第1175話
去年の戦争で、俺に追い込まれた先代命の神は、少しでもこちらに打撃を与えようと自身の作り出した『人形』でこちらの軍の壊滅を目論んだ。
弱体化したとて相手は神。
それが直々に作った人形が弱いわけもなく、それによって多数の死者が出た。
しかし、俺は用意していた魔道具の一種を使うことで、ルナラージャで戦っていた味方を、全員ミラトニアに飛ばす事で、被害を最小限に抑えた。
それが、今使っている指輪の魔法。
展開術式。
仕掛けることに特化した魔法であり、言うならばトラップ魔法だ。
この魔法具は、使用することでそれを一瞬で範囲内に仕掛け、追って効果を発動させる。
そしてその効果も、戦争時に使った展開術式と同様。
範囲内の空間を圧縮し、超速移動を可能とする。
使ったのは、吹雪の範囲内だ。
「「「!!?」」」
突然連れてこられた敵4人は、少なからず動揺を見せていた。
「おぉ!? なんだこれ!? どこだここ!!?」
こちらに若干一名、誰よりも驚いている男がいるが、気にしないでおこう。
とりあえず、分断には成功した。
天候も相まって、魔法具の効果をもたらす吹雪をかなり外まで広げたので、『ノーム』達と大きく距離をとることが出来た。
残るエリアが雪原と遺跡だけになったのは幸運だといえるだろう。
「4対4………ん、成功だ。これで丁度いいな」
「ケン君も戦うんですか!?」
ミレアの声が裏返る。
ここ最近前線で戦っていなかったせいで、すっかり後ろで戦う奴になってしまったようだ。
まぁ、仕方ないことだが、かと言って、戦えるのに何もしないのは性に合わない。
が、
「まぁ、危なくなったらよろしく」
今現在弱い事実は変えようもない。
向こうも圧倒的に魔力の低い俺を見て、これ見よがしに嘲笑っている。
丁度いいカモだろう。
向こうにいる6人ほどこいつらは強くないが、それでもAランク付近の強さは持っている。
ただ、付け入る隙がないわけではない。
立ち居振る舞いからして、おそらく白紙化前はど素人だ。
そのせいか、俺どころか俺たち全員を舐めきっている。
「お前ら何分でいけそう?」
「5分くらいかな」
「3分ほどあれば」
ミレアとコウヤとの倒せる前提の会話に、苛立ちを見せ始めている。
だが、多分リンフィアはそれ以上だ。
「リフィ、お前は?」
「1〜2分ください」
「「「!!」」」
重低音が、頭に響く。
密集した神威が空気を震わせ、ほんの一瞬音を出した。
そしてその直後、小さな光の羽が、リンフィア達3人の背に現れた。
「………羽?」
敵の一人は、静かにそう呟いた。
密集した神威は、誰の目にも映る。
変化に敵は構えるが、正体を知らないが故に、そこで止まっていた。
敵から見れば正体不明の光の塊。
顔から見てとれる疑問符は、向こうが神威を使えない何よりの証拠だった。
しかし、わかる者にはわかる。
今この瞬間、この3人の全てが、一段階上がった。
そして一人、リンフィアは、ここからもう一段進化を遂げる。
「ッ、な、なんだ………!?」
「ツノ!? ………お、お前………魔族か………!?」
魔族——————それは、他のすべての種族から恐れられている、特異な種族。
刺々しく、禍々しいその見た目もさることながら、最も恐れられているのはその力。
闘争にかけては、全種族の中で最も強力であり、凶悪。
第二進化形態………魔王としてのその風貌は、外見以上に、内面より出る威圧感から、その凶悪性を感じ取れる。
「………徒手が一人、剣士が二人に魔法使いが一人………丁度いいです——————」
「ッ!!」
姿が消え、衝撃が後に残る。
風が吹いて地面の雪が少し舞ったその直後、
「ね」
リンフィアは一瞬にして、敵の目の前に躍り出た。
が、
「!!」
初動、相手の虚をついて放ったと思われた一撃は、すんでのところで防がれていた。
お互いに、僅かに広角を上げる。
本来、闘争が好きではないリンフィアも、この姿の影響で高揚感を見せていた。
「返り討ちにしてやるよ、小娘」
「多分出来ないと思います」
「!?」
男の腕の装具にヒビが入り、表情が一気に曇った。
焦りと驚愕を見せるノームとは裏腹に、リンフィアはただただ余裕を見せていた。
「ほら」
「小娘がぁ………!!」




