第1173話
「もう行くのか?」
立ち上がった『ノーム』に、俺はそう尋ねた。
「あァ。腹の膨れたしなァ。っく………」
「み、3日分の食料が………」
「うぉ!? 空ッ!? 全員分じゃんかよ!?」
空になった食糧庫の前で、リンフィアとコウヤが立ち尽くしていた。
「お? 食い過ぎちまったかァ?! あひひ、悪いな」
「どうせ持ちきれねーから処分にこまってたんだけど………全部食ったかオメー」
「がはは! 酒飲みに生殺しは良くねぇンだぜボウズ。ンな美味そう匂いさせてたらそら歯止めも利かなくならァよ」
そう言いながら、やはり酒を飲む。
しかし、それはどうやら、酔うためではなさそうで。
「………早く会わねェとなンねぇからなァ」
「?」
そう言いつつ、『ノーム』はじっと俺たちのことを見つめていた。
何かを考えているような、迷っているような顔だ。
しかし、その迷いも一瞬で振り払い、一つ提案した。
「なァ、お前さんら、俺についてくる気はねェか? 俺じゃ正確に奴らの場所がわからねェからよォ」
「その野暮用って奴にか?」
「あァ………………いや、来い。お前さんらは、絶対に一目見るべきだ。奴を………管理者、カラサワ・エイトを」
「「「!!」」」
座っていた皆が、一斉に立ち上がった。
この提案はつまり、そう言うことだろう。
「ここに………来てンのか!?」
「ああ。お前さんらを見張りに、たまにこっちに来てる。さっき捕まえた野郎が言ってたから間違いねェ。奴ァ今、このダンジョンにいる」
なるほど。
確かに、会う価値は、あり過ぎるほどにある。
「場所はわかるか、おっさん………っと、悪い。わかってたらとっくに会ってるよな」
『ノーム』は、ネームレスになったことで、魔力の探知をする器官を失った。
おそらく、そのせいでこの3ヶ月の間に見つけられなかったのだろう。
「いや、わざわざ奴を探す必要はねェ。奴がここに来る理由は、お前さんらの監視だ。だったら、派手に暴れてりゃ勝手の頭出してくるだろうよ」
「暴れるっつてもな………」
「なんでもいい。ああ、体力の心配か? そいつァ問題ねェ。どうせ戦いにはならねェからよ」
「?」
どうせ戦いにはならない?
それは一体、どう言う意味だろうか。
「なぁ、おっさ………」
「あ! それじゃあリベンジしましょう! 雪山の地竜!」
と、ミレアが譲れないと言わんばかりに提案してきた。
よほどリベンジしたいのだろうか。
とはいえ、まだ流石に早いと思うのだが、
「いいな、それ。今なら最強の助っ人もいるし、邪魔者は任せられそうじゃん? なぁ、銀髪ちゃん」
「確かに、戦うなら今かもです」
話がどんどん進んでいる。
「決まっている」らしい。
まぁ、仕方あるまい。
打倒地竜は、3ヶ月前から言っていたことだ。
遅かれ早かれ戦うなら、確かに『ノーム』がいる今だ。
「こうなりゃやるしかねーか。丁度雪山だしな」
あのモンスターの大量発生が、雪だるまによって引き起こされたのであれば、望もうが望むまいが、じきに戦う羽目になっただろう。
ならばもう、受け入れるしかない。
「それじゃあ、とりあえず………全員冷気で覆ってっと………」
熱源感知する雪だるまを欺くべく魔法を展開し、まずは雪だるまの登場を待つ。
しかし、
「………? 来ねーな」
地面の雪は、うんともすんとも言わない。
場所が悪いのだろうか。
………いや、何か妙だ。
以前いた雪山ではそこらじゅうに感じていた雪だるまのかけらの気配がまるでない。
何かが起きている。
「ちょっと集中するか………」
俺はそっと目を瞑り、耳を塞いだ。
外部からの情報をなるべくシャットアウトし、一点に集中させる。
より正確に、より広く、波紋を広げるように。
それが、何かに触れるまで待つ——————
「!!」
触れた。
だが、それは望んでいる反応ではない。
数は一つ、二つ………十程だ。
「残念ながら、招かれざる客だ」
「誰かいンのかィ」
「ああ、10人で囲ってる。全員ノームだ」
いくつかは覚えのある反応だ。
どうやら、以前雪山で遭遇したやつも来ているらしい。
「地竜は?」
「リベンジは?」
コウヤとミレアが、祈るように聞いてきた。
もちろん、
「諦めろ」
延期決定だ。
その怒りを糧に戦ってくれ。
正直、俺はどっちでもいい。
暴れるのが目的なら、これで奴もよって来るだろう。
対面の時は近そうだ。
「やれやれ、戦いばっかだな」




