第1167話
それから数日、しばらくは神威の強化に努めた。
リンフィアは第二進化形態の習得を、ミレアは羽の発現を。
既に目標を超えたコウヤも、神威への慣れをさらに強めていった。
ルージュリアはと言うと、基本的には何もできないため、基本はこちらとただ会話をするか、雑用をする程度に止まっていた。
夜間、突然ふらっと出ていくこともあったが、これと言って干渉する気はないのでなにをしているのかは不明だ。
そして、修行開始から5日が経ったある日。
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「やっと………出来ました!!」
釣りをしている俺のところに慌てて駆け込んできたミレアの背を見ると、そこには神威の羽が見えた。
「完成させたのか!? 早いな………ニールやラビもだいぶかかってたけど、ここまで早くはなかったぞ」
「は、ははは………苦労、しまし………」
フッと背中の羽が消える。
そのままミレアは、糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。
「っと………だいぶ疲労が溜まってんな」
何とかキャッチした腕のところに、熱を感じる。
かなり無理をしたらしい。
喜ばしいが、手放しには喜べない。
色々な意味で。
………だが、これで少しは自分の満足がいっただろう。
いい傾向になればそれで良し。
今のところ、“お守り”も機能していないようだし、とりあえずは大丈夫だろう。
ともあれだ。
「………よく頑張ったな、ミレア」
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あれから20日が経過した。
リンフィアの目標であった第二進化形態の習得は、そう時間は掛からなかった。
元々、向こうである程度神威に扱い慣れていたリンフィアは、すぐにこちらでも神威を扱っていたので、時間さえとってしまえばあっという間だった。
この20日間は、リンフィアではなく、俺の準備に時間が掛かっていたのだ。
元々、リンフィアに急ぎで第二進化を習得させたのは、本番といえる修行のための準備に過ぎない。
この形態が持つ特殊な能力の『副作用』が、どうしても必要だったのだ。
しかし問題は、本番を行った場合、下手をすると俺が死んでしまう恐れがあったためだ。
そのため、この20日は死なないための準備を行い、今日ようやくある程度の準備が完了した。
それ故に、今俺たちは安全地帯の外で待機をしている。
本番を行うために。
「あの、本番ってつまるところ経験値稼ぎですよね?」
ミレアは、訝しげな表情でそう言った。
大袈裟な表現に奇妙さを感じているのだろう。
実際、ここ20日間行っていた準備も、目立つものはそれほどなかった。
だから、なにをやるのかは、自分の能力の近い道を理解しているリンフィア以外、誰も知らない。
「その通り。けど、普通の経験値稼ぎじゃない。俺が寝込んで目を覚ました日に言ったろ? リフィの能力で初めてできる修行法があるんだ。こいつはめちゃくちゃ効率がいい代わりに、相当危険だ」
「はぁ………?」
いまいちピンと来ていない様子。
まぁいい。
見ればすぐにわかる。
「リフィ、進化頼む」
「………本当にやるんですね?」
「ああ。とりあえず3ヶ月分は貯蔵も出来たし、こんだけ広い安全地帯なら気は狂わないだろ」
渋々、と言った様子で前に出るリンフィア。
「それじゃあ、始めます」
肩幅に足を開き、スッと目を閉じる。
そして、背中に神威を集中させる。
「すーっ………」
全身を巡る神威が背中の一点に集中し、光が灯る。
その光は次第に姿を変え、一本の羽となった。
しかし、能力の行使はここから。
羽は、つまるところエンジンのようなもの。
体と羽、二つの動力源を得たことで、この力はようやく目を覚ます。
「!! なんだ!?」
「黒い霧………………第二進化ってまさか………」
なにも知らないコウヤと、見覚えのある黒い靄に驚きを見せるミレア。
