第1189話
「………ダンジョンだと、墓も建てらないね」
さっきまでいたダンジョンの中央を見下ろしながら、『ノーム』はそう呟いた。
流石に酔いが覚めたのか、口調が素に戻っている。
会った時に見たようにおどおどする様子も、まるでない。
「あの子が言った通り、なんの救いもないよ。信じられる? たった1人が気まぐれに、なんの考えもなく、これだけ多くの子らの命を踏みにじれるのが今のこの世界さ」
そこには事情も、物語も、言ってしまえば理由すらない。
個人の気分が、多くのものを消し去ったのだ。
その力の前で、一度打ちのめされた『ノーム』の目には、一体どれ程の絶望に映っただろうか。
やっぱりか、と思ったのだろうか。
「あひひ。下らない………本当に下らない………っ」
「………」
また、酒を飲む。
だが、多分この男は、誤魔化しや逃避のために酒を飲む事はない。
身体と態度が大きくなり、いつもと違った真剣な面持ちが、それを教えてくれる。
「俺ァ、どう協力すれば良い?」
「アンタんとこの秘宝………地精のイヤリングが欲しい。そンで、一緒に戦って欲しい」
「あァ。お安い御用ォだ…………俺にできンのァもう、せいぜい仇討ちか、罪滅ぼしくらいだからなァ」
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ダンジョンを数日かけて抜け出し、ここで『ノーム』とは一旦分かれた。
地精のイヤリングを取りに行く時に、同胞の墓を建てたいと言っていたので、それなりに時間はかかるだろう。
ついていくのもありとは思ったが、残念ながら大会まであと一月程しかないので、とりあえず先にストルムへ向かうことにした。
「いつの間にか大会まで一月かぁ。それを考えると、3ヶ月の修行はちょうど良かったかもだな」
「私たち、結構強くなりましたもんね」
「だな」
和気あいあいと語るリンフィアとコウヤだが、俺は微妙に混ざりにくい。
何せ経験値を貯めていたせいで俺だけ一切強くなっていないのだ。
「大丈夫なのですか? 今のあなた、みなさんと比べても引くくらい弱いですよね?」
「お前は処世術というのを習わんかったのか」
そう尋ねたが、ルージュリアはそんなのどうでも良いと言わんばかりの笑みを浮かべてきた。
この数ヶ月でこう言うやつだと言う事はいやと言うほど理解した。
「良いンだよ。モンスターならともかく、人間相手なら多少は戦える。魔法使いなら完封できンだぜ?」
「ああ、あの………………ズル」
「ズルって言うな」
確かに問答無用で魔法を消すのはズルかもしれんがあれは俺の力だ。
ズルではない。
多分。
「冗談ですよ冗談。うふふ」
「なんだ、やけに上機嫌じゃねーか」
「あら、お分かりになりますか?」
普段よりもニコニコしている気がする。
ストルムに何かあるのだろうか。
まぁ、わざわざ聞き出すものでもない………と思っていたが、
「知っている子がストルムにいまして。ふふ、久々に会うので少し楽しみなんです」
「男か?」
「だからモテないんですよ、コウヤくん」
「ふぐぅ!?」
リンフィアのストレートをモロに食らったコウヤ。
しばらくそっとしておこう。
「まぁ、男性は男性です。まだ10くらいの子供ですが。以前アクアレアにいた頃があったので、一緒に遊んでいたんですよ」
「へぇ。お前が子供とねぇ………よほど気に入ってンだ?」
「ええ。これがまた可愛い生意気なクソガ………んッんゥん!!! ………………男の子でして」
いよいよ隠す気ないな。
というか、いつまでこだわるつもりだろうか。
多分、素はかなり粗雑な性格なのだろうが、いつまで経ってもこの喋り方だ。
良い加減信用されても良いと思う。
と、一抹の寂しさを覚えたり覚えなかったりしてみるが、理由もありそうなのでここは黙っておこう。
「話すのもいいけどさ、ボチボチ行こうぜ、金髪。G・Rちゃん、きっと待ってるぜ?」
「おお、そうだな。顔見せに行くか」
もう馬車はない。
しかし生憎、今のレベルなら走ったほうが早いというもの。
俺も身体強化をすればなんとかついていけるだろう。
楽しいハイキングの始まりだ。
「よっし、行くか。ストルム!」
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「ハァ………はぁ………………あはは………ホント、助けられちゃったな、このスキルに………………でも………っ!」
息を顰め、隙間から敵を様子を伺おうと、僅かに顔を出すG・R。
しかし、その僅かな動作でさえも、激痛に繋がっていた。
痛みに耐え、歯を食い縛りながらなんとか誰もいない事を確認した。
「やっと………逃げ帰れた………………けど、これはもう………」
痛みのある場所に触れようとするG・R。
だが、そこには何もない。
腕が、ないのだ。
「あーあ………自分の身体じゃないけど、これは………辛い………」
次第に、視界が狭まっていく。
失血、体力の低下、諸々の原因が重なり、少しずつ、G・Rから意識を刈り取っていった。
「みん、な………戦っちゃ………だめ………………あいつ、は………——————」
肩の辺りを押さえていた手が、パタリと地面に落ちた。




