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第1170話




 「末端のようです」


 「雑魚だな」


 「下っ端さんですね」




 ミレア、コウヤ、リンフィアは、倒した組織の男を引きずってきながらそう言った。


 男の方はというと、もうボロボロになっている。

 身も心も。




 「偵察特化、なんでしょうね。たしかに、気配を隠す能力は高かったといえますが、肝心の戦闘能力は以前雪山で見た他の連中程ではなさそうです」




 冷静に、外から見ていたミレアははっきりとそう断じた。


 確かに、コイツからは圧はあまり感じない。

 そして重要なのは、その得意な隠密能力も、俺たちには通じないということ。



 索敵能力というのは、昔から培っているものだ。

 白紙化じゃ消えないこれは、パッと見た戦闘能力から測れるものではない。


 それで用意したのがコイツということは、どうやら敵はこちらを舐めきっているらしい。



 それがわかるのか、3人ともあまりいい気はしていない。



 ただ、コウヤの方は少し意外だった。

 コイツも、黒衣の男をしっかりと捉えていたのだ。




 「コウヤは良く見つけたな。白紙化以前、結構腕のあったコイツらと同じくらい周りが見えてるなんてよ」


 「鼻は利く方なんだよね、俺。カイトの猟犬とは俺のことさ」




 得意そうに鼻を触るコウヤ。

 なぜだろうか鼻につく。




 「ほーん。かっこいー異名だな。そのまま別のやつも頼むぞ、カイトの犬」


 「あっ、すごいヤダ!! 三下感出ちゃってるよ!」




 まぁ、それはいいとして、と俺の興味はすぐ倒れている黒衣の男の方に向いた。


 コイツを尋問すれば、ここにいる組織の連中や、ダンジョンの暴走についての情報が聞き出せるかもしれない。


 幸いなことに、気を失っているわけではない。

 攻撃も、うまく致命傷を避けている。




 「尋問か………ふふ」


 「!!」




 引きずられている男は、しゃがれた声でそう言った。




 「拷問などしたところで無駄だ。私は何も知らん。お前達の言った通り、組織の末端だからな………ふふふ」


 「ミレア」


 「嘘ではないです」




 末端も末端ということか。

 これでは内情を聞いたところで無意味そうだ。




 「あ、悪い咄嗟だったから使わせちまったけど、目は大丈夫なのか? 森であんなになってたけどさ」


 「はい、見るものを意識すれば平気みたいです。修行中に試したので間違いないです」


 「………俺が言うのもなんだが、無茶はすんなよ」


 「ふふ、ほんとにですね」





 まぁ、今更怒っても仕方ない。

 今大丈夫なら使う分には問題ないだろう。


 さて、とはいえこいつからはもう聞くことはないか。



 ………いや、これくらいは知っているか。




 「なぁ、お前。これくらいは知ってンだろ?」


 「?」


 「本来ガイアナにいた連中は、どこ行った?」



 「「「!!」」」




 このダンジョンに、人の気配はさほど無い。


 まして、ここはダンジョンで栄えた都市。

 それなりに強い奴が、そこそこにいたはずだ。


 だが、それらしい気配は全く感じなかった。



 何かがある。





 「………消えた」


 「消えた?」


 「どこへ行ったか俺も知らない。ダンジョンの暴走が起きた時、中心にいた我々以外は全て消えた」


 「………そうか」




 ミレアを見たが、首を縦に振っている。

 嘘はついていないらしい。


 それに、意外にあっさりと喋っていたあたり、忠誠心はないらしい。




 「じゃあ、とりあえず生かしとくか」


 「………は——————」




 バチンッ!! と、頭上で雷魔法を炸裂させた直後、男は意識を失った。

 捕まったせいで無防備になっていたのか、気絶させやすかった。




 「ハァ………厄介な話だ。消えたっつってたな」


 「避難した、とかじゃないんですね………」




 俺も、リンフィアと同じ考えだったが、この男が嘘をついていない以上、消えたということで間違いないだろう。


