第1198話
昨日俺に色々と吐き出した事で気が晴れたのか、コウヤはナンパを止めた。
三日坊主という言葉があるが、そもそも目的にあまりそぐわない以上、3日と続ける意味もないと気づいたのだろう。
しばらくは俺が相棒で我慢してくれるらしい。
まぁ、それはそうと彼女は欲しいらしいのだが。
あれから数日。
俺はやはりする事がないので、街を彷徨いたりリンフィアとの買い物に付き合ったりしている。
今日も買い物に付き合っていた。
「この前行ったお店、結構良かったんですよ。プクッとしたピクシーさんが店主で、頼んだらなんでも作ってくれるんです」
「何でもって………スゲーなオイ。材料どうしてんだ………………ん?」
リンフィアとくだらない話で談笑しつつ、帰路に着く。
すると、今日もそこであいつを見かけた。
「またか………」
ハルバード………ルージュリアお気に入りのシルフの子供だ。
同じような時間帯で帰る日は度々見かけている。
そして、いつも物憂げな顔をして路地の前に立ち尽くし、何も出来ずに帰っている。
こうも何度も見かけると、流石に気になってしまうものだ。
「おーい、金髪」
聞きなれた声にハッとし、ふと後ろを振り返る。
好都合な人材がこちらに走ってきていた。
「あれ、コウヤくん」
「! 丁度いいところに………」
ニコニコ笑いながら近づいてくるコウヤ。
俺はそのまま流れるように自然と、荷物をコウヤの手に握らせ、丸腰になっていった。
「………? なんだこれ?」
コウヤは意味がわからずキョトンとしている。
しかし、俺は構わず続けた。
「頼んだぜ、荷物持ち。リフィ、あとはちょっと頼めるか?」
「ハルバードくんのところですね?」
「!!」
思わず感嘆のため息が出る。
全く、リンフィアには敵いそうもない。
「やっぱ流石だなお前」
「顔を見ればわかります。こっちはもう帰るだけなので、心配ご無用です。あと………………あの表情、結構重たいものを抱えてると思います」
「ああ、わかってる」
さて、お節介かもしれないが、首を突っ込ませてもらおう。
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「はぁ………」
ハルバードは、今日も誰も来ない秘密基地でため息をついていた。
あれから何日も経つというのに、まるで決心がつかない。
“あの場所” に向かう勇気が、一向に持てないでいる。
心にある自責の念を、僅かに勝っている恐怖が押さえつけているのだ。
その小さな差が、たった一歩に絡み付いて動けないようにしていた。
「今日は、るーちゃん来そうもないな………」
久々に会った姉のような存在を思い、泣きそうな顔になる。
そして、その姉のような彼女を思うたび、申し訳なさで自分が嫌になっていた。
自分では理解している。
どうしようもない程に意固地になっていることは、側から見ても明らかだ。
一緒に暮らそうと何度も言ってくれるのに、それを受け入れられないでいるのは、まだこの場所に未練があるから。
だから、ルージュリアをこの家に泊めることは決してしなかった。
いつか、この家に家族が帰ってくると信じていたから。
一番最初は、その家族がいいと願っていたから。
でも、そのくせに誰も来ないこの家で寂しいなどと宣っている。
そしてまた、自分勝手な自分を嫌悪する。
「………何で今日はこんなに考えちゃうかな………いいや。散歩にいこ」
むしゃくしゃした気分を晴らすべく、ガチャリと扉を開く。
そしてすぐに、顔を顰めた。
これ以上ないほどにわかりやすく。
「………………は?」
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ガキの尾行は簡単だった。
人通りこそ少ないが、そこは長年の経験がどうにでもしてくれる。
そうこうしてついていった先のあったのは、手入れのされていない家。
ただし、生活感がまるでないわけではない。
ただ、殆ど家として使ってないだろうなとは思った。
何となく、あのガキがどう過ごしていたのか分かった気がする。
さてどうするか。
このままガキを待つか。
普通にノックして開けてもらうか。
だが、妙な奴隷の件もあるので、ルージュリアに入れ知恵されてないとも限らない。
慎重に行くべきだろうと考えること5分。
向こうから扉を開いてくれた。
「………………は?」
そして、嫌そうな顔で開口一番そう言われた。
それに対して俺は、晴れやかにこう返した。
「ようガキ。遊びに来たぜ」
これ以上無く遠慮に、そういった。




