第1181話
現れたのは、これまでの奴とはまるで別次元の強さの男だった。
見た感じ妖精だろうが、恐らくはかなりの戦闘経験があると見た。
まるで隙がない。
何より、族長ですら僅かには見えていた底が、こいつからはまるで見えてこない。
「ミレア・ロゼルカはいない、か………だが、意外な有名人が守護者だった様だ。なぁ、ヒジリケン君?」
妙なノイズの入った声。
不信感満点の面やローブといい、怪しいにも程がある。
だが、正体はすぐにわかった。
「アンタが管理者か」
「!? この人が………!!」
さっき会話に入ってきた内容からして間違いない。
会いに行くつもりだったが、まさか向こうから出向いてくるとは。
「おかしな面つけてるから誰かと思ったぜ。つか、俺がいることは知らねーのな?」
「面は演出さ。デスゲームのゲームマスターってのは謎に包まれているべきだろう? それと残念ながら、僕は守護者の情報は何も知らない。君らはプレイヤーと言ってもモブだからね」
「知ることができない、だろ?」
鎌をかけてみたが、残念ながら表情は見えない。
だが、大した焦りはないように思える。
失敗したのだろうか。
そう思って少し心配していると、
「なるほど。穴があることはバレたか………ふふふ。いやはや………厄介なバグが入り込んでしまったらしいね。じゃあ、僕が手を出せない事もバレてるかな?」
「!!」
管理者はこの世界の穴をあっさりと自白した。
「僕にとってはどうでもいいことだからね。僕は純粋に、王の誕生を願っている。それだけさ」
ああ、なるほど。
あくまでも目的に関しては、そうである王の選別を見守るだけことを装うつもりらしい。
「けど、僕としては少し不安でね。消そうにも手は出せない不穏分子はかなり厄介なんだよ。君たち一体、レッドカーペットもなしに一体どうやってそこまでの力を手にしたんだ?」
「はっ、お前みたいななんでもありな奴に言うと思うか?」
「はは、それもそうか」
やけに余裕だ。
どうも、奇妙な感じがする。
「お前………俺たちが邪魔じゃねぇのかよ」
「初めは邪魔だったさ。中途半端に強いと、本当に強くなる前に王が決まってしまう。それじゃあダメだ。そんな王は相応しくない」
白々しく、身振り手振りで大袈裟にそう言っているが、結局『僕の餌として』相応しくないという話だろう。
「しかし、君らは予想をさらに超えて成長してくれた。いつからか、不快感は期待に変わったよ。ふふふ………楽しくなってきたって奴さ」
「………………………楽しい?」
ダメだ。
抑えろ。
今の俺じゃ太刀打ちできない。
これはもう、王云々の問題ではないのだ。
これまで犠牲になった妖精たちのためにも、独りよがりで台無しにはできない。
「ふーっ………」
ああそうだ。
ダメだよな………ガージュ、レイター。
「文句なら聞くよ? 一応作者だからね」
「そいつは後でとっとくさ。ンで、全部終わったらテメェの墓標にレビュー刻んでやるよ。クソゲーでしたってな」
「………へぇ?」
少しだけ、殺気が揺らいだ気がする。
侮辱と言えば侮辱だが、安い挑発だ。
しかし、やはり反応を見せた。
思った通り、ゲームには拘りがあるらしい。
「威勢のいいガキだ。だが、君がいる事を知れただけでよしとするよ。なんとなく、この速さで強くなったのも合点がいったからね」
パチン、と。
管理者は指を鳴らして、何かをしたらしい。
若干神威が動いたのが見えた。
「雪だるまが出ずに驚いただろう? 向こうで僕が足止めしていたんだが、たった今解放した。さっさ済ませてここを出ていくといい。遺跡にこれまでの攻略印を全て捧げれば出られる仕組みらしいからね」
「随分と気前がいいな」
「別に、君らが出ていかないと僕としても楽しめないというだけの話さ。それじゃあ」
「「!!」」
もう、姿は見えない。
地面の雪が弾け飛び、衝撃と共に耳の奥で暴れるような様な音と、微かに聞こえた言葉が残った。
「玉座で会おう、か………やっぱそこへ行く前に元の肉体が欲しいところではあるけど………」
「………」
リンフィアは黙って何かを考え込んでいた。
「どした、リフィ」
「いや、なんというか………………結局何をしに来たんだろうって」
「何って………………確かに、何だろうな?」
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『管理者様。いかがなさいましたか?』
ダンジョンの外の森。
管理者は、耳に手を当て、拠点にいるサポーターと通話していた。
表情は、僅かに暗い。
「メモに追加頼む。ミレア・ロゼルカの一派はしばらく放置だ。それと………陸の情報をピックアップしておいてくれ。ミレアのパーティにヒジリケンが居た………そんな重大な情報を隠していた以上、奴が何か企んでいるのは間違いない」
『イツワ・リク様………………………完了しました。捕縛されますか?』
「いい。しばらくは泳がせる………頼んだぞ」
それだけ言って、管理者は通話を閉じた。
そして、徐にポケットから一枚の写真を取り出した。
「………何百年来の付き合いの筈だったがな………よくもまぁ………………裏切りやがって」
そこに写っているのは、以前ケン達の前に現れた、緑髪のエルフの少年だった。
「久介は死んで、陸は裏切り………くく………呆気ないな」
丸まった写真が地面に転がり、風に吹かれてどこかへと消えて行く。
この写真が彼の元に戻ってくることは、もう二度となかった。