 話からして目の前で見たようなので、信憑性はある。




 「んー………このダンジョンを攻略すれば、とりあえず町は戻んのかな? どう思うよ、金髪………ん?」


 「ひとまずはそうするしかねーだろ。残り3エリアの攻略。目指すは………………今日はえらい来客が多いな」




 向こうのほうから、無造作に歩いてくる気配がある。

 隠れる様子はない。

 堂々としたものだ。




 「一応、警戒は解くな」




 全員、黙って返事をした。


 雪山で少し視界が悪いが、だんだんと姿が見えてくる。

 ボロのローブで顔はよく見えないが、恐らく中年のノームの男だ。


 何かを隠している気配はない。





 「ああ、やっと見つけましたよ」




 妙に胡散臭い笑顔。


 低身長にヒゲ面というノーム特有の顔に似合わない大人しげな様子に、思わず警戒してしまう。




 「見つけた………? 俺たちを探してたのか?」




 一歩前に出て、キリッとした顔でコウヤはそう言った。


 妙に頼れる感がある。

 これも成長だろうか。




 「三月ほど前に、お告げが下りましたので。皆様の攻略のお手伝いをさせていただきます」


 「3ヵ月前………あっ、そういやそもそもダンジョン攻略ってミッションだったよな。それに合わせたもんかも………そっかそっか」




 ポン、と手を叩きながらコウヤはそう言った。

 頼れる感は気のせいだったかもしれない。


 けど確かに、このミッションのためのお告げを受けた男、と言われればまぁわからなくもない。



 確かこのミッションは、その3ヵ月前に唐突に作られたものだった。

 ならば、3ヵ月前にお告げを受けたというのも一応話は合う。



 だが、




 「………なんか怪しいな」




 いくらなんでも怪し過ぎる。


 ミレアの様子を伺うに、嘘を言っていない様子だが、俺の直感が言っている。

 間違いなく、何か裏がある。



 組織を使ってまで攻略の邪魔をしてきていたのに、こいつにだけ攻略禁止のお告げが下っていないのはおかしい。


 何かの意図を感じる。





 「ちょーっと信用できねーかな。もうちょい登場の仕方考えられなかったか?」


 「そう言われましても、私はお告げ通りに遣わされただけですので………皆さんの攻略の邪魔をするつもりも、危害を加えるつもりも一切ないのですが………」


 「………?」





 ふと、違和感を感じた。


 見えているものに、ほんの僅かな齟齬がある。

 何だ、何にひっかかってる?


 ………そうだ。

 なんというか、この男の意識がやけに——————




 「!!………なるほど。やっぱ関係者か」


 「?」




 惚けた顔をしているが、おそらく演技だ。


 間違いない。




 「おいミレア。お前の嘘発見能力、利用されてたっぽいぞ」


 「!?」



 「………チッ、失敗か」




 「「「!!?」」」





 突然、敵の様子が変貌する。


 間違いない。

 やはり、俺と会話をしながらミレアの方を気にしていた。


 ミレアが、王候補だと知っていたのだ。


 あの様子だとどうやら、嘘をつかないように会話をしてこちらの信用を得ようとしていたらしい。





 「計画は失敗だ。帰投する」


 「!!」




 男が飛んだ瞬間の衝撃に、思わず体が強張った。


 速い。


 魔法の発動速度、素の身体能力が軒並み外れている。

 逃げられれば厄介だ。


 そう思っていると、





 「彼を捕らえるのは攻略にはなりませんよね?」




 少し楽そうな顔をしたルージュリアが、名乗りを上げた。




 「! ………いいのか?」


 「ええ、構いませんわ。自分のすることにくらい責任は持ちます」


 「ああ、それじゃ………」













 ——————いィや、俺がやる





 と、俺でもコウヤでもない声が、そう言った。

 どっかで聞いたような声。


 この声は確か、





 「………あ」

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