第1176話
「わー、やっぱ黒くなると黒くなるな、銀髪ちゃん」
やれやれと頭を振るコウヤ。
しかし、その呆れるような態度とは裏腹に、攻略本をこちらに投げて目配せをしてきていた。
触発されたらしい。
「どれ?」
「グラディエーターで」
「はいよ」
意識を本に落とし、知識を選び取る。
その知識は文字となって浮かび、本を飛び出した。
宙を舞う文字はコウヤの全身を包み、そしてゆっくりと溶け込んでいった。
「それじゃ俺も、変身!」
カッ!! と、強い光が生まれ、コウヤは姿を表した。
体に纏うのは、重苦しく分厚い防具。
身の丈ほどの剣を携え、相対する敵を睨む。
「お待たせ………って、アンタら随分待ってくれんのね」
「不意打ちで終わらせるのはつまらんだろう?」
「………ふーん? おっちゃん、あんまり俺を舐めると………ってぇ!?」
稲光が空を一瞬白く染めた直後、凄まじい衝撃音が鳴り響いた。
爆風で台詞を遮られたコウヤはすっかりおかんむりだ。
そしてその文句を言い切る前に、ミレアは敵の魔法使いに向かって行った。
「俺のかっこいいシーン台無し!? 変身シーンってのは何もしないってのがお約そ」
「3分………いや、2分………ううん、もっと………」
ミレアは、囁くようにそう言った。
腕を振り、裾の中から大量に何かを取り出して手に取る。
それは、幾つもの小さい金属片であった。
「申し訳ありませんが、すぐに寝てもらいます」
「小娘が………でかい口を叩くんじゃないッッ!!」
「!!」
ノームは地面を操作し、ミレアを囲うようにして周囲の地面が隆起させた。
一瞬にして逃げ道は塞がれ、残すは上空のみ。
しかし、その上空にも、巨大な石の礫がいくつも用意されていた。
「サンダースピア」
「五級魔法だと? ハッ、そんなもので何になる?」
嘲笑を通り越して、呆れ混じりでノームはそう言った。
だが、ミレアの声は、至って真剣だった。
「何になるも何も、これで十分ということです」
「は?」
岩壁で姿は見えないが、金属片はついさっき見えた。
弱い魔力に金属片………
どうやら、新技を使うつもりらしい。
「どの種族にも嵌まらない妖精王。彼が操るのはすべての自然であり、その魔力………この環境そのもの」
そう、ミレアはこの3ヶ月、全くと言っていいほどに神の権能を伸ばすことが出来なかった。
神威は成長しても、『裁定』の能力は何一つ変わっていない。
だから、ミレアはもう一つの力を伸ばすことにした。
『裁定』の起源は、【勇者のレッドカーペット】で得た神の権能だ。
しかし、ミレアはそれとは別に、王の力を手にしている。
妖精王の羽を取り込むことで、少しずつ得ていった力だが、そこはまだ決して伸ばしてはいなかった。
故に、ミレアは王としての力………………周囲の自然が持つ魔力を自在に操る力を強化させたのだ。
「囲ったつもりでしょうが、大間違いです。私の領域に、あなたが足を踏み入れたんですよ」
「世迷言を——————」
中心にあった、弱々しい魔力を中心に、何かが広がっていく。
無警戒、油断、慢心。
そう言ったものを吹き飛ばすように、その中心の魔力は、一気に膨張し、炸裂した。
「っ、壁が!?」
宙に浮いていた石の礫は悉く撃ち落とされ、壁に巨大な亀裂が入った。
やがて壁は瓦解していき、その中心には、虹色の羽を広げたミレアの姿があった。
それを見たノームは、酷く混乱していた。
確かに、ミレアが使った魔法は五級魔法だった。
しかし、そのちっぽけな魔法が、ここまで巨大なものを一瞬で破壊し尽くしたのだ。
状況だけ見れば、ただただ不可解。
しかし、ノームはすぐに答えを知ることになる。
「もう一度、お見せしましょうか?」
手のひらで転がすように、雷魔法を手に取る。
それはごく小さな電気の塊。
何の力もないその小さな球体は、
「増幅」
「!?」
数十倍に膨れ上がり、ノームに向かって飛んでいった。
しかし、流石に相手はAランク前後の力を持つ者。
すぐに土魔法で即座に盾を用意し、それを防いだ。
瞬間、
「ッ………矢だと!?」
巨大な矢が盾を貫通し、ノームの腹部へ向かっていく。
ノームは間一髪で地面を隆起させ、自分の身を上空へ打ち上げた。
混乱と焦りで表情が歪んでいく。
恐らく、油断の要因は俺たちを下手に知っていることだろう。
3ヶ月までに現れたミレアと、今目の前にいるミレアのそこに、あまりにも大きなギャップが生じたが故に、驚愕を隠しきれないのだ。
「あり得ん………たかが五級魔法が………」
「言ったでしょう? ここは私の領域………………ここの魔力は、私の魔力になる」
「領域………?………………まさか………!!」
上空から、見下ろすようにミレアを見つめるノーム。
これで三度目。
故に、はっきりと見ていた。
周囲に散った金属片が、ミレアの魔法に魔力を注ぎ込んでいたのだ。
自身の周囲だけでなく、自身の子機である金属片の周囲からも、魔力を吸収することに成功したのだ。
「上級魔法ならこうはいきませんが、低級であれば私自身の消費もあまりせずに済みます。つまり、今のを連続で使用することも出来ます」
いくつもの魔法を周囲に展開するミレア。
ノームの油断は、いつの間にか完全に消えていた。
「だから早く、倒れてくださいね?」




