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第1168話




 「………なにが起きている?」




 突然聞こえてきた何かの声と地鳴りに反応し、監視していた現場から離れた黒衣の男。


 高い岩山の上から見えたのは、安全地帯を囲む夥しい数の魔物の群れであった。

 そして、男はため息をつきながら、頭を抱えてうずくまった。


 これでは監視どころではない。

 対象は、安全地帯の奥で完全にモンスターに囲まれてしまっている。




 「チッ、当分はここから離れそうもない、か………モンスターも、『プレイヤー』も………」




 プレイヤー。


 彼ははっきりとそう口にした。

 そう、彼は知っているのだ。

 このモンスターの群れにいる彼らが、何者かということを。

 ケンの推測通り、彼は組織の者だ。

 組織とは、管理者が円滑にミッションを行うために、お告げによって犯罪行為すらも許可された団体。


 しかし、本質は犯罪ではなく、管理者のコマという点。

 今彼は、その管理者からの指令で、ケン達を監視してた………が、





 「これじゃ無理だな………」





 男にはこの状況をどうにかする手立てがなかった。

 モンスターに手が出せないでいる。


 皮肉なことに、管理者から下ったダンジョン攻略禁止のお告げが、ここへ来て彼らの首を絞めたのだ。




 「やぁ」


 「っ——————!?」





 突然、背後から聞こえた声に反応して、男は慌てて振り返った。

 妙な仮面を被った男がいる。


 黒衣に男は訝しげな表情を浮かべていたが、





 「なるほど、これじゃあ監視は続けられなさそうだ」


 「!! ………管理者様でしたか」





 その発言と声を聞いて、男は慌てて跪いた。




 「奥にいるのは、例のプレイヤーでいいのかい?」


 「はい」


 「なるほど…………やってくれるな」


 「!!」




 管理者の声が低くなるのを聞いて、男は肩をビクビクと振るわせていた。


 機嫌を損ねてはならない。

 管理者の前では、強さなど関係ないのだから。




 「まぁいいさ。後君、監視は続行してくれ。出てくるタイミングがわかればいいからさ」


 「承知しました」




 なお顔を伏せる男には目もくれず、男はじっとモンスターの群れを見つめた。





 「………いっそ彼らを育てるのもアリ、かな?」














——————————————————————————————
















 あれから一体、どれだけの月日が流れただろうか。



 季節はなにも変わらない。

 まぁ、まる一年いたりしたわけでもないからそれはそうだ。


 この100日間は俺たちにとって予定以上に長い期間ではあったが、ここはダンジョン。

 木々の様子も、動物たちの様子もなにも変わらない。


 時間が停滞した世界。



 けど少し、背が伸びた気がする。

 初めは耳障りだった獣どもの血に飢えた声は、いつのまにか、日常となっていた。


 あれだけあった焦りも不安も、今や感じるまでもない。

 見上げていたものは、いつしかどんどん落ちていった。


 俺はまだ少し止まっているけど、あいつらはよく成長してくれた。




 「記念すべき最後の1匹だ。どうするよ、お前ら」




 安全地帯の外。

 そこには、健気なことに獲物を待つ四足歩行の獣がいた。


 Bランクモンスター。

 ヘルハウンド。


 獰猛な狼だ。


 しかし、この場には、欠片ほどの恐れ抱く者もいなかった。




 「そんじゃ、お言葉に甘えて」




 名乗りを上げたのは、伸びた髪を後ろ一本に結んだ赤毛のエルフ。

 コウヤだ。


 ()の生えた本を手に、悠々とモンスターのところへ近づいていった。




 「てかコイツ、本当に最後なんだろうな」


 「少なくとも、私の声が届く範囲にはもうモンスターはいませんよ」


 「ほんとかねぇ………そんなこと言って、この間は逃げたモンスターどころかその外からの引っ張ってきてたじゃん」





 スーッとリンフィアは目を逸らしてコウヤと目を合わせようとしなかった。




 「安心しろよコウヤ。これ以上させる気はねーから。この間の段階敵が逃げちまった以上、もうこのやり方じゃ効率悪いだろうからな」


 「そうか? そんじゃ俺が………あーっ!?」




 やる気になったコウヤの横を、人影が通り過ぎる。


 相変わらずの縦ロールをたなびかせながら、ミレアは安全地帯の外に出た。

 100日前、見えなくなっていた地面は、もうすっかり土色になっていた。




 「この間の横取りした罰です」


 「んぬぁ!! それ言われちゃ何も言えないんだけど!!」




 何事もないような日常会話を交わすミレアの前には、ようやく出てきた獲物に、涎を垂らす獣の姿があった。


 そこには食欲などない。


 あるのはただひたすら、襲い、破壊するという純粋な敵意のみ。

 その一つだけだからこそ、それは強いよくたり得た。



 しかし、





 「………あら」


 「グゥ………!?」





 ピタリ、と。


 その強い欲は、一瞬にして霧散した。

 捕食者は、たった一睨みで、被捕食者へと変貌した。




 「ゥ——————」




 逃亡するべく、足をぐっと曲げる。

 しかし、その時は既に、




 「はい、終わりです」





 ヘルハウンドは、無数の雷の槍に貫かれていた。


 数百いたモンスターの壁。

 残存勢力は、ゼロ。





 それは即ち、修行の完了を意味していた。

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