第116話
「自分自身?」
俺はこの訓練の説明をニールにしていた。
「そうだ」
「何でそんな事を………」
「理由はある。この魔法で自分と戦うことで、成長値が不安定な今ならお互いに反応しあってあらゆる面で、通常以上に成長可能だ」
互いの成長が波紋のように影響を及ぼし合い、徐々に大きくなる。
だが、それは決して楽ではない。
「しかし、全く同じ力を持った敵と戦うことになると、お互いに同じくらい体力を消耗し合い、そのスピードも早いンだよ。だからアレを持たせた」
俺はコンコンと胸を叩いた。
リンフィア達に渡したのはネックレスだ。
俺が言いたいのは、これを渡したのは、そうやって体力が減った時にすぐに回復出来るようにという理由で渡したという事だ。
「特にラビは回復魔法をまだ覚えてないから必須だよな」
「なるほど。だいたい理解した」
ニールはリンフィア達の方を見てそう言った。
「私にさせないのは、私には効果がないから、という事か」
「その通り………お」
微かに魔力を感じる。
「始まったな」
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「『炎よ、波打て【ファイアウェーブ】』!」
「『炎よ、波打て【ファイアウェーブ】』」
2人のリンフィアは同時に同じ魔法を撃った。
炎の波はぶつかり合い、熱風を撒き散らしながら霧散した。
「くっ………」
「………」
リンフィアは素早く後ろに退き、回り込んで接近戦に持ち込もうとした。
「『我が肉体は限界を超える【ソロブースト】』!」
「『我が肉体は限界を超える【ソロブースト】』」
またもや同時だ。
自分と瓜二つの敵がいるだけで軽くストレスになるだろう。
況してそれが同じ行動を取ってくるとなると、尚のことである。
「やァッ!」
「………」
杖と杖がぶつかり合う。
リンフィアはケンに習った棒術を駆使して攻める。
鍔迫り合いの状態から腕を押して距離を取り、生まれた隙に攻撃を加える。
「ハァッ!」
しかし、
「っ………!」
杖を突き立て、中段への攻撃を防ぐ。
相手は偽物とは言え自分。
つまり自分の攻撃パターンが知られている。
「………」
黒リンフィアはリンフィアの頭を狙って杖の先端を突いて来た。
確かに向こうに手口を知られているのは厄介である。
だが、
「フッ!」
逆を返せばそれは向こうの行動パターンも読めるという事。
「………攻撃は喰らわない、でも当てられない………このままじゃ」
そう、そこが重要だ。
完全に互角だと、息をつく暇もなく攻防を繰り返し、戦いは終わらない。
ならば、
「少し、戦い方を変えないと………」
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「タァッ!」
「………」
一方こちらは、ひたすら白兵戦という、リンフィア達とは違う展開になっていた。
だが、互角という点はこちらも変わりない。
「シャッ!」
細かい攻撃をいくつも繰り出し、向こうに攻撃を最小限の動きで躱しつつ、所々で大きな攻撃を行う。
そうやって、延々と刃を交える。
「しかたない………すらざえもん! へびえもん! ごれぞう!」
召喚を行う。
だが、
「あれ?」
出てこない。
それはそうだ。
ここはあくまでも精神を転移させた空間。
召喚してもあいつらは来られないのだ。
やろうと思えば呼べるが、今回の目的はこいつの強化のみなので、モンスター達の手伝いは無しだ。
「う〜、ししょうめぇ………うわっ!」
黒ラビは御構い無しに攻撃を続けてくる。
ラビは慌てて攻撃を捌き、カウンターを入れるが、読まれていた様で不発。
「ぐぬぬ………」
やはり苦戦を強いられている様だ。
「ダガー………そういえばちちうえいってたな」
ラビは以前父からある事を教わった。
ダガーの弱点はそのリーチ。
短いゆえの可能なこともあるが、当然短いがゆえに不可能なこともたくさんある。
だから、
「むかしはしっぱいしたけど………いまなら!」
ラビは幼少のころ、失敗したスキルを使おうと決心した。
「………こう!」
ダガーに魔力が集まっていく。
魔力は光の粒となり、ダガーに先端で収束される。
光はやがて実体を持ち、刃と化した。
「できた!」
魔力の武器化現象。
このスキルの名は【魔力刃】。
魔力操作が完璧な人物の場合、魔力操作に統合されてこのスキルは表示されないため、ケンは使えるが鑑定では映らない。
しかし、使ってわかるがこのスキルはかなり有用なスキルだ。
折れた剣でも戦える。
だが、魔力消費量に注意が必要なため、連続しての使用は勧めない。
ラビもそのあたりを理解しているため、一度刃をしまった。
「いくぞ、ワタシ………」
ラビは下向きにダガーを構える。
これは、以前俺が見せた“剣”の構えだ。
黒ラビはいつも通り“ダガー”の構えをとる。
そして数秒後、戦況を動かす一撃が放たれる。
 




