第1196話
ストルム某所。
ここは、温泉街から少し離れた場所にある少し安めの宿。
メルナは、パートナーと共にここに滞在していた。
「もう少し飲もうかしら………っと」
扉を開けると、そこには見慣れたボウズ頭が黙々と座禅を組んでいた。
メルナは少し頬を綻ばせると、ご機嫌な様子で男に話かけた。
「ただいま!」
「………」
しかし、返事はない。
相変わらず、やってるかどうかもわからない会釈だけで返事をしない男にため息をつくメルナ。
だがもう慣れているので文句は言わなかった。
その代わりに、
「っ!?」
「た・だ・い・ま!!」
返事をするまでしがみついていた。
目つきの悪い男はいまいち睨むことができず、仕方なさそうに返事を返した。
「はぁ………………おかえり。全く、返事なぞどうでもいいだろうに………」
やれやれと言いながら座禅を崩す男。
彼の名はゼロ。
かつてミラトニア王国最大の冒険者都市・フェルナンキアに攻めてきた魔族国家・エヴィリアル帝国に召喚された異世界人の1人だ。
その際、ケンと戦闘になり、敗北した過去を持つ。
そのため、ケンとの面識はある。
このフェアリアでも、カイト周辺の鉱山にてケン一行と再会をしている。
「愛する彼氏から無視されるってのはなかなか辛いものよ、零二」
「そちらの名は捨てたと言っただろう。芽瑠奈」
「貴方も名前で呼んでるじゃない」
「お前が呼べと言ったんだろう」
そして、メルナもまた、エヴィリアル帝国で召喚された異世界人の1人であった。
「そう、ヒジリケンに会ったわよ」
「なに!?」
ガタッ、と慌てて立ち上がるゼロ。
心配や警戒もあるが、何より敗北の記憶が色濃く残っていたために、少し過剰に反応していた。
「落ち着きなさい。敵対はしないと決めたでしょう? ランフィールの姉………先代魔王を守るためにもね」
「ああ、リンフィアだったか………そうだったな」
落ち着いたゼロは、再び座ってあぐらをかいた。
「ねぇ、あの子は?」
「依然起きる気配はない。あれだけの傷だから仕方ない………と言いたいところだが、身体は癒えているのでなんともな………やはり精神的な原因があるのだろう」
「そう………」
メルナは心配そうに寝室の方をじっと見ていた。
だが、すぐに切り替えて別の話に移った。
「そうだ零二、ヒジリケンから渡されたものがあるの」
「俺にか?」
「ええ。えらく小さいのだけれど」
メルナはケンから渡された小袋をゼロに手渡した。
中はかなり軽い。
罠を一瞬疑ったゼロだが、今更それも考えにくいと切り捨て、すぐに袋を開いた。
するとそこには、小さな紙とコインが入っていた。
「なんだこれは?」
「その紙に何か書いてあるんじゃないかしら?」
ゼロは訝しげに折られていた紙を開いた。
紙には、ご丁寧に日本語で文章が書かれていた。
【一応、日本語で書いとく。これは俺たちが異界童話というクエストをこなして獲得した特別なコインだ。これがあれば、ある特殊なミッションが受けられると思う。俺たちはお前らの知ってる通り、管理者に目をつけられてるせいで、どんな邪魔が入るかわからない。だから、これはお前らに託す。もう一枚の紙に、このコインの詳細と、この世界の情報を色々と書いた。参考にしてくれ】
「………これ、どのタイミングで書いたのかしら」
偶然あった筈なのに、まるで渡すのを決めていたかのような内容にメルナはゾッとしていた。
「裏もあるな」
ひっくり返して読み始めるゼロ。
そこには特に重要な内容は書かれていなかった。
が、見過ごせない内容は書かれていた。
【俺は、この国をどうにかしてあのクソッタレの管理者から取り返してやりたい。だから、恥を忍んで頼みたい。いつか、俺たちに力を貸してくれ】
「「………」」
そっと手紙を閉じ、袋に戻すゼロ。
「力を貸してくれ、か」
「どうする? 今は敵対する必要はないけれど、結局のところ彼は敵よ。しかも、この世で一番生かしてはおけないほどの脅威。手を貸しても——————」
「しまっておけ」
ゼロは見向きもせずその手紙をメルナに渡した。
しかし、
「無くすな。その用事が終わった時に叩き返す」
どうやら、協力はするつもりらしい。
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「酔いも恋も覚めちまった………ハハ」
酔い覚ましをコウヤにやった直後、フラれたことを思い出してショックを受け出した。
面倒な気配がプンプンする。
「元気出せよ。またナンパすりゃいいじゃねーか」
「………いや、ナンパはもうやめだ」
へたりこんでいたコウヤは、何を思ったのかスッと立ち上がってこう言った。
「せっかくの温泉街だ。酒で晴らせない嫌な気分はこっちで晴らしてやる。行くぞ金髪!」
「へいへい」
もう夜も遅いが、ここまで付き合ってやったのだ。
もうしばらく、付き合ってやることにした。




