第124話
「先生」
ドアをノックするが返事はない。
しかし出発は明日なので早く連絡を入れないといけないので再びノックをする。
「先生、すみません、寝てるんだったら起きてくださ——————」
バチッ!
「っ!?」
この感じは………
これは、魔力だ。
「先生!?」
部屋の中で春の放出したであろう魔力を感じた。
それ以外にも複数の魔力。
誰かが侵入している。
「仕方ない………ごめんなさいッ!」
蓮は詠唱をする。
「『我が肉体は限界を超え、鋼となる【デュオブースト】』ッ!」
そして、能力を発動させた。
「『逆転』!」
鍵が開いた。
これは、指定した物の性質を逆転させる。
例えば、引く運動なら押す運動に、暑いものは冷たいものに。
この能力の凄いところは、使いようによっては天変地異を起こせてしまうところだ。
地面の性質を変えて地震を起こし、風の性質を変えて竜巻を起こし、死火山の性質を変えてとんでもない噴火を起こす活火山にしたりなど。
ただし、生物にはかけられない。
「先生!」
春は黒い渦に取り込まれそうになっていた。
急がなければ完全に取り込まれてしまう。
「獅子島くん!」
蓮は部屋の奥まで行くと、両端から魔族が飛び出して来た。
「チッ………邪魔だッ!」
魔族は蓮に向かって剣を振り下ろした。
蓮は剣の達人である。
その腕前はこの国でも屈指のレベルに達していた。
だからステータス的には負けている魔族相手でも余裕で勝てる。
読むんだ。
あんな構えじゃ大した腕はない。
でも多分ステータスは俺よりも高い。
………よし
太刀筋を読んで躱し、ガラ空きになっているかつ、防御しづらい場所に攻撃を数回入れ、もう片方から剣を奪い、攻撃を避けながら急所を攻めた。
「ぐぉ………」
「げぁ………」
膝から崩れ落ちる魔族達。
蓮それに目もくれず、春の元に行った。
「『逆転』!」
渦の取り込む性質を押し出す性質に変え、その隙に一気に春を引っこ抜いた。
そして、魔族達を渦の中にいれ、再び逆転させ、渦は消えた。
「大丈夫ですか!?」
「うん。どうにかね………」
「今の連中は?」
「急に窓を割って入って来て、戦おうとしたら渦が………」
魔法だろうか?
しかし、蓮はそれを判断するだけの知識はない。
「ありがとねぇ、獅子島くん」
「いえ………」
これが原因で、春は任務から外れた。
代わりに蓮と同室の高橋が入ることになった。
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魔族の侵入により、急遽会議が開かれることになった。
「ついに王都で魔族の侵入を許したか………」
「国王、警備を強化するべきです。今回は大ごとにはなりませんでしたが、もし次に侵入を許したら………」
「余とてわかっておる。だが、警備の方はまだ増やさぬ」
「!?」
「その兵力は全てフェルナンキアへ持っていく。奴らが行動を起こすのは今度の大狩猟祭だと聞いた。そちらで全て終わらせれば、しばらく向こうもおとなしくなるだろう」
この案に賛成と反対がほぼ半々に別れたが、最終的に警備は増やさないことになったのである。
代わりに入国審査が一時的に厳しくなるようになった。
「今日のところはこれで閉会する」
臣下の不満が爆発する前にさっさと会議を終わらせた。
「陛下」
会議の後、騎士長のスカルバードが国王を訪ねた。
「スカルバードか。何用だ?」
「私も出向きますか?」
「いや、今回お前には王都の警護を頼むつもりだ。こちらを手薄には出来ぬからな。いざとなれば勇者達にも警備を行わせる」
「承りました」
スカルバードはそのまま帰ろうとした。
しかし、振り替えって国王にこんな事を尋ねた。
「………一つ尋ねてもよろしいでしょうか」
「ん? 何だ?」
「もし、魔族達が何か起こそうとしているとして、正直こちらの兵だけでどうにかなるのでしょうか?」
「ふむ………恐らくならぬだろうな。だが、いま向こうにはギルド本部のマスター、それに三帝が2人もいるらしい」
「!」
「どうだ?」
「確かに、どうにかしてくれそうな顔ぶれですね。お時間を取らせてしまって申し訳ございませんでした。では私はこれで」
スカルバードは退出した。
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襲撃者が魔族ということもあり、明日からの任務のメンバーの生徒が急遽召集された。
「と言うわけで、先生は任務に参加できなくなった。琴葉ちゃん、こればっかりはどうしようもない」
「私は構わないけど、春ちゃん先生は大丈夫なの?」
「うん、特に怪我はなかったよ。でも、先生急に襲われて少しショックを受けているっぽいから無理はさせられないんだ」
琴葉は心配そうな表情をした。
懐いていた分、ショックが大きいのだろう。
「イケレン君、うちらが集められたのって何か理由があるのかいな?」
涼子も同じことが聞きたかったようで頷いていた。
「さっき陛下から任務の詳細を聞いたんだ。今回の任務は、フェルナンキアで行われる大狩猟祭ってお祭りの当日に襲撃に来るであろう魔族の討伐および捕縛だ」
討伐、つまり殺しもあるという事だ。
それを理解して、全員息を飲んだ。
「いつかこんな日が来るとは思っていたけれど、やっぱりちょっと………」
綾瀬が言った事は皆思っていた事だった。
「だから、僕らはなるべく生け捕りを狙うんだ。ルドルフ教官は怒るだろうけど、魔族とはいえ、あまり殺めたくない。だから、綾瀬さんにはちょっと頑張ってもらうけどいいかな?」
「でしょうね。うん、いいわ。やる」
綾瀬は力強く頷いた。
「じゃあ、出発は明日の早朝だ。みんなしっかり準備をするように、それじゃあ解散」
各自自室へ帰って行った。
そして翌日、馬車に乗りフェルナンキアに向かい、数日後到着した。
その日は祭り本番前日だった。




