第122話
ある日、蓮は国王に呼び出された。
「勇者レンよ。勇者達の訓練の方はどうだ?」
「はい、順調に皆勇者として成長していると言ってよろしいかと。特にSSランク以上の勇者は教官殿のお考えになった予定より成長が早いです」
「ほう………」
国王は肘をついて聞いていた。
一体何の用だろうか。
「では、そろそろ初任務をさせようと思ってな。戦闘系の、だ。お前とコトハ、それと数名のSSランクとフィリアを連れて行け。必要あればもう数人は連れて行って良い。念のため護衛にはルドルフを付ける」
「王女殿下を、ですか?」
「ああ。なに、断りはしないだろう。聞けば其方は彼奴と仲が良いと言うではないか」
「あはは、いやぁ………」
そう、蓮のモテ方はこちらでも尋常ではなかった。
侍女はもちろん、城を訪ねる貴族や王族も、蓮にメロメロである。
もちろん、クラスの連中で蓮を狙っている奴も少なくない。
特に王女は蓮べったりで、毎日一緒にいようと色々やっているようだ。
訓練にも混ざっている。
「お前さえ良ければあの娘をくれてやっても良いのだぞ? 跡取りはもう決まっておるしな」
蓮はピクリと眉を動かす。
気に入らない時、納得しない時などに出る蓮の癖だ。
「任務についてだが、お前たちにはフェルナンキアへ出向いてもらう。何やら魔族が入り込んでいるらしい。実践はまだだったか?」
「いえ、モンスター相手の演習はいくらか行いました」
「………なるほど」
国王は少し黙り込んだ。
ふむ、と一言言うと、蓮にこう言った。
「では、任務については追って連絡をする。下がれ」
「はっ」
蓮は玉座の間を退出した。
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「任務?」
琴葉の部屋で蓮と琴葉が話していた。
もちろん今日言われた任務についてだ。
「うん、国王から呼びつけられて俺と琴葉ちゃん、それと何人かのSSと王女殿下を連れて行けって。僕としてはあと数人連れて行きたいんだけどね」
「王女様連れてくんだ。あの子蓮くんにべったりだからねー。SSランクは誰を連れてく?」
「涼子ちゃんと七海ちゃんかな」
「いつものメンバーだねぇ。あーあ、ここにケンちゃんがいたらなぁ………」
蓮と琴葉は、今この場にいない少年の事を思っていた。
あれから数ヶ月。
いや、修行期間を入れたら1年以上まともに遊んだり話したりしてない。
「大丈夫。いつか絶対またみんな一緒になれるさ」
「そうだねー。ケンちゃんだもんね。もしかしたらその任務先にいるかもしれないしね」
「うーん、意外と本当にあり得るかもね。今回行く場所はフェルナンキアだって聞いたから………」
すると、上からバタバタっと慌ただしい音がした。
「フェルナンキア!?」
「あ、美咲ちゃん。そう言えばこの前フェルナンキアに行ったって言ってたよね。いいなー、私も行きたいなー」
「いや、琴葉ちゃんは今度行くんだよ」
「え!? ホント!? やったー!」
こいつは一体何を聞いてたんだろうと割と本気で心配する蓮。
「あ、あの、獅子島くん!」
「蓮でいいよ。寺島さん。長いでしょ、俺の苗字」
「あ、私も名前でいいよ。あの、私もフェルナンキアについて行っていいかな?」
蓮は少し考え込んでいた。
美咲の戦闘能力は決して高いとは言えない。
だが、千里眼は使いようによってはかなり使える。
その横で考えている蓮をじーっと見ている琴葉がいた。
すると、
「私も美咲ちゃんと一緒がいいなー。ねーいいじゃん。危なくなったら私が守るし」
「そうか………うん、いいよ。サポートタイプの能力者も何人か欲しいって思ってたんだ。後は委員長くらいでいいかな」
琴葉は美咲に向かって小さくウインクした。
琴葉はバカだが察しはいい。
「はいはーい。春ちゃんせんせーも」
「本当にフルメンバーで行く気だね………ま、いいか。先生なら一緒に行くって言い出しそうだし、8人くらいなら人数的にも丁度いいね」
「決まりだね」
「じゃあ、そろそろ俺は帰るよ」
「えー、もうちょい雑談しようよ。せっかく訓練ないんだしさ」
「殿下に呼ばれてるんだ」
蓮はポケットから通信魔法具を取り出した。
音を出しながら光っている。
「あー、うん。そりゃ行かなきゃだ。モテ男は大変だ。またねー、蓮くん」
「うん、じゃあね」
蓮は走って自室に戻った。
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「むぅ、レン! 遅いですわっ!」
気品があって、よく通っている声がする。
ブロンドヘアの長髪で色白の女の子。
身長は低めで、小柄だが、勇者達と同い年らしい。
彼女はミラトニア王国第4王女フィリア・ミラトニア。
「申し訳ございません。国王から任務を受けるよう仰せつかったので」
鍵を掛けたはずだが普通に入っている。
当然のようにマスターキーを使っている。
ここの鍵は魔法具で、ある特定の魔力に反応して外れるようになっている。
外せるのは本人と王族。
ただし、女子は本人と同性の王族となっている。
「任務? また何処かに行く気ですの!? いやですわ!」
「今回は殿下も連れて行くよう国王から承りましたよ」
「え? 本当ですの!?」
「ええ」
「嬉しいですわ!」
飛び跳ねて喜ぶフィリア。
蓮はそれを微笑ましげに見ていた。
しかし、ピタッと動きを止めて、急にこちらを向いた時、蓮は体がビクッと震えた。
「それと、殿下ではなく、フィリアと名前で呼べと何度言えば呼んでくれるのかしら?」
「私のような平民が王女殿下を名前で呼ぶなど滅相もございません」
「頑固ですわね………他の女性の方は名前で呼んでらっしゃるのに………」
ブツブツというフィリア。
蓮はその様子を見て苦笑していた。




