第128話
「あちゃー、当たっちゃったね」
うーんと言いながら頭をかく琴葉。
「折角試合するなら決勝戦の方が面白かったよね」
「そうですね。でも、当たっちゃたものは仕方ないです。やるからには本気で行きますよ」
真面目なリンフィアは、特に理由がない限り手を抜くようなことはしない。
「うん、私もそのつもり。ししし! これはこれでなんか燃えるね!」
「はい!」
テントの中にはそこそこ人がいた。
観客の中にはニールが混ざっていて、リンフィアに向かってブンブン手を振っている。
そして、こういう試合には絶対いるテンションの高い司会者が大声で試合の進行を始めた。
「さぁ! 第1試合は12番と24番だああああ!! おっと! これは2人ともかなりの美少女です! 果たしてどんな戦いを繰り広げてくれるのだろうかッ!!」
2人はステージに上がった。
腕相撲用のテーブルが置かれてある。
これは向こうのやつと変わらない。
「リンフィアちゃん、いくよ」
「はい、コトハちゃん」
リンフィアと琴葉は肘を置いて、手を組んだ。
リンフィアも戦闘を覚えて結構経った。
相手が強いか弱いかはなんとなくわかる。
結論から言うと、琴葉はまだ弱かった。
勇者といえど、正攻法で鍛錬している琴葉は、俺の裏技で急激な成長をさせているリンフィアにはどうあっても勝てない。
しかし、これはあくまで腕相撲。
ルールは魔法禁止だ。
琴葉には、あれがある。
「レディー………」
「ごめんね、リンフィアちゃん」
「!?」
弱いと思っていたはずの琴葉から異常なプレッシャーを感じる。
魔法じゃない。
魔力は一切感じない。
故にこの力の正体がリンフィアには分からなかった。
琴葉の固有スキル。
それは、『再現』
既に起きたものを再び起こすスキルだ。
回数は一定ではなく、琴葉の成長に連れて効果は増す。
現状2回が限界。
例えば、剣で斬ったら、同じ箇所を二度斬った事になる。
走ったら、地面を蹴る度に、2回分の力が発生する。
扱いは難しく、いくつかの制約はあるが、使いこなせば非常に強力だ。
つまり、一度押せば、2回分の力が加わる。
それは単純な足し算ではない。
加わる力が2つ分でも、当人からすればもっと大きく感じる。
——————ちなみに別の効果もあるが、ここでは使わない。
さぁ、試合開始だ。
「ゴーッッ!!!」
持てる力全てで相手の手を押した。
ミシッ! と言う音がした。
「………ッ!」
「ぐ………ぅ!」
「おーっと! 両者一歩も引かない! 白熱した試合だァア!!」
すごいこの子………固有スキル使ってるのに………強い!
この力………油断できませんッ………!
するとここで、少し状況が変化する。
「ッ………!」
「あーっと! 24番押され気味だァァァ!! このまま負けてしまうのか!?」
手は徐々に倒されていく。
このままではマズイ。
「ぐぅう………ぅ!」
負ける………いや、まだ手はあるはず。
多分、やり方の問題。
コトハちゃんは手を巻き込んでる。
それに、全身で手を動かしている………なるほど
リンフィアは手を巻き込む様にして力を加えて、腕に全体重を乗っけた。
すると、腕がどんどん元に戻っていく。
「なっ………!」
「ううう………………ぅああああああ!!!」
そして一気に腕を引き戻し、
ドンッ!!
と手の甲をつけた。
「終了!!! 勝者、24番!」
わっと会場が沸いた。
ニールが飛び跳ねて喜んでいる。
「勝った!」
リンフィアは達成感にあふれた表情を浮かべた。
「うわー、負けちゃったかぁ。強いね」
「コトハちゃんも、さっきまでは勝つ気満々でしたけど、手を握った瞬間妙に威圧感があって、なんというか………うーん」
「う………」
琴葉は少しギクッとした。
実は鑑定でリンフィアの攻撃力だけみて、こりゃ無理だわ、と確信を持ったので固有スキルを使ったのだ。
しかも負けてしまい、ちょっとだけバツが悪い琴葉である。
「き、気のせいだよ。それより、24番呼ばれてるよ。頑張ってね。このままきっと優勝までいけるよ」
「はい、頑張ります!」
「それじゃあそろそろ私は友達を探さなきゃだがらまたね」
「はい、また今度」
そう言って琴葉は颯爽と去っていった。
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「あ! ことりんどこに行ってたの!?」
テントから出て少し歩くと、七海と涼子が琴葉を探してさまよっていた。
「ごめんね、ななみん。腕相撲大会出てた」
「自由かっ!」
すかさずツッコミを入れる七海。
「まったく、うちらがどれだけ探したか………ねぇ! すずっち………」
七海が振り返ると、今まで買っていた屋台の食べ物を口いっぱいに頬張ってる涼子がいた。
「むぐ」
「あはは! おあいこじゃん。どうせ遊んでるとは思ってたよ」
「すずっち〜!」
「むぐむぐ」
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「さぁ準決勝だ! 対戦カードは24番と17番だああ!!!」
リンフィアはあの後3人を撃破し。なんとか準決勝まで行っていた。
「よしそれじゃあ手を組んでください」
今回の相手はこの女の子。
この子は………ちょっとよくわからないけど勝てる………かな?
目の前にいたのは、小柄な少女だった。
お帯びている剣が妙に物々しいが、それ以外は普通の可愛らしい少女だ。
「レディ………」
「あまり無駄な抵抗はしない方がいい」
「え?」
「ゴ——————」
ズドンッッ!!
気がつくと手が付いていた。
そんな感じだったのだ。
ただただ、唖然とした。
何も感じなかった少女から、ニール以上の力を感じたのである。
本気で行った。
しかし、一切の抵抗もできず、負けてしまった。
「残念」
少女、ラクレーはリンフィアが名前を訪ねる間も与えず、席に着いた。




