第1190話
数日かけて山道を抜け、俺たちはストルムがある北サンマウロック山に到着した。
想像以上に魔物の気配が多い。
ろくな道もないので、これは登るのが大変そうだ………と、思っていたのだが。
「良かったですね。わざわざ登山せずに済んで」
「こりゃ楽ちんだな」
誰が用意したのか、一本で頂上へ行ける乗り物に乗ることができた。
いや、誰なのかは明らかだ。
これは、俺たちの地元の乗り物なのだから。
「ロープウェイか………」
「ろーぷうぇい?」
リンフィアははてと首を傾けた。
こっちの世界にはないらしい。
当然と言えば当然か。
「こっちでの呼び方は知らねーけど、俺の地元………まぁ異世界のあちこちにあるもんだ。便利な事に魔物避けもしてるっぽいし、楽に山頂までいけそうで何よりだ」
「でもいいんですか? まだ終わってないんですよね、経験値集め」
「ああ。けど、移動を考えなくていい分、山頂を拠点にしてモンスター狩っていったら問題ないと思うぜ。後もうちょいだし」
道すがらモンスターを狩って来てよかった。
あと数体倒せば、いよいよ俺の欲しかったものが手に入る。
ここまで経験値を貯めた甲斐があるというものだ。
「なぁ、金髪。自由人と待ち合わせとかしてないの?」
「してねーよ。別に、そのうち見つかンだろ。いざとなれば目もあるし、本番前には会場でうろつくだろうし」
「適当な奴だなぁ、お前………………ん? この臭い………」
コウヤに言われて俺も気がついた。
鼻の奥に残るような硫黄の匂いが、風に乗ってやって来た。
窓から少し顔を出すと、もうはっきりわかる。
「ついたか。すぐ降りるぞ。これ止まらねーから」
「わわっ、止まらないんですか」
少し駆け足気味に扉のない入り口から急いで降りたそこは、こじんまりとした駅だった。
と言っても、門だけなので駅かどうかも怪しい。
足は自然と門の向こうへ向き、すぐにそこをくぐった。
そして景色は、一瞬にして変化した。
「こりゃ………マジもんだな」
これまでの街とはまた雰囲気の違った、レトロな温泉街であった。
岩山の谷にある崖を切り崩して作ったらしい。
馴染みのある造りの建物と街の雰囲気は、何処となく日本の様相を模している。
おそらく管理者の趣味だろう。
「懐かしき日本の街並みってか。コウヤ、多分お前の故郷の文化だぜ」
「おお、見え………み、え………………えぇええ見えねぇええええ!!」
何かと思えば、いきなり崖の下に見える露天風呂を覗こうとしてたらしい。
「ホント思春期だなオメー」
「タメが何言ってんだ!? モロ見えの風呂だぞ!! 死んでんのかお前!? おじいちゃんかッッ!?」
誰がおじいちゃんだ。
恐らく、認識阻害のようなものを貼っているのだろう。
えらく強力だ。
多分、管理者直々のものだ。
「見えないにしてもなんかちょっと………」
「大丈夫ですよ、リンフィアさん。部屋風呂も充実していますもの」
「本当ですか!」
わはーと笑顔を浮かべるリンフィア。
見えないとはいえ、流石に女子にこの野ざらしの風呂が厳しいか。
「って、お金は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。ガイアナのダンジョンで組織の連中の身包み剥いできたから」
「流石だな金髪。見直したぜ」
「おうよ。あんな連中に使われるより俺たちが使った方が有意義だっつー話だ。てなわけでほいっと」
コウヤとリンフィアにそれぞれ滞在中の資金を投げ渡した。
「大体今ある全財産の1割ずつだ」
「1ィ!? この額でか!? どんだけ取ったんだよ!?」
リンフィアも目を丸くしている。
いい子ちゃんのこいつの良心がどんどん潰れていくが、ここは我慢して欲しい所だ。
「じゃあまずは宿探し………」
「うっひょあー!! 大金持ちだぜええええ!!」
「………」
走り去るコウヤを追いかける気は起きなかった。
あいつは後でしばくとして、とりあえずは宿探しだ。
「ルージュリア、宿どっかいい場所ないか?」
「そうですね。案内しま——————」
ヒュンッ、と。
何かの影が視界と間合いに触れた。
気がつくと手には武器を。
視線は影を捉え、殺気を剥き出しにした。
「あ?」
「ッッ!!」
「ひっ………!!」
すると、その影は小さく悲鳴を上げながら足を止めた。
斬るのは簡単。
しかし、敵意はやけに小さい。
それに、
「………ガキ?」
そこにいたのは、白髪のシルフの子供だった。
女顔に加えてポニーテールなのだが、一応男のようだ。
「ハル!」
こちらが戸惑っていると、ルージュリアが名前を呼びながら飛び出していった。
その途端に子供に顔が晴れ、向かってくるルージュリアにしがみついた。
状況は、すぐに理解した。
「………あー、そういうこと」
俺もリンフィアもすぐに武器を収めた。
敵意があったという事は向こうにも誤解があったらしいが、多分敵ではない。
「るーちゃん、この人たち………」
「安心してください。彼らは味方です」
宥めるようにルージュリアはそう言ったが、どうやら納得していないらしい。
「えっ、で、でも………………こいつ、顔、悪い………」
「ふ!」
「何笑ってんだリフィ!」
このガキ失礼だな。
今いないあのクソガキを彷彿とさせる。
「紹介しますね。彼の名はハルバード。先程話していた少年です」
「………………ふん!」
ハルバードは、依然として俺に警戒を剥き出しのままそっぽを向いた。
こりゃ、手懐けるのは時間がかかりそうだ。




