第1194話
宿に滞在し始めてはや7日。
神威以外は、この肉体の構造的にどう修行しても無駄なので、基本的には道具作りや買い物などで暇を潰している。
基本的にはリンフィアが引っ張ってくれるので特に問題はない。
俺は、だが。
「もうたくさんだーッッ!!」
コウヤはテーブルを思い切り叩いてそう叫んだ。
とりあえず、跳ね上がったコップをキャッチして、この先の会話を予想してため息をつく。
「おい金髪!! 俺はお前だけが幸せなのが許せん」
「クソ野郎だな」
思ったより酷かった。
だが、そうなるのもわからないわけではない。
“今は” 暇つぶしが難しいのだ。
この大会のルールのせいで戦闘が出来ないので、冒険者としての仕事の大半ができない。
修行もろくに出来ない。
まぁそれでも何も出来ないわけではないが、旅先のしかも同じ街を見回り続けるのも限界はある。
鬱憤が溜まるのはわからなくもない。
「だから、お前も付いてくれば良いだろ。リフィもいいっつってんだし」
「馬鹿野郎!!」
「おっと」
飛んできた右フックを、軽く上体を反らして躱した。
格闘スキルが低いので予備動作がかなりデカかった。
「避けるんじゃねぇ! 俺と青春を送れ!!」
「なんかヤだわ」
「嫌とか言うなっ!!」
と、誤魔化されているが、こんなふうに前から頑なに拒否してくる。
俺が1人の時か、ルージュリアがいる時じゃないと一緒に出かけようとしないのだ。
まぁ、こいつが嫌だと言うのなら、何か暇を潰せるような事を考えてやろう。
と、思っていたが、
「こうなったら………ナンパだ、金髪」
その気は失せてしまった。
「はぁ………お前、このあいだ酒場で会った女はどうしたんだよ」
「そうれはそれ! これはこれ! いいか、自分のもののなったわけじゃないのにこだわってたら彼女なんぞ一生出来ないの! 全く………これだから恋愛素人は………」
恋愛などしたことがないのでこればかりは何もいえない。
「行くぞコラ! お前も手伝え!」
「うぉ、お、おいおいおい」
是が非でも俺を連れ出そうとするコウヤ。
面倒な予感がするのであまり乗り気ではないのだが。
「おいちょっ………夜中で歩いたらリフィに怒られ………」
「へっ、知ったことか!」
結局そのまま連れ出されてしまった。
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この街は、昼と夜とでは全く異なる顔を持つ。
子供や年寄りの姿は消え、男女の行き交う色街へと変貌する。
これだから出るとリンフィアに怒られるのだが、言い訳もそこで頑張っているし、まぁよしとしよう。
それに、今の目的からすれば、この方が楽なはずだ。
………そのはずなのだが、
「これで10連敗っと」
「ああ、やめてくれ………もうちょっと有名になりつつある………」
なんというか、下手くそなナンパだった。
見つけた側から話題もないのに話しかけて急にお茶に誘う。
そんで失敗。
最後の三人くらいからはもう明らかに逃げられていた。
前までは流と同じ雰囲気を感じていたのだが、はっきりと気のせいだったとわかる。
やはりこいつはろくに交際経験もないし、恋愛をしてこなかったのだ。
当然といえば当然だ。
記憶喪失なのだから。
だがそれ以前に、
「緊張しすぎ」
「うぐ………」
「相手選ばなすぎ」
「ぐぬっ………!」
「そもそも会話が下手」
「うぐぬぬぬ………………」
ダメすぎる。
正直、これがなかったらゴリ押しでもナンパなんて言うのは成立する。
こんなところに来ている奴の7割くらいは遊ぶか暇つぶしが目的なのだから。
「じゃっ………じゃあ誰ならいけるんだよ!!」
む。
確かにそう言われると厳しい。
そもそもこいつがダメな時点で無駄な気もする。
が、一応探してみる。
すると、
「んー………………お、あいつは………おい、耳貸せ」
「ん?」
俺は奥の方から歩いてきている、心なしか元気のない女を指差しながら、少し指示を伝えることにした。
「い、いやでも、あの美人は無理だろ」
「いや、多分いける」
「………ちょっと行ってくる!」
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数分話した後、コウヤは満足そうな顔で帰ってきた。
「いやー、素晴らしい。泊まってるとこ教えて貰っちゃった」
「やっぱな」
まぁなんと言うか、予想通りだ。
「でもなんでわかったんだ? あの人いけそうって」
「見た感じ強そうだし、大会出場者かもって思ったんだよ。後はなんか退屈そうだったし、ちょっと押せば簡単にいけると思った」
後は見た目が派手で、完全に男ウケを狙っていた。
要するに、絶賛男募集中だったわけだ。
「心理戦は専門じゃねーけど、基礎が分かってりゃ戦うもナンパも変わんねーよ」
「くぁーっ、ムカつくなこいつ………けど参考になったな。あんな感じの人ならいけるのか………」
と、成功した側から次を狙う欲の塊がそこにいた。
思わずこちらもかぶりを振って呆れた。
この胆力があるのに、なぜ緊張するのやら。
「じゃあ次は………………おっ!! あの人は——————」
「あ?」
ノリノリで次を指さしたと思ったら、その側から固まった。
何かまずいものでも見たのかと、固まった方角をみると、そこには派手なドレスを着た、紫髪の女がいた。
見たところ、これと言って違和感はないのだが、
「………………あ、そういや確か………」
こちらに気づいて近づいてくる女の耳を見て、すぐに理解した。
あいつ、人間だ。
そして多分、先日コウヤが酒場で会ったという女だ。
「コウヤ君じゃない。奇遇ね」
「メルナさん、こんばんわっす!」
「うふふ、こんなところでなに、ナンパでもしてたのかしら?」
「そそそっ、そんなわけないじゃないっすかっ!」
思わず頭を抱えそうになる嘘の下手さ。
メルナと呼ばれた女も思わず笑っていた。
「冗談よ。それで、 そこの彼はご友人?」
「ああ、はい。こいつは——————」
「いえ、大丈夫よ。彼、人間界では有名人だから」
やっぱり、顔を知られている。
有名人………顔が割れているというのも面倒な話だ。
「丁度いいわね。暇だったし、少し飲まない? あなたもどう? ヒジリケン君?」
別にどうでもいいが、今はコウヤの時間だ。
好きに消費するわけにもいかない………と一瞬でも考えた俺がバカだったと思うほど、コウヤは強く首を縦に振っていた。
仕方ないので、俺も同行することにした。
全く、思いがけない面倒ごとだ。




