくり2人でいる事は無くなりましたね」
しんみりした様な雰囲気。
俺は、何となく何かを話したくなった。
「なあ、リフィ」
「はい?」
「お前を解放して、俺についてくるって決めた時の事、覚えてるか?」
「はい、覚えてますよ。そんなに前じゃないですしね」
「そういえばそうだな。ははっ」
特に何か言おうと思ってそれを聞いた訳ではなかった。
ただなんとなくだ。
「俺さ、なんとなくわかるだろうが、故郷ではそこそこ名前の知れた不良だったンだよ。でも、それも最初からじゃない。そうなった原因があンだ」
俺はこの話をほどんど誰にも言ったことがなかった。
蓮と琴葉は、その事情を知っているため、わざわざ口に出してない。
他のクラスメイトや親戚はそもそもその事を知らない。
「単に、気を紛らせたかっただけなんだよ。忘れたかったから、そうやって色々やった。でもお前は違った。お前はちゃんと耐えていた。俺みたいに現実逃避せずまっすぐに歩いていた。そこに何となく惹かれたんだよ。俺は」
「買いかぶりすぎですよ。私は単にそんな事を考える余裕も無かっただけです。私もケンくんをすごいなぁって思ってますよ」
リンフィアは立ち上がって俺の周りを歩き始めた。
「あっという間にみんなを解放して、どうしようもない事を簡単に解決する。いつか言ったみたいにあなたは私のヒーローなんです」
そしてピタッと俺の前で止まった。
「だから私はあなたを——————」
「え、あ、あれ? 私何を………えーと、あはは」
笑って誤魔化すリンフィア。
一度顔を背け、一呼吸置いて再びこちらを向いた。
「何か言いたかったですけど、ちょっと出てきませんでした」
「そっか」
俺もそう一言だけ返した。
 




