第1195話
「さて、何を話そうかしらね」
ジョッキを置いて、メルナはこちらを伺うようにしてそう言った。
「ネタもないのに誘ったのかよ」
「あら、いけないかしら」
そう言ってはいるが、一切意図が見えない。
おそらく、なんの気なく誘ったという訳はないだろう。
「確かに、なんでいつも1人で飲んでるんすか? お仲間さんいたでしょうに」
「お仲間?………ああ、彼らね」
一瞬、なんのことかわからないと言った様子であった。
妙な反応だと思っていると、メルナはこんな事を言い出した。
「コウヤ君が見たのは別に仲間ではないわ。あれはあれで別のプレイヤー。何故かは知らないけれど、この街には今かなりの人数のプレイヤーが集まってるわ」
「やっぱそうなのか………」
レイターの遺言通りなら、残りのグループは確か8つ。
うち一つが俺たちであるとして、少なくともここにはメルナのグループと奴隷のグループとで、3グループは集まっている。
「メルナさんは、なんでそんなこと教えてくれるんすか? 一応敵ってことになるのに」
「!?」
酔ってるせいか、どストレートにコウヤは聴き始めた。
気にはなっていたが、まさかこうもはっきりと尋ねるとは。
「ふふ………彼が貴方達を気にかけていたから、かしらね」
「彼? 誰っすか、それ」
ふと一息つくメルナ。
カチリとスイッチが入ったように、重い表情になる。
いつのまにか、コウヤも背筋を伸ばして話を聞こうとしていた。
「………本音を言えば、管理者にちょっとした仕返しがしたいのよ。私たちの王候補は、もうとっくに殺されているから」
「!!」
「聞いたわよ。貴方達今プレイヤー達の的にされているんですってね」
ニヤリ、と。
意地の悪そうな笑みを浮かべながらメルナはそう言った。
だが、
「白々しーわ」
「あら、つまらない」
脅す気も敵対する気もないのはわかっていた。
「敵の敵は味方ってわけね」
「ええ。こんなあからさまな妨害仕掛けてくるってことは、管理者にとって貴方達は都合の悪い存在ってことじゃない? だから、協力してるの。もう争う意味もないしね」
確かに、王候補を失った今、こいつがやるべき事は何もない。
強いて言うのならこの国からの脱出だが、それに関してはおそらくこいつも把握していないのだろう。
要するに、暇なのだ。
「そういう訳だから、何かあったら協力するのもやぶさかではないわ。やられっぱなしは私の矜持が許さない。偉そうにふんぞり返っている奴が滑落していく様を見るまではね」
「!」
これまで見せなかった野生的な笑み。
恍惚とした表情で何を思い浮かべているのだろうか。
周りの連中のコウヤも、まんまと見惚れているが、こういう奴らが引っかかるのだろう。
なかなかに危険な女だ。
「やっぱー、ちょー美人っすねー。メルナさん」
「そう? ふふ、ありがと」
「控えめに言って、お付き合いさせていただきたいっす」
コウヤは、目が据わったままとんでもないことを言い始めた。
気がつくと、隣には空のジョッキがずらりと並んでいた。
だが、酔った勢いにしてはしっかりと頭を下げている。
少し結果は気になるところだが、
「ごめんなさいね。私、カレシ持ちなの」
「あぁ………そうすか」
案の定撃沈であった。
「けど………最近あの坊主、全然相手してくれないのよね。だから、少しなら付き合ってあげてもいいけど」
ずいっと身を乗り出すメルナ。
周りも何故か固唾を呑んで見守っていた。
しかし、
「いや、俺浮気とか絶対ダメなタイプなんで。キョージってやつれす」
意外にも、コウヤははっきりと断った。
これにはメルナも思わず目をパチクリとさせている。
確かに、外でナンパしてた奴のセリフとは思えない。
「ふふふ………まさか、冗談をこうも真剣に返されるなんてね。まぁ、好感は持てるわね」
メルナはどこかおかしそうに笑いながら座り直した。
そして、酔い潰れたコウヤをよそに、もうしばらく飲み続けるのだった。
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「貴方………強すぎない?」
「まーな」
頭を抱えながら、メルナは俺にそう言った。
どうやら、この肉体でも酒に強く設定されているらしい。
再現度の細かさに寒気すら覚えるが、正直今に始まったことではないので、気にするのも無意味だろう。
「うぅ………少し飲み過ぎたかし、ら………あら?」
酔い覚ましの魔法をかけておいた。
これで頭痛も治るだろう。
「酔いたいなら帰って飲み直せ。家で飲んだ方が安全だろ」
「意外と紳士なのね、不良みたいなナリして」
「不良ねぇ………」
この髪型や髪色は、正直こちらでは不良とは言い難い。
理由は単に、俺よりも派手な色のやつが多いからだ。
つまり、金髪が不良という概念はある人種のみが持つものだ。
「………」
薄々感じていたが、今確信を持った。
それを突きつけてもいいが、まぁ今じゃなくていいだろう。
どういうつもりかは知らないが、協力する気のあるうちは協力しておいた方が良さそうだ。
「じゃあ、帰るわね」
「ちょい待ち」
俺はメルナに向かって小袋を投げた。
「? これは………?」
「そうそう借りを増やすわけにはいかねーって、ゼロの奴に言っとけ」
「!!………やれやれね。流石って言っておいた方がいいかしら?」
「何も聞くな、何も聞かねーから。しばらくは共闘しとこうぜ」
俺がそう言うと、ため息をついて踵を返した。
何か言いたげだったが、言わずに済んでほっとしているようにも見えた。
どうやら、向こうの事を荒立てる気はないらしい。
それでいい。
今は敵対する必要はないのだ。
お互いに不可侵。
その暗黙の了解をたて、奇妙な飲み会はお開きとなった。
「………さて、こいつはどうするか………」
一応、コウヤは起こしておく事にした。