そう、ミレアは知っている。
この変身が、どういうものなのか。
靄はリンフィアの全身を包み、影のみを映し出す。
次第に変貌するリンフィアの肉体。
その影にはツノが生え、羽が広がり、尻尾が伸びていた。
「何のモンスターだ………?」
「モンスター、か。違うぜコウヤ。これはそんなレベルのモンじゃない」
時間が経つごとに感じる異様な圧。
強さではない。
それは、存在そのものが持つ威圧感。
王の威光。
「久々に見ることになるな。魔王形態」
黒く、鋭い爪の伸びた手が靄の中から伸びる。
その手を軽く振った瞬間、靄は晴れ、その全容が明らかとなった。
魔族の象徴である黒いツノ、翼、尾。
それらを持った、黒衣の王。
みな、呆気に取られていた。
が、
「わはっ、やっぱ身体が軽いです!」
「中身はそのまんまなのな」
中身がリンフィアのままだと気づいた瞬間、どことなく安堵していた。
「最初は魔族かどうか疑っていたのですが、こうして見ると魔族のそのものと言った風貌ですね………」
そりゃそうだ。
こいつ魔王だし。
と、ルージュリアに教えてやりたいが、今話すと説明が面倒なので省いておこう。
「おまえら、先に言っとくぞ」
「「「?」」」
ここいらできちっと説明しておこう。
「この20日間、俺が行っていた準備は俺がお前らのサポートができるようになるってのが一つ。そして、大量の食料を溜め込むってのが一つだ。幸い、魚は問題なさそうだから、問題は野菜。これはその辺に畑作ったから、足りなくなったら魔法で育てる」
「「「??」」」
コウヤも、ミレアも、ルージュリアも、みな混乱している様子。
まぁすぐにわかるだろう。
いや、思い知らされるだろう。
「要するに、ここから動かずに過ごすための準備だ。何たってこれから俺たち………まぁルージュリア以外は、この安全地帯から抜けられなくなるんだからな」
「「………………は?」」
「それじゃあ、呼んでくれ。あ、お前らすぐ耳塞げ」
ため息をついて前に出るリンフィア。
そして、大きく息を吸うと、
「ッ——————————————————」
ドンッ、と。
鼓膜を突き破るような凄まじい咆哮が放たれた。
耳を塞いでいても、直接頭に響いてくる。
だが、これでいい。
これなら集まってくれそうだ。
「ぐぉぉお………なにしてんだ金髪………………………ん? あれ?」
「………地鳴り?」
どうやら、早速来てくれたらしい。
それも、かなり大勢だ。
四方八方、どの方角からも足音が聞こえる。
やってくるのは当然、モンスターだ。
「王の咆哮とでもいうのか。超格下のモンスターはこの声を聞いただけで屈服するけど、同格………やや下から上くらいは、この声を聞いたら挑発と受け取ってめちゃくちゃ好戦的になる。ダンジョンは絶対使っちゃいけない技だな、うん」
「なぁ金ロールちゃん………これ、俺の考えが正しいならコイツ正気だと思わないんだけど」
「あら、気が合いますね………同感です」
コウヤもミレアも、顔を顰めていた。
どうやら、察し始めたらしい。
ここは安全地帯。
だから、ここにモンスターがいればヒットアンドアウェイができる。
王の咆哮では来すぎるって難点があるが、それでも目標は達成できる。
そのために食料を貯め、戦うための道具を備えたのだ。
四方八方を囲むモンスターの檻に、長時間囲まれてしまうことになるから。
「うわうわうわうわ…………!! とんでもねぇ数じゃんか!!?」
原っぱの一歩外は岩山。
その岩山の奥からどんどん迫ってくるモンスターの群れ。
100、200、300………視界はだんだんモンスターで染まり、気がつけば、地面は見えなくなってしまった。
「さーて、お前ら。マジで頑張れよ。ここから出たけりゃ、この視界を埋め尽くす魔物どもを全滅させなきゃなんねーからな」
さぁ、祭りだ。
まさに死線と化した拠点。
一歩出れば、死はすぐそこにある。
しかし、これを乗り越え、脱出することが叶ったのなら、俺たちはきっと、今よりずっと強くなっているだろう。




