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第1191話



 「行っちゃいましたね」


 「ん? ああ」




 ハルバードは、ルージュリアを連れてそそくさと何処かへ去って行った。

 お掛けで宿を探すのは後になりそうだ。




 「ケンくんは仕方ないとして、私まで怖がられるなんて………ちょっとショックです」


 「おい」



 なんという言い草だ。

 本来なら怖がられるのは魔族のお前だというのに。



 「………あ、逸れても大丈夫なんですか?」


 「問題ない。エルをついて行かせたし、連絡ならいつでも取れる」



 それに、()が分散した方が色々と見て回れるというものだ。




 「うーん、その間どうしますか?」


 「観光!………といきてーけど、大会の受付済ませとかなきゃだな」


 「じゃあ、終わったら観光ですね。受付、コウヤくんいないけど、大丈夫ですか?」


 「多分な」



 一応、ポーチの中にコウヤの冒険者プレートも入っている。

 本人はいないが、身分証明示はなるだろう。



 「リフィ、お前どうする?」


 「一緒がいいです」



 ふと思い返せば、2人で観光なんてのは久々かもしれない。

 前はちょくちょくやっていたが、特に最近はミレアの護衛もあってろくに見回っていない気がする。


 そう思うと少し楽しみだ。




 「そか。じゃ、行こうぜ」




 受付の後、どうするかを話しながら、ぶらぶらと会場へ向かった。


 この時までは、まだ余裕だったのだが、












——————————————————————————————












 「………………何?」


 「ですから、大会参加者の当日までの戦闘は禁じられます。場外乱闘等、不正防止のためのお告げですので、ご了承下さい」




 予定外の制限がつけられてしまった。

 無視したいところだが、“お告げ” という事は違反した場合バレる可能性も高い。


 下手なリスクは負えない。



 「………ちなみに、外での経験値稼ぎは?」


 「戦闘そのものが禁止されますので当然禁止です。ただし、大会までの期間中はあらゆる攻撃が無効化されますのでご了承下さい」


 「!!」



 正直、信じられない話だが、管理者が関わっている以上ないとも言い切れない。

 これは、なかなか厄介なことになった。



 「では、こちらで大会のルールをご確認ください。予選が1ヶ月後となりますので、パートナーの選手とともに当日会場入りをお願いします」














——————












 「どういう意図なんでしょうか………」


 「さぁな………けど、お陰でこのまま大会に参加する羽目になっちまった」



 経験値が稼げないのはかなり痛手だ。

 正直、相当厳しい戦いになるだろう。


 何処まで喰らいつけるか。

 いざとなったら、また三重魔法を使うしかない。




 「………人間」


 「ん?」




 ポツリ、と。


 突然人外っぽい発言をかましたと思ったら、リンフィアは妙に神妙な顔をしていた。





 「ケンくん、あそこ」


 「あそこって………………っ!?」




 リンフィアが指を刺した先。


 目の前の闘技場にある鉄格子の向こう側に、数名の人影があった。

 そこにいる数名の奴隷らしき人物の中の1人に、人間がいた。




 「あれって………プレイヤーですか………?」


 「多分な………」





 ボロい布だけを着せられた人間。

 異様に表情の暗い、坊主頭の男だ。


 その隣には、前髪の長い無愛想なシルフの女がいた。


 おそらく、あれが王候補だ。




 「最初のミッションに失敗したんだろうな」


 「コウヤくん達が襲ってきたミッションみたいなものですか?」



 「ああ。あれで逃げられなかったやつは、多分強制的になんらかのレッドカーペットをさせられるんだろうな」



 そして、レッドカーペットを始めてしまった以上、奴らに未来はない。

 例え全員を倒そうが、レッドカーペットに逆らえば消されるという絶対の掟がある限り、その運命からは逃れられないのだ。




 「それにしても………誰も信用していない、みたいな顔ですね」




 確かに、目からは一切の光が消えていた。

 ここからでもわかる壁の張り方をしている。


 隣にいる奴以外、誰も信じていないのだろう。


 


 「王様になるって意気込んでやってきた先で、いきなり奴隷にさせられたんだ。無理もねーさ」



 ああいう奴がせめて死なずに済むように、俺たちが管理者を倒さなければならない。


 そのためにも、この大会は優勝しなければ。



 「さて、せっかくの温泉街だ。色々見て回ろうぜ」


 「あ、私“あしゆ”っていうのが見たいです!」


 「足湯の文化もこっちにはないんだっ、とと」






 よそ見をしていると、肩をぶつけてしまった。





 「悪い、ぶつけちまった」


 「いや、私もよそ見してた。すまない」




 なかなか礼儀正しい男だと思いながら、ふと視線が顔の方を向かう。


 すると、





 「!」





 ぶつかったのは、シルフの男だった。

 深緑のオールバックヘアで、後ろは腰ほどまである長い三つ編みだった。


 なかなか強烈な見た目だが、やはり妖精だからか例に漏れずイケメンだ。

 コウヤが因縁をつけそうなくらいだ。



 いや、それはどうでもいい。



 この立ち姿、これは………かなり強い。







 「もしかして、アンタも参加する口か?」


 「? そのつもりだが、君——————ぁ」





 何かを言おうとしたが、こちらの顔や耳のあたりをジロジロ見た後、飲み込んでしまった。


 十中八九、人間だと気づいたからだろうが、一体何だったのだろうか。





 「コホン、ああ。参加するつもりだ」


 「じゃあ、戦うことになるかもな」


 「………君も出るのか?………技はかなりのモノだとお見受けするが………」


 「ん? まぁ、な。はは」




 つい苦笑いしてしまった。


 確かに、肉体の強度的には弱いどころではないだろう。

 あまりにも酷いものだ。



 「ま、弱くてもイイセン行くと思うぜ?」


 「へぇ………それは楽しみだ。では、また今度会場で」




 男はそのまま、人混みに消えていった。

 不思議な男だ。




 「貴族階級の人でしょうか」


 「そんな感じの服だったな」




 どの道、単なるお坊ちゃんではなさそうだ。

 それに、どうやら周りも今の会話に聞き耳を立てていたようだ。


 武者震いでは済まなさそうなほどの強敵ばかり。

 数も決して少なくない。



 これは、いよいよどうにかして強くならなければ。

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