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第1197話



 「おぉ、普通の露天風呂だな」



 意外なことに、コウヤが案内したのはなんの変哲もない普通の露天風呂だった。

 混浴とか選ぶと思っていたので、少し安心した。




 「人すくねー」


 「時間も時間だからな。宿についてるわけでもないし、わざわざこっちに来ないだろ」


 「それもそうか」



 何にせよ、熱苦しくないのはいいことだ。

 身体を洗うのも面倒なので、生活魔法で汚れを落として早速風呂に浸かる。




 「お? 結構熱いな」




 いや、かなり熱い。

 足からジンジンと痛みまで感じる。

 温泉などろくに行ったことはないのでなんとも言えないが、まぁこんなものだろう。




 「温泉なんて俺初めてだわ。うお!? あぁっつッ!? なんだこりゃ!?」




 物珍しそうな顔で、湯水を触るコウヤ。

 やっぱり熱いらしい。




 「カイトには全くなかったのか?」


 「おー、全然だ。普通は魔法で済ませるやつ多いからな。この街みたいに特別に作られでもしない限りこういう施設は出来ないと思うよっ………ぉおお」



 


 全身真っ赤にしながら湯に浸かるコウヤ。

 歯軋りするほど熱いらしい。





 「ああああああああああああぁぁー………今日は疲れたなー………けど、久々に楽しかった」




 湯船にもたれかかりながら、コウヤは満足そうに笑っている。

 本当に、心から満足そうだ。


 だが、俺は少し疑問に思う。

 元々の目的であったナンパは失敗というのに、どうしてこうも晴れやかなのだろうか。




 「女引っかけられなかったのによかったのかよ」


 「あー………はは。それなぁ、なんというか………多分俺が思ってるのとは違うんだよ。俺もなんか迷走してたと言いますか」




 コウヤは、顔を隠すようにタオルを顔の上に置いた。




 「………俺はさ、相棒みたいなやつが欲しいわけですよ」


 「相棒?」


 「ん。だから、ただ女と遊びたいっていうよりは、彼女が欲しいのよ。四六時中、いつも一緒にいてくれる誰か。俺の唯一無二。いや、別にまるで下心がないわけじゃないけど………」






 合点がいった。

 女遊びがしたいにしては、女に免疫がないし、メルナからの誘いも断っていた。


 そもそも美人のリンフィアやミレア、G・Rにも反応しなかった。


 妙だと思っていたが、こいつは女と遊びたいのではなく、彼女が………いや、それこそ、相棒になってくれる誰かが欲しかったのだ。





 「これが記憶なのかもわかんないけど、ずっと前から思ってることがあるんだ。なんて言うか、俺はずっと物足りないんだよ。当たり前にあったはずのものがないっていうかさ。それは多分、記憶を失う前に俺が持っていた何かを失ったからだと思う。で、多分それは人だった。ううん、絶対に、誰かがいたんだ」





 でも、それも今はわからない。


 と、コウヤは寂しそうにつぶやいた。

 そして、俺の顔を見てこう言った。






 「だから、俺はお前が羨ましいよ」


 「俺が………?」


 「ああ。お前は仲間と、特に銀髪ちゃんからは本気で信頼されてるし、本気で信頼してる。俺は、そう言う関係が本当に羨ましい。お前らは、お互いがお互いにとって特別なんだろ?」


 「………ああ」





 そうだ。

 リンフィアは、俺にとって特別だ。


 いや、リンフィアだけではない。

 ずっと孤独だった俺にとって、仲間とは、友人とは特別なものだ。


 そのせいで、俺が少しタガが外れている。

 あいつらのためであれば無条件で命をかけるし、なんだってしてやれる。





 「………………?」




 しかし、ふと思ったことがある。


 あいつはいつもみんなよりも一歩内側に、俺の近くにいる。



 何を隠そうとしても気づいてくる。

 でも、それを暴こうとはせず、信じて待つ——————のではなく、それを理解して動いてくれる。


 

 たまに無茶して叱られるが、その上であいつ自身無茶だってする。


 先代命の神と戦った時に、それは確証と共に実感した。

 こういう無茶でネジの外れたやり方は、どちらかというと俺に近いものだ。


 だからたまに思うのだ。




 どうしてあいつは、こんなに近くにいるのだろうか、と。



 俺があいつを奴隷の身から救ったからだろうか。

 最初の仲間だからだろうか。










——————






 じゃあ、神様と女神様だね——————






——————















 「ッッ——————」










 今、何かが見えたような——————





 「? どうした金髪」


 「………いや」




 まさか。と頭を振った。

 俺の記憶力は昔からのものだ。


 多分、物心ついてからあったことは一つ残らず覚えている。

 だから、今のはきっと、記憶じゃない。


 俺のものじゃない。




 それに、ごちゃごちゃ考えるまでもない。

 俺もリンフィアも、互いに信用しきってる。


 それで十分だ。






 顔を濯いで少し考えをリセットする。

 今あるモヤモヤはひとまず洗い流そう。


 考えるのは、いつだっていい。





 「いいんじゃねーの、彼女探しもとい相棒探し。けど、忘れねーか?」


 「何をだよ」




 俺はグッと拳を突き出した。




 「今の俺の相棒は、お前だ。今度の大会、きっちり勝つぞ」


 「!」



 コウヤは照れ臭そうにそっぽを向いて、そして拳を突き合わせた。



 「お前の、じゃなくて俺の、だ。そこんとこ重要なんだぞ金髪」


 「細けーやつだな。変わんねーだろうが」


 「いいや違うね。俺メインがいいもんね」


 「それはそれでなんか癪だな」


 「なんでだよ!!」





 それからしばらく、のぼせるまでずっと喋ってたまに酒飲んで時間を過ごした。


 こいつの事を、少しは深くまで知れた気がする。

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