第1180話
——————知らなかった。
あんな力を持っているなんて、微塵も気が付かなかった。
この3ヶ月、隠し通していたということだろうか。
わからない。
よほど徹底して隠されていたのだろう。
多分、私のために。
失敗したと言わんばかりの顔で私の顔を見ている彼の様子を見て、そう確信した。
自分でも、最近の私は少しおかしいと………いや、明らかにおかしいと気がついている。
ケン君達も、妙に気を遣っている様な気がする。
でもまさか、こうも隠されているなんて思ってもいなかった。
………でも、思ったよりも、怒りや嫉妬みたいな感情が、湧いてこなかった——————
「………あ、あのー………金ロールちゃん?」
「………貴方も人が悪いですね。そんな力を隠し持っていただなんて」
「!」
思ったよりも穏やかに話すミレアを見て、コウヤは目を丸くしていた。
案の定な反応に苦笑しつつ、ミレアはすぐにフォローを入れた。
「確かに………身内に差をつけられて、少し悔しいことは悔しいのですが、何故かそこまで強い感情は湧いてきません」
「へ? そう?」
声は聞こえてこない。
焦りも感じない。
そのことに一番驚いているのはミレア自身だった。
別に、全く対抗心がない訳ではなかったが、ついさっきのリンフィア相手に湧いてきた色々な感情が、今は大人しくしているということは間違いなかった。
では、リンフィアに負けたくないのか?
そう思って、ふと胸に手を当ててみる。
すると、
「っ………」
ドロッとした何かが、ほんの少し動いた。
負けたくない相手が、置いていかれたくない相手がもう1人いたことにミレアは気づいた。
そう、ケンだ。
「………よくわかりませんが、あの2人は特別なんでしょうね………」
「?」
誰にも聞こえない様にそう呟くと、ミレアはぶんぶんと頭を振った。
「あ………どうやら向こうも終わったみたいですね」
「向こう?………お、金髪もやったのか。へへ、意外となんとかなるもんだなぁー………っつっても、技量の割に戦い慣れてないあたり、経験値だけでどうにかやってきた部類なんだろうけど」
コウヤは倒れているノームを突いて、意識を確認しながらそう言った。
「それはそうと、随分と離れた場所で戦っていたんですね」
びゅうびゅうと、吹雪の音だけ聞こえている。
遠くから微かに感じる魔力が頼りだが、妖精である2人にはそれだけで十分なほどに、距離が測れた。
想像以上に離れているらしい。
「いやー、こいつやばそうだったからさ、万一の時に“翼”が使える様にと思って………いや結局バレちゃったんだけどな。戻んのにも億劫な距離だ」
「………もう、戻るんですか?」
「………おや?」
首を傾け、少しモジモジとしているミレアを、コウヤは不思議そうに見ていた。
「これはまさか………ラブコメの予感がする………!」
「私は悪寒がします」
「そんなこと言うなよ!」
すぐさまあしらわれるコウヤ。
それはさて置きと、真面目に話を聞き始めた。
「金髪………いや、銀髪ちゃんと喧嘩したか?」
「………そういうところだけは勘がいいんですから」
肯定とも取れるその言葉を聞いて、コウヤは少し考えた。
安全を考えたら、正解は間違いなく直帰だ。
だが、コウヤはそのすがる様な目を見てしまった。
「………」
そして、
「じゃあさ、すぐそこに遺跡があるから、ちょっと見てみようぜ」
少し、時間を置くことに決めた。
「遺跡?」
「ああ。今んとこ見てない最後のエリア。ここと雪山崩したら全部終わりっぽいよ」
離れたせいか、遺跡はすぐそこに見えていた。
「帰る帰んないは抜きにしてもさ、ちょい気になるだろ?」
「………………」
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「全然帰ってこねーな」
「ですねぇ」
まったりとお茶を啜りながら、そんな会話を交わしてみる。
見て貰えばわかる通り、戦闘はとっくに終わっている。
やはり、敵は技能を持っていても素人。
戦闘の運びは下手そのものだった。
あれならBランク冒険者の方が強いかもしれない。
それはさて置き、だ。
一応逸れない様にその場で止まることにしたのだが、ミレアもコウヤも戻ってくる気配がない。
まぁ大方、コウヤがミレアに付き合っているとかそんな具合だろう。
あの様子じゃ、ミレアも帰り辛いだろうし。
「………」
「そう落ち込むな、リフィ。あいつは今、ちょっと迷ってるってだけだ」
まだお守りも作動していない。
やっぱり、色々と精神的に不安定なのだろう。
「前までは、あんなに強さにこだわる子じゃなかったのに………」
「それはまぁ………確かにな」
何かきっかけでもあるのだろうか。
だが、詳しく聴こうにも、俺は色々と地雷っぽそうなのでおいそれと踏み込めない
さっきの怒鳴り方的に、リンフィアも恐らく地雷だ。
俺たちには負けたくない、という話だろうか。
「………ああ、やめやめ!! しょぼくれてんなよ、リフィ。あいつが不安定なら、俺らがしっかりしてねーとだろ?」
「………そうですね! 私はミレアちゃんの全てを受け止めます! 聖母のように!」
「お前、魔王だけどな」
いらんこと言うなという睨みをいただいてしまった。
「そういえば、ジュリちゃんのとこは随分とおとなしいですね」
「そんなん瞬殺だったに決まってんだろ。元族長と族長の娘だぞ?」
あー、と遠い目をしていた。
向こうはこっちのノームと違ってある程度戦闘経験のあるノームっぽかったが、負けるわけがない。
化け物が2人もいるのだから。
「戻ってないってことは、積もるお話があるんでしょうか?」
「あの連中、元々部下だって言ってたもんな。実際キツいだろ。仲間だったやつらが、頭のおかしいクソ野郎に使われちまってんだぜ?」
『悪かったね、クソ野郎で』
「「!?」」
振り向きざまに、暴風が吹き荒れる。
凄まじい衝撃で、体が吹き飛ばされそうになる。
どうやら、かなりの距離を一瞬で移動したらしい。
早いなんてものじゃない。
こいつは、絶対に戦ってはダメだ。




