第1177話
「やれやれすっかり置いてけぼりだな、金髪」
「なー」
ミレアもリンフィアも伸び伸びと戦っている。
こちらも別に戦っていいのだが、少し妙なことがあったので、まだ手を出していない。
「………戦闘態勢にはなってるんだよな」
「ん?」
キョトンとしているので、コウヤは特に疑っていないようだ。
確かに些末なことだが、妙に引っかかる。
戦いたそうにしている割に、ノームは一切攻撃を仕掛けてこない。
「おたくら、何でそんな怖えー顔して突っ立ってンの? 戦いたきゃ向かってくればいいだろ」
「先手は譲ってやるよ。さっさと来い」
向こうは剣士二人。
そこそこ離れた今の距離からなら、確かに攻撃を待つのもありだ。
が、見た感じ、向こうに待つメリットはない。
………いや、発想が逆か?
「コウヤ、ちょっと向こうで戦っててくれ。多分普通についてくるだろうから」
「? ああ」
コウヤは、2人いるノームの一人に視線を送り、少し離れた場所に向かった。
ここにいるのは、あぶれたノームと俺一人だけだ。
「お前が俺の相手か? ははは、こりゃ参ったなァ。見た感じ一番弱そうなんだが」
「じゃあサクッと倒せばいいンじゃねーの? アンタの言う通り、俺一番ひ弱だからサ」
と、煽ってみるが、反応はない。
不快そうな顔をするだけ。
今思えば、ミレア達と戦っている奴もそうだった。
向こうは、こっちが手を出すまで手を出してこない。
………いや、出せないのか?
もっと言えば、以前カイトでセルビアの声を盗んだ組織の男も、俺が足にクナイを刺すまで一切手を出さなかった。
まぁ人質には取られたが、それは厳密には危害ではない。
ピクシー族長のピクシルも、以前雪山で遭遇したこいつらもそうだ。
組織の連中に関して、俺たちが手を出す前に負傷したことは一度もない。
奇妙なルールだ。
偶然と片付けるのは簡単だが、目の前にいるこいつらは、少し怪しい。
「………」
「お? やるか?」
無造作に歩き出す俺に武器を構えるノーム。
それで戦えば別にそれでいい。
既に指輪は砕けた。
あとは起動させるだけ。
その前に、ひとつだけ確かめておく。
「………」
「ははは、無駄だ。何を考えているのかは知らんが、少なくともお前はどう足掻いても俺には勝てん。大人しく降参してろ」
「………」
「………おい、何とか言ったらどうだ。死にたいのか?」
「………」
「黙って近づいてくるんじゃねぇ!! 戦うなら向かってこい!!」
「………」
「お前………!!」
お互いに、剣の間合い。
力量的にも、相手はそれなりの剣術が使えるのはわかる。
だから、この状況は絶対にありえない。
『何かの制限』がない限り。
「攻撃しないな。やっぱ、なーんか怪しいと思ったンだよな。いやぁ、いい事知ったぜ」
「………!!」
「どう言うカラクリかは知らねーけど、お前らこっちが危害を加えない限り、一切攻撃出来ないんだろ?」
「………っ」
図星だ。
顔に出ているあたり、精鋭を集めたという感じでもない。
どういうつもりかは知らないが、今後敵を見極める一つの基準としては使えそうだ。
「ンじゃ、戦うか」
「は?」
理解できないノームの前に、そっと手を差し出す。
満面の笑みで。
「握手」
「………すると思うか?」
「逃げてもいいぜ?」
ノームは安い挑発だと鼻で笑った。
しかし、言葉とは裏腹に、まんまと握手に応じた。
「それじゃ、はじめー」
ピリッ、と。
ごく小さい雷魔法が発生し、ノームはわずかに眉を顰めた。
しかし、その直後、どうしようもないほどに笑顔になった。
飽和した殺気が、一気にこちらに向けられる。
凄まじい危険は感じる。
だが、やはり素人だ。
技術を身につけたんじゃない。
詰め込まれたんだ。
だから、足運びで動きがわかる。
「っと」
「!」
紙一重で拳を躱す俺を見て、ノームは忌々しげに舌打ちを打った。
直後、握手をした手を振り解き、そのまま剣で斬りかかろうとする。
そこで、ノームはようやくおかしな事に気がついた。
「!?」
「あ、そうそう、指見てくれたらわかると思うけど、これさっきの魔法で砕けたンだよ。使い捨てだから。手が引っ付いてンのはそのせいだ」
「こいつッ………!?」
展開魔法。
これは、使用した範囲にいた物体に雷属性を付与し、磁力を帯びさせる。
本来はこう言う使い方ではないが、俺の手に直接磁力を纏わせれば、こうして硬い握手ができると言うわけだ。
「本来複数の大量にかける魔法だ。アンタでも外せねーよ」
「ハッ、とんだ浅知恵だ、な——————」
ノームは剣を抜き、手を繋いだままの体制で斬り掛かかった——————直後、俺は手首を捻って、敵の体勢を崩し、剣筋を体の外へ逸らした。
「!!」
「これ、どっかで見たケンカの方法でさ、流石に剣を持った奴相手にやった事なかったんだが、案外どうにでもなるな。当たる気配ないし」
「………!!」
剣を振り回し、次々攻撃を仕掛けるノーム。
しかし、一切当たらない。
向こうは加減がわからないらしい。
どう捻れば相手が動くか、また相手が腕を固定させればどう動けば当たらないか。
俺にはそれがわかる。
昔はよく蓮とやったものだ。
あいつとは拳でやっていたが、要はやっていることは変わらない。
腕を利用して戦う。
それだけ。
「ここはわかりやすい世界だよな。経験値ってシステムのせいで、アンタはろくな魔法も使えない。土を動かしたところで、強度はたかが知れてるし、第一ここは自分も巻き込む。剣士ってのは不便だ」
「クソッ………魔法ぐらい俺も………っ!?」
そこそこの魔法を打ってこようとしたため、即座に術式を破壊した。
「術式破壊!? 人間が!?」
「あぶねー、さっさと手の内引き出そうと思ったらこれか、よッッ!!」
隙が見えた。
今なら、剣を弾ける。
そう思って手を思い切り蹴り上げた、が、
「!?」
「………なるほど。何かおかしいと思ったら、お前、技術に経験値を振りすぎたな?」
随分と的外れな推理だが、それはどうでもいい。
完全に虚をついたが、文句のつけようもないほどに押し負けてしまった。
どうやら、膂力の差は想定よりずっと酷いらしい。
「うわー、俺弱っ、っとぉ!?」
「!?」
と、自己嫌悪に陥っている俺の横を、大きなものが通り過ぎていった。
どうやら、どこかの決着がついたらしい。
今飛ばされたのは………
「お、お宅の仲間じゃねーか」
「!? エルゴズ………っ、おい嘘だろ!? 何でこんな雑魚どもに!?」
「魔法使いってことは………ミレアが一番——————」
「私一人でもやれたと言ってるじゃないですか!?」
この声………ミレアか?
怒鳴り声の方を見ると、そこには大声をあげているミレアと、それを宥めようとしているリンフィアの姿があった。
………あまり、いい状況ではないらしい。




