第1155話
「チィッ………しつけェな………」
煙幕を焚きながら、徐々に後方へ向かっていく。
しかし、状況はあまり芳しくなかった。
数は多くないが、威力があまりにも高く、この煙幕でもそれなりに当てに来ているのだ。
全員、なんとか防御をしているが、そのせいで一向に進まない。
ただ、幸い今のところ詰めてくる様子はない。
だが、それでも全員一気に背を向けて走るわけにはいかないので、思った通りに逃げることができていなかった。
「ケン君!! 前からモンスターが来てます!」
「はァ!? クソっ………よりによってなんつータイミングで………!!」
チラリと後ろを振り向くと、小型の地竜が2匹、こちらに向かってくるのが見えた。
見たことのないモンスターだ。
雪で身を隠しながら動く、白い鱗の地竜だ。
………いや、他にもいる。
左右からも、敵の気配が迫って来ていた。
「おい、右も来てんぞ!!」
「左からもです!!」
リンフィアとコウヤの報告も一致。
間違いなく囲まれた。
殺意の剥き出しになった獣の視線に晒され、全員の緊張感が一気に高まる。
敵はいずれも格上。
現状はまさに修羅場だ。
特に、後ろはダメだ。
プレッシャーが目の前のモンスターの比ではない。
完全に袋小路だ。
となると、やはり正面突破以外にない——————
「あ?」
俺がそう腹を括った矢先、突然地竜が奇妙な行動を取り始めた。
突然、両横にいたモンスターが、正面にいる地竜の方に駆けていったのだ。
もしや潰し合いか? と思ったが、それにしては正面の地竜が大人しい。
そう、奇妙な程に。
「………なんか怪しい………っとぉ!?」
だが、後ろの攻撃が止まない以上、あまり地竜にばかりかまけてもいられない。
とりあえず、両脇が空いたので、迂回しながら奥にある岩山に逃げ込みたいところだ。
「おいお前ら、とりあえず右だ! 大回りしてそのまま岩山に入るぞ!」
「了解!」
全員、後ろにいる敵を警戒しつつ、地竜のいない右側へ移動を始めた。
しかし、
「よし………………リフィ? 何やってんだ?」
「………………め。ダメ………アレは………」
動く気配はまるでなく、血の気の引いた様子でうわ言を呟いている。
明らかに様子がおかしい。
「おい何やって——————」
「ダメです!! 迂回じゃなくてそのまま右に行ったら奥に向かって下さい!! 距離をとらないと………」
突然、リンフィアが声を荒げて掴みかかってきた。
あまりらしからぬ行動。
酷く混乱している。
雪山に響くかなり切羽詰まった声に、皆慌てて反応を示していた。
すると、
「………? 攻撃が………」
タイミングを合わせたかのように、後ろからの攻撃も止んだ。
さっきまであった気配がプツンと消えている。
何か、ひどく嫌な予感がする。
「ケンくん、なんでもいいです。早くここから離脱して下さい。じゃないと………アレは………!!」
「アレって何の………………ん?」
地竜の反応が、ひとつ消えた。
だが、それだけではない。
一体の地竜の持つ魔力が、突然膨れ上がった。
「………!! 『融合』持ちか!!」
融合。
それは、特殊能力の一種であり、一部のモンスターが持つ特性でもある。
奴らは、他者を自身に取り込む事で、自身の能力を数段引き上げる事が出来る。
無論、無制限ではない。
融合できる数には限度がある。
だが、たった数体との融合でも、その強さが別次元の者へと変化する。
「急がないと………あの地竜が強化されれば間違いなく逃げられなくなります。だから今のうちに」
「………いや、もう遅いらしい」
魔力の融和が始まっている。
数十秒後、完全な姿になった地竜が間違いなくここで暴れ回るだろう。
間違いなく、逃げても無駄だ。
恐らく、融合後のあの地竜のランクはS相当。
機動力に優れた小型の地竜は、通常のSランクモンスターよりずっと速い。
逃げたところで、確実に瞬殺される。
そして、この状況にさらに追い討ちをかけるように、別の反応が周囲に現れた。
「!………あーあ。こいつは………大惨事だな」
敵、魔力に引き寄せられたC〜Bランクのモンスター十数体。
四方八方は当然ながら、上からもやって来た。
どうやら、逃げ道はもうないらしい。




