第1164話
「………!」
身体がカタカタ震え始めている。
全力で抵抗しようとしているのだろう。
だが、今コウヤを縛っている魔法は、今以上の神威で全身を強化して抵抗しなければ、解く事は出来ない。
これは、かなりギリギリの塩梅で調整している。
つまり、羽を作るポイントを見つけて神威を留めれば、わずかでも上限を超えるので、拘束を解放できる。
しかし、それが出来なければ、身動きどころか声の一つも出せない。
無抵抗でかかった状態異常は、それくらいに効果が強いのだ。
無論、魔力で全身を強化すれば解ける。
が、多分それに気づく余裕はないだろう。
見た感じ、かなり追い込まれているようだ。
「焦りだしてるな………無理もねぇか………体力をだいぶ使っちまってる」
実はもう、あまり時間もない。
体力が残り少ない。
どうやら、ペース配分を考えずに神威を使っていたツケが回ってきたらしい。
このままでは、意識が飛びかねない。
「………っ、まずいな………」
一旦やめるか、やめないか。
だが、経験上言えることだが、この修行は引き伸ばせば伸ばすほど、効果が薄くなる。
方向性は二つ。
トラウマになって、持続時間が大きく下がる事。
慣れによって、今の極限状態が保てない事。
これによって、この修行の効果は薄くなってしまう。
そもそも、わざわざこんな事をするメリットは、あらゆる感覚を遮断して、神威に集中させ且つ、極限までの恐怖で感覚を鋭敏にできることだ。
ここまでしてやっと、短時間で羽を生成させる身体の部位を発見できる。
時間と労力、それに運が絡む要素を、これでもかという程にゴリ押しで発見するのだから、生半可ではない。
今やめれば最悪水の泡だ。
だが、長引けばコウヤが危険だ。
そして、本人が選択できない以上、俺が選ぶ必要がある。
さて、どうするべきか——————
「………ん?」
突然、ピタリと動きが止んだ。
神威はまだ発現している。
気を失ったわけではないらしい。
「………まさか」
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灯火を絶やさないよう、怯えながら力を注ぐ。
息苦しさはもはや気にならない。
抵抗も、もうやめた。
コウヤは、光が消えないように身をかがめて止まる事を選んだ。
隙間風に消されないように、じっと火を守る。
それでは先に進めないと自覚しながらも、コウヤはそれを選んだ。
どうせ恐怖で動かない。
ならば、せめて恐怖を和らげたい。
そうだ。
コウヤはもう、とっくに折れていた。
「………」
助けを呼ぼうにも声が出ない。
今上げている悲鳴も、誰にも届いていない。
(………………届いてない?)
ふと、疑問が浮かぶ。
本当に、届いていないのだろうか。
今自分は、声をあげていないのだろうか。
外にいるあの男は、自分の悲鳴を聞いていないのだろうか。
わかっていて、なお続けさせようとしているのではないか。
疑心暗鬼が、心を蝕む。
そして、狙ったように、
「——————」
プツリと、神威が消えた。
体力を使い尽くしたわけではない。
大きく乱れた心が、神威途切れさせたのだ。
元々、扱いの難しい力。
取り乱しては、使えないものだ。
しかし、そんな事はコウヤには関係なかった。
疑いと、恐怖と、暗闇と、孤独。
それは、とうに崩れたコウヤを、跡形もなくなる勢いで貪り始めた。
思考が、次第に崩れゆく。
何を考えようとも、そこに負が巡る。
そして、連鎖を続ける。
怖い。
助けて。
どうして誰も助けてくれないんだ。
負の感情は、徐々に恨みを帯び始める。
当然、真っ先に目が向くのは、最も近くにいる者。
そこにいるはずなのに、見えているはずなのに何故。
仲間じゃないのか。
俺を苦しめたいのか。
恨みは膨れる。
連鎖する負は、負を食らって大きくなる。
そして、恨みはやがて、敵意へと変わる。
俺を、見捨てるのか?
だったら——————
しかし、そこにあり得ない矛盾を見つけたら?
(………………………見捨てる? 俺を? 誰が?)
疑心暗鬼になった心に、さらなる疑問が浮かぶ。
果たしてそんな事はあるのだろうか。
あの男が、仲間を見捨てるだろうか。
頭を巡る嫌な想像が、ピタリと止んだ。
『ヒジリケンが、仲間を見捨てる』
それは、想像するにはあまりにも現実離れしていた。
(………………はは)
つい、笑ってしまう。
あって間もない者のために、自分の命を粗末に扱うような男が、仲間を見捨てるか?
当然、否である。
かつて、そういう無茶をしないように、コウヤはケンに釘を刺した。
だが皮肉なことに、今コウヤは、ケンのそういった部分があることに、救われてしまった。
(全く………情けないよな)
気がつくと、丸まって怯えていたコウヤは、前に進み始めていた。
だが、持ち直しただけで終わるような、単純な修行ではない。
それに、いつ再び心が折れるかわからない。
そんな事は、彼自身身に染みて理解していた。
だからこそ、考える。
どうするべきか。
どうすれば見つかるのか。
何に目を向けるべきか。
すると、
(………神威………神の力か………………)
ふと、そんな事を考える。
今思えば、コウヤはよくわからずにその力を使っていた。
当然、自分がどんな神と縁があるのかも、あまりよく理解していない。
(それはつまり俺の力………………俺の神威の力………それは、一体………………ぁ………!!)
そして思い出す。
他の者にはない、自分だけの力を。




