第1166話
「しっかし、まさか翼を発現させちまうなんてな。正直見直したぜ」
「おぉ、俺にかかればこんなもんだよ!」
どんなもんだと言わんばかりに得意げな顔をするコウヤ。
だが確かに、これは誇って良い。
それだけ異常であり、偉業といってもいい成果なのだ。
やはり、神威の扱いに慣れていたのが大きいのだろうか。
「お前よっぽど神威の扱いが上手かったんだろうな。普通は無理だぜ?」
「ああ、だったら多分、攻略本をいつも使ってたからだと思う。俺もさっき気づいたんだけどさ、これって神威を使う感覚と同じなんだよ。意識したら、神威の扱いもかなり改善したから、その影響のあるかもだ」
本を手の上でクルクルと回しながら、コウヤはそう言った。
「つーか、むしろ今までよく気づかなかったよな。お前、その本を使ってる間は体内の神威がカラになるんだぞ。目に見えてわかる神威との関連だろーが」
「いやぁ、体調的には全く異変がないからさ。直接見て初めて気がついたんだよ」
確かに、レイターとの戦いで、本の力を使っている間も、何ら問題なく神威を扱っていた。
初めて本を使っているときにも思ったが、この現象は一体何なのだろうか。
正直、あまり良い想像はつかない。
まるで、本体がそちらにあるかのような——————
「………」
いや、よそう。
こんな時に考えることじゃない。
「とにかくよかったな。けど、ミレア達にはバレんなよ。羽はタイミングを図って解放しろ。んで、翼の方は伏せとけ」
「分かってる分かってる」
「ったくこいつは………」
浮かれ具合が弾む声から伝わって来る。
まぁ、今日くらいは大目に見よう。
それだけの苦行だったし、それだけの成果が上がった。
翼まで使えるとなると、この前苦戦していたあの猿も、多分一人で倒せてしまうレベルだ。
鍛えればそれ以上も全然見込める。
効果はかなり大きい。
「さて、これで俺の役割はほぼ終わりだな」
「あれ? もっと先もあるんだろ? “テンリン” って奴だったっけか。そこには挑戦しないのかよ」
天輪………確かに、あれが使えればこのダンジョンどころか、Sランクにも手が届く。
そうなれば、大会も安心して戦えるが、
「や、あれはどう裏技を使ってもこの短期間では身につけらんねーから後回しだ。勢いづいてやる気になるのはわかるけど、納得しろ」
「へーい………」
声といい顔といい、わかりやすいやつだ。
だが、天輪は、翼や羽とは更に一線を画す力。
使うには最低限の肉体強度が必要となるため、今は身につけられない。
「つーわけで、今後お前は経験値稼ぎする以外にやることないんだけど………」
「あんま動けないって言うんだろ。分かってるよ」
下手に外で戦うと、他の奴にコウヤの事が勘づかれてしまう恐れがある。
だからコウヤは、しばらくはミレアを待つか、神威を慣らすくらいしか、やれることがないのだ。
「そうだ。金髪、食材調達手伝ってくれよ。肉はとっくに切れてるし、野菜ももうすぐなくなりそうなんだよ」
「あー、飯の問題もあったな。釣りでもするか?」
「お、いいじゃん。そこの池とかどうよ」
——————
———
—
そのまま少し話すと、疲れたのかコウヤは先に眠ってしまった。
余程疲れたのか、よく眠っている。
ともかく、一つ肩の荷が降りた。
心にゆとりがあるのがわかる。
「………さて、どうするか」
戦力アップ………現状最もするべきなのは俺なのだろうが、最もする余地がないのも俺だ。
やはり、今は他の3人の強化に専念するべき。
だから、
「準備はしとくか」
一つ、やる事を決めた。
でも、焦らずゆっくりと進めよう。
誰もいないところへ向かってそう宣言した俺は、今日のところは灯りを消すことに決めた。
——————————————————————————————
「いよーし、大物釣ろう!」
手作りの釣竿を片手に、池の前ではしゃぐコウヤ。
一応、修行しながらという体なのを忘れていそうだ。
「まさかダンジョンに魚がいるなんてな」
「普通はいねーよ。多分、暴走したダンジョンに巻き込まれてここら一帯にいる魚が集められたんだろうな」
まぁこれも推測というだけで確かではないが。
ともあれ、池には大量に生き物が住んでいる。
当分飯には困らなさそうだ。
とりあえず俺たちは、適当に地面に腰掛けて池に向かって釣り糸を垂らした、瞬間、
「おぉ!?」
即ヒットした。
「早くないか!?………ってうぉ俺も!?」
ミミズを使った俺はともかく、拾った木の実を括ったコウヤですらものの見事に食いついた。
凄まじい力だ。
よほど腹を空かせていたのだろうか。
しかし、この世界の釣りは、かかって仕舞えばこちらのものだ。
「はいきた」
少し細工をしている糸と竿。
魔力で操作して食いついた魚に巻き付かせた上で引き上げれば、
「おー! すげぇ!! 結構でかい!」
「50cmくらいか」
「てか、どうなってんだそれ。魚に糸が巻きついてんじゃん」
「展開術式を組み込んで、簡易的な魔法具にした。短時間なら魔力で操作できる。まぁ、魔力入れてしばらく経ったら、耐え切れずに使い捨てになるんだけどな」
「ずるっ。だからお前魔力めっちゃ減ってんのか」
展開術式は相当魔力を食う。
4つ作っただけで大半が消えてしまった。
ただ、4匹いれば十分だろう。
「よーし俺も………いや小ッ!!」
手のひらサイズの小粒な魚が釣れていた。
木の実を頬張っている。
「だからミミズ使えっていったろ。ほら」
「イヤアアアアアアアアアアアアア!! お前まじやめろよ!!」
甲高い奇声とともに、コウヤは一歩下がった。
虫ごときでこれとは情けない。
「あっ、おまっ、なに溜息ついてんだ金髪!!」
「女々しいなコウヤ。ほれ」
「ぎゅぉおおああああ!?」
コウヤに向かってミミズを投げると、元気よく飛んでいくミミズと同じくらいアグレッシブに飛び跳ねた。
楽しい。
「ハァ………ハぁ………………ん? あれは………」
ふとコウヤはどこかを見つめ出した。
何事かと思ってそちらの方を見ると、そこには一人で修行をしているリンフィアの姿があった。
「第二進化の練習中だな。そっとしとけ」
「あのモンスターに変身する能力の上か。じゃあさ、次は全身が変わんのかな?」
「いや、そう単純な能力じゃないんだな、これが」
「?」
第二進化形態は、あの姿だ。
成功すれば、これまで以上に戦略の幅が広がる。
頑張ってほしいところだ
「おい、続きやるぞ。どんどん釣れ」
「分かってるけどお前まじで虫は………」




