第1174話
「どうだおっさん。感動の対面だぜ?」
「ケッ、そうだな。全くもって感動モンだァ。感動しすぎて反吐が出そうだぜ」
おそらく、見知った顔もいることだろう。
だが、『ノーム』は苦々しい顔をするばかりで、まるで喜んでいる様子はなかった。
「ここにいる奴ァ管理者に与するゴミクズか、俺達を見限って向こうに屈した腰抜けだけだ。俺の部下は一人もいねェ。だからこれは再会じゃねェ。対峙だ」
「………そうか」
お互いに、お互いを見限ったのだ。
こいつらはきっと、交わらないところまで来てしまったのだろう。
「………さてと、まずは4つでいいか」
腰に下げてるチェーンから、指輪を4つ手に取った。
すると、隣にいた『ノーム』がそれを珍しそうな目で見つめてきた。
「なんだボウズ、おしゃれか?」
「おしゃれって………簡易魔法具だ、使い捨ての。わかるか?」
「分からん。魔力感じねェから」
あひひと特徴的な笑い声をあげる『ノーム』。
それは、雪山の中一際大きく響き渡った。
「………まぁそのうち使うから見ればわかるか。向こうもこっちが気づいたってわかってやる気みてーだし………いや、あんたに気づいたのか?」
「ん………?」
ぞろぞろと、揃いも揃って姿を見せ始めた。
『ノーム』の顰めっ面が、一層酷くなる。
それを見た何人かのノームは、まるで何かを悲しむかのような顔をして、こちらに近づいてきた。
「………」
「あひひ………見知った顔ぶれだなァ。しらねェのも混ざっちゃいるが………俺の言った通り、裏切りモンの温床だぜ」
純粋な殺気だ。
本当に混じりけも邪念もない、真っ直ぐな殺意。
それは、『ノーム』から奴らに向けて、残らず注がれた。
「族長………何故、今更俺たちの前に立ちはだかるんだ。この数十年間、何もしなかったアンタが。まさか同族のためなんて言うつもりじゃないだろうな?」
「奴からノームを解放すると言う俺の目標は変わらねェ。そのために俺ァこの数十年、各地を巡って情報を………………?」
ふつふつと、周りから乾いた笑い声が起こり始めた。
「………何がおかしいんだ、テメェら………」
「ハハハ………アンタは本当に幸せな奴だな………………人には裏切りだの腰抜けだのほざいておきながら、肝心な時に役に立たない。あの時もだ。アンタがもっと強くて王を救えていたら、俺たちァ寝返ったりなんざしなかったさ。まぁ、おかげで今はいい暮らしが出来ているけどなァ」
「………!!」
細か振動が、足に伝わって来る。
『ノーム』の種としての能力が、怒りと呼応するように震えている。
敵も笑い声をピタリと止め、武器を構え始めた。
「怒る資格はアンタにァねぇ。ここで死んでくれ、族長——————」
パキンッ、と、ガラスが割れたような音が響く。
妙に響いたその音源——————俺の元に、視線が集まった。
「ノームってのは面の皮が厚いやつが多いのか?」
囲っているノーム達が、これ見よがしに威嚇をして来る。
まぁ、どうでもいいのだが。
「アンタもアンタだ、おっさん。世の中勇敢に立ち向かう奴だけが正しいわけじゃねェ。腰抜けってのは、戦う意志を持った奴が、尻尾巻いて逃げた時に使う言葉だ。はなから弱いやつが逃げんのは、なんらおかしいことじゃねーだろ」
「ボウズ………」
どうもひっかかっていた。
こいつの言い草だと、まるで弱いものが悪いみたいだ。
弱肉強食。
これは間違いない。
弱ければ、選択など出来ないのは、どこでも同じだ。
だが、それは仕方のないことだ。
障害物を押しのけて、道を切り開くのは、いつだって前で戦う強者だ。
何も出来ず、向こうにもついた事に憤るのは分からなくもない。
それでも、だ。
長であれば、それくらいは受け止める度量が無ければ務まらないだろう。
しかし、必ずしも、全てを守らなければならないわけではない。
「——————けど、まーこいつらは普通にゴミだな」
「何ィ………!!」
「罪悪感も持たねェで、のうのうと悪事を働いちゃァ恨み言だけ吐き散らかす。ハッ、情けねぇ。テメェら腰抜けですらねぇよ。とっとと土塊になって消え失せろ。この恥さらしが」
「「「!!」」」
全員、異変に気づき始めた。
視界が一気に狭まり、肌を撫でるような小さな風は、暴風を纏った大吹雪へと変わっていった——————俺たちのいる、中心を除いて。
「なんだこれは…………!?」
「天候操作だと………? たった3ヶ月でなぜそんな強力な魔法を………」
やはり、タネには気づいていない。
これは魔法ではなく、魔法具によるものだ。
「ご丁寧に囲ってくれてありがとよ。おかげで全員こいつ魔法具の間合いだ」
地竜で混戦になった時に使おうと思ったが、今使う。
この3ヶ月間、コツコツ魔力を立てて作った、一度かぎりの展開魔法。
使用するのは、あの戦争以来だ。
「おっさん、ルージュリア、6人任せていいか? モンスター相手じゃないし、多分ペナルティはないだろうから」
「私は構いませんが………」
「? ………そいつはいいがどうする気だ?」
説明している暇はなさそうだ。
まぁ上手くやってくれるだろう。
だから、とりあえず一言だけ言っておいた。
「瞬間移動って奴だ——————」




