第1172話
「ここはな、俺の故郷なんだよ。白紙化で様変わりしちまったけどなァ」
もっとも、今は街ですらねェがな。
と、どこか暗い表情で『ノーム』はそう言った。
「組織の話だったな。簡単にってわけにはいかないが、ざっと事情を説明する。まずは………起こりから話すか」
組織の始まりのことだろう。
確かに、少し気になる。
「組織が発足したのは、今からウン十年も前。白紙化以前に遡る」
「そんなにか!?」
「あァ。その頃から、このクソみテェなゲームは計画されてたんだよ。組織の発足は、簡単に言やァ、『スタッフ募集』ってとこだ。このゲームを回すスタッフ、そしてこのゲームを始めるための準備を手伝うスタッフだ」
コンッ、と、『ノーム』が軽く地面を足で叩くと、人数分の小さな岩が浮き出た。
当の本人はといえば、酒だけではなくつまみまで広げている。
どうやら、少しばかり長くなりそうだ。
とりあえず、そこに腰掛けて話の続きを聞いた。
「当時はな、奴ァまだここまでめちゃくちゃな力は持ってなかった。やってる事も今とは違って強い妖精を狩る、くらいのモンだったよ。まぁ、そのせいで厄介になっていたんだがな………」
大方、力を強めていったといったところだろう。
元は異世界人。
特別な何かを持っていてもおかしくはない。
強くなる要素は、十二分に持っている。
「めちゃくちゃではないにせよ、各族長の間でも厄介な敵っつー共通の認識はあった。そこで、対カラサワの討伐隊が編成された。つっても、下手うつと返り討ちだからな。選りすぐりの戦士がいるって事で、俺と当時のエルフ族長、そして追放された妖精王が向かうことになった」
「! そいつは、追放される前のクルーディオか?」
「お? お前さん、人間なのにあのヒトを知ってんのかィ? ………って、脱線したら長くなるな。ああそうだ。追放前のことだ。そして、それが追放された原因になる」
「………!」
クルーディオが追放された理由は、羽の喪失。
妖精にとって、羽のない妖精は厄災として忌み嫌われているからだ。
つまり、クルーディオが奴に敗北したと言うことか?
「おいマジかよ………あのクルーディオの全盛で………?」
「あァ悪い。勘違いさせたな。その戦いで、クルーディオが負けたわけじゃァねぇ。奴ァ一人で管理者を追い詰めたんだ。それも、圧倒的な強さでな………そうだ。強さでは圧倒的だった。けど奴は………………」
「「「!!」」」
目に見えてわかる魔力の荒ぶり。
感知機能を失い、鈍ったはずの魔力だが、これが息が辛くなるくらいに凄まじい。
「………奴は、俺たちが………いや、王が来るって情報を掴んで、人質を用意していた。それも大量にだ。もしも、俺とエルフ族長だけなら、多少の犠牲を払ってでも奴を倒そう思っただろうが、王は違う。王は………あの人はそういうのダメなんだよ………」
酒が抜けたのか、少し言葉遣いが柔らかくなっている。
………そりゃこんな話をしていれば酔いも醒めるか。
胸糞の悪い話だ。
同族意識の強い妖精だが、その一番の要因が、妖精王にある。
王は、全ての妖精を我が子として慈しみ、全ての妖精が兄弟であるという思想をもとに統治を行う。
そんな話があるくらいだ。
人質なんてやり方は、効果てきめんだろう。
「………人質の代わりに奴が要求したのは、俺たちの無条件降伏と、王の羽だ。そこで俺たちは敗北し、王は追放された。怒りに任せて向かっていった連中………まぁ俺やエルフ族長の含めて返り討ちにあって、名前もとられた。そっからはもうバラバラだ
「………」
黙っているが、明らかにミレアがソワソワし始めた。
その族長、間違いなくミレアの祖父だ。
名を奪われたという話し方も一致する。
なるほど、強いわけだ。
「名前の剥奪………お前さんが知ってるかは知らんが、これは奴の能力だ。戦って負けた相手の名前を奪い、自身を強化する。今となっちゃァ、それが凶悪化しちまってるがね」
「ふむ………」
先程言っていた妖精の狩りはこれのことだろう。
名を奪い、力をつけていった。
そして、今の奴は敗北どころか命令違反者の名を奪える。
そう変化したのは、王の力を得たことの影響だろうか。
まだ謎は多い。
「とにかく、その事件のせいでノームとエルフは指導者を突然失うことになった。………いや、厳密にいえば、エルフの族長はそれぞれに自治させてたから、向こうに打撃はあまりなかった。けど、ノームには致命的だった。こっちの政治は、俺中心だったからなァ。カラサワは、そこにつけ入った」
ワンマンだったのなら、確かに結果は見えている。
ごくわかりやすく崩壊していったことだろう。
付け入る隙どころか、向こうから指導者が欲しがるくらいだろう。
「中枢の部下は全て奴の手に渡った。そして、そいつらを中心に、奴は自分の“手足” を作った。それが組織の始まりだ。関係あるってのはそう言うこと」
「アンタらの失敗が招いた種だからってわけか」
「ちょっ………金髪………!?」
コウヤは、ストレートにそう言う俺の口を塞ごうとするが、『ノーム』は一切否定しなかった。
「いいんだよ、赤髪ボウズ。その通りだ。その通りでしかない。安易に王に頼った、俺たちがまいた種だ」
力のない声で、『ノーム』はそう言った。
悔やみきれない顔で、歯を食いしばっている。
まぁ、この様子なら敵でないってことで間違いないだろう。
「で、野暮用ってのは? ここにいる組織の連中を潰しにでも行く気か?」
「………いや、違う。ここにいる奴が俺の部下だってことはわかった。だから、真偽を確かめるつもりだ」
そう言って、『ノーム』は立ち上がった。
どこかしらを、じっと立ってみている。
真偽とは、一体何のことだろうか。
あの方角に、一体何があるのだろうか。




