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第121話


 「………」


 黒ラビは警戒している。

 今のところ自分にはない力だ。

 未知のものにはいくら警戒しても足りないと言うのをこいつはよく知っている。


 「おっととと………うごきずらい(づらい)な。たしか………」


 足がグニャっと歪んでいく。

 いや、()()()()()()()


 「えいっ………わわっ!」


 ラビはとんでもないスピードで黒ラビに突撃した。

 しかし、勢いがつきすぎて通り過ぎている。


 体の凝縮、これがスライムがすばしっこい理由である。

 スライムは移動の際、体の一部を凝縮させ、一気に弾いて移動する。

 スライムが低く飛び跳ねて動くのは、そうやって体が浮いているからだ。


 「とと………むずかしいな、これ。でもなんとなくわかってきたぞ」


 ラビは勘がいい。

 一年そこらであのレベルのダガー操作が出来ているのは普通異常だ。

 これもまたラビの才能だろう。


 ラビはもう、スライムの体に慣れていた。

 再び足を凝縮させている。

 もう失敗しない。

 ラビはダガーを構えどんどん足を凝縮させ、一気に弾いた。

 


 「くら、えッ!」


 このスピードはそのまま威力に変わる。

 とはいえ、踏ん張れば耐えられるだろう。

 本来なら。


 「ふんッ!」


 「!?」


 ダガー同士が交わる。

 しかし、鍔迫り合いにはならなかった。

 ラビは、凄まじい力で黒ラビを弾き飛ばした。

 このスキルは、モンスターのスキルをそのまま引き継ぎ、ステータスを上乗せできる。

 つまり、今のラビの攻撃力は普段よりかなり高い。

 

 「ぶんりッ!」


 ラビは2体に分離した。

 ダガーを半分に折り、そこから魔力刃を発動し、黒ラビを挟み撃ちにした。


 「っ………!」


 2方向からの連続攻撃。

 2体に分離しても攻撃力と機動力は憑依召喚前と変わらない程度には高い。

 当然受け切れるはずもなく、黒ラビは徐々にダメージを負う。


 「とどめ!」


 ラビは腕を縄の様に変化させ、黒ラビを捕らえる。

 もう片方が黒ラビに突っ込み、胸の中心を——————



 「なっ………!」


 貫けなかった。

 魔力刃でスライム状態のラビの腕を切り裂き、すんでのところで躱したのだ。

 黒ラビの体から魔力が吹き荒れる。

 成長が追い付いたのだ。


 マズイ。

 このまま完成して、戦闘になればいつか負ける。

 それだけは阻止しなければラビの死は確実。

 実際には死なないとはいえ、その痛みと恐怖は本物だ。

 それにラビはこの事を知らない。


 「………できればしたくなかったけど、これにかけるしかない」


 ラビの分身はドロドロになって液体状になった。

 ラビは手を広げ、その液体を集める。

 すると、ラビの手を中心に何かが出来ていく。

 これは槍だ。


 「これがさいごのこうげき………くらえぇェェ!!!」


 ラビは槍を黒ラビに向かって投げ込んだ。


 そして、それと同時に向こうの召喚も完成する。

 黒ラビはスライム化した腕で槍を絡めとり、キャッチした。


 ラビはその瞬間元の状態に戻る。



 万策尽きた。

 黒ラビはそう判断した。

 すると、

 

 「やりをみてみろ」


 黒ラビは槍をじっと見ている。

 そして、これから起きることに気づいた頃にはもう遅かった。


 槍はそのまま黒ラビに溶け込まれていく。

 正確には自ら溶け込まれている。


 「スライムののうりょくのひとつに、えきたいとまざってそれごとはじけとぶやつがある。おまえもいまきづいたみたいだな」


 「!」


 例えば、傷を負った人間がいるとしよう。

 そこにスライムがいる場合、その傷口から侵入して血液と混ざり、中から爆発するという方法だ。

 しかし、傷は大きくないと無理なので、この方法はあまり使われない。

 そもそもスライム相手に、人間がそこまでダメージを負うことはない。


 「これで、ワタシのかちだ」


 黒ラビはそのまま膨れ上がり、膨張しきった後に破裂して消滅した。


 「はぁ、いやだなぁ。くろくてもじぶんがはじけとぶところはみたくなかったなぁ………お、このかんじはもとにもどるのか。やっとおわったー………」


 ラビはゆっくり目を閉じると、現実に意識を戻した。











———————————————————————————











 目を開けて魔法陣の外に出ると、ゆっくり体を伸ばした。

 今さっきまでと身体的な感覚が同じなのを不思議に感じているようだ。


 「おー、ほんとにこっちでもつよくなってたな」


 ラビは少し離れた場所にリンフィアがいたのを見つけると、そちらまで歩いていった。


 「ただいまー」


 「あ、ラビちゃんお帰りなさい。どうだった?」


 「つよくなった」


 「そっかぁ。よかったね」


 リンフィアはラビの頭を撫でた。

 癒されているのが完全に表にでた顔をしている。


 「リンフィアおねーちゃんは?」


 「えへへ、私も強くなったよ。魔法をたくさん覚えたしね」


 「おー。あ、そういえばししょうは?」


 「あっちよ」


 ラビはリンフィアが指差した方を見ると、かなり激しめで戦っているケンとニールがいた。


 「うわぁ」


 「やっぱりそうなるよね」


 









 「ゼァッ!」


 ニールは双剣を振るっている。

 俺はそれを躱しつつ上に飛び、四級魔法を連射した。

 ニールはそれを剣で後方に弾きながら上に飛び、回転しつつ俺に斬りかかった。


 「やっぱお前いい腕してるよ。バカなのが玉に瑕だけどな」


 「バカっていうほうがバカなんですぅ!」


 知ってるかい?

 そのセリフはバカが言うセリフだと相場が決まってるんだよ。


 「うおっ! っと」


 強化なしで戦っているが、やはり強い。

 剣術の腕がいいなと思ったのは、こいつとラクレーと蓮くらいだ。


 蓮の剣術スキルはLv.10ある。

 実際、向こうにいた頃、ルールなしでチャンバラして勝ったことはあまり無かった。

 最も効率のいい動きを体に無理をさせて行ってようやく勝てる相手だったのだ。


 「ししょー!」


 「お、戻ってきたか。ニール、一旦止めだ。ラビが戻ってきた」


 「そう言って簡単に鋒をつまんで止められるとイラッとするぞ」


 俺たちは剣を納め、ラビたちのいる方向へ戻った。

 祭りまであとわずか。

 こいつらもだいぶ強くなった。

 最低限自分の身は守れるだろう。



 これで安心して俺もやりたい事が出来るって訳だ——————

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