第1154話
「なるほどな。確かに、お前の持つ攻略本があれば、効率はグンと上がる。わざわざ謎解きする必要もないわけだ………で」
「ん?」
惚けた顔をしているが、こいつは状況がわかっているのだろうか。
俺絵たちは今、渦中にいるというのに。
「なんで逃げるのを止めた?」
「………ノリ?」
ブワッと汗をかきながら回れ右をするコウヤ。
どうやら、本当にノリで会話に入って来たらしい。
困ったやつだと、思わず苦笑してしまった。
………だが、お陰で少しばかり心に余裕が出来た。
冷静に、雪だるまを分析しよう。
「………ん?」
すると早速、一つ気がつく事が出来た。
散々しゃべっておいて今更な気がするが、あの雪だるまには全く飛びかかってくる気配がない。
観察、囮………と、色々考えてみたが、それらしい動きはない。
いや、そもそもモンスターは、魔族と違って知能が低いからモンスターなのだ。
「おいお前ら、ちょっと待て。この雪だるま、動く気配がないぞ」
「そういえば………ずっとこちらを見ているだけのような………というより、ミレアちゃんを見てる?」
雪だるまをミレアの間で視線を動かすリンフィア。
ジッ、と雪だるまの目線を辿って見ると、確かに視線の先はミレアで合っている。
一体何故なのだろうか。
「………つか、今こそコウヤの番じゃねーの?」
「確かに」
「確かに!」
待て、お前が今気づいたみたいな反応するのはおかしいぞ、コウヤ。
と突っ込もうと思ったが、どうやら早速検索を始めるつもりなのか、得意げに本を開き始めた。
「フフフ………ではお前たち、最近あまり役に立っていない攻略本の活躍をとくと見よ!」
攻略本からいつものように光の文字が溢れ出る。
やはりいつ見ても凄いシステムだ。
今だからわかるが、本の中にある書庫から情報を引き出しているのだろう。
限定され、統制され、調整された世界だからできる芸当だ。
しかし、
「………あれ?」
出てくる文字が、いつもよりずっと少ない。
それも、少しではなくかなりだ。
これにはコウヤも素っ頓狂な声が出てしまっている。
「『ミッションクリア条件は、ダンジョンクリアによる、暴走ダンジョンの消滅』………え?」
「………!」
コウヤが読み上げたそれは、ミッションクリアの条件であって、ダンジョンクリアの条件ではない。
つまり、
「載ってないってことだな」
「だあああああああああああ!!? 使えねぇなあクソ本がアアアッッ!!」
発狂しているコウヤを他所目に、少し状況を鑑みてみる。
恐らく、管理者でもダンジョンの構造までは操作できないんだろう。
この国は管理者が作った異空間のようなものだが、ダンジョンはその内部にさらに出来た異空間だ。
それに、これはそもそも自然現象であり、操作できるものではない。
「流れを作らなかったというよりは作れなかったってとこか? つーかお前、ダンジョンクリア込みのミッション別に合ったろうに、こうなること攻略情報なしはわかんなかったのか?」
「知らねーよ! そもそも俺はプレイヤーじゃないんだから、ミッションに関わるもんには触れてこなかったんだよ!」
「それもそうか」
しかしなんにしても、謎解きは自力でする必要がありそうだ。
「さーて………まずはこいつをどうするか——————」
チリッ、と。
肌を触れるピリついた空気感。
視線——————しかも、敵意を含んでいる。
これは、ヒトだ。
「………気をつけろ……… 後ろのはモンスターじゃないぞ」
「「「!!」」」
小声で言ったことで状況を察したのか、なるべく全員警戒を隠すように、さりげなく敵の位置を確認し始めた。
「4人………かなり距離はありますが、私たちよりもずっと強いです」
わかる。
弱くなったことで、必要以上に身体が強張るようになった………わけでもないのに、異様なまでに汗をかき、呼吸が乱れる。
本能から警戒しているのだろう。
敵は、かなりの格上だ。
ミレアも同じように反応している。
俺たちのなかで余裕なのは、ルージュリアくらいだ。
「………狙撃しますか?」
指で銃の形を作り、ゆっくりと魔力を練り始めるリンフィア。
だが、
「いや、止せ。先手を打っても、格上相手でこの距離じゃあんま意味はない。せめて攻撃がくれば——————」
数秒後、訪れるであろう危機を察知した俺の身体が、反射的に反応した。
いつの間にか手は柄に触れ、身体は最後列にいたルージュリアの一歩前へ。
そして一瞬、敵のうちの1人の魔力が僅かに高まった。
確信した。
今から、撃ってくる、と。
その瞬間、意識しなければ見えないほどの小さな光が、
「っ」
眼前に、迫った————————————瞬間、間一髪で斬りつけ、なんとか魔法を吸収した。
「っぶねぇ………!!」
ゼロの洞窟で貰った剣に感謝をしつつ、次々やってくる魔法を斬る。
ひと息つく暇はない。
敵はもう、動き始めたのだから。
「ミレア! ポーチから煙幕出して投げろ!! 急げ!!」
「はっ、はい!!」
俺はアイテムポーチをミレアに渡し、予め買って置いた煙玉を撒き、敵の視界から隠れた。
「っ………くそ………」
雪だるまのことは気になる。
出来ることならじっくり調べたかった。
しかし、今は逃げなければやられてしまうだろう。
俺たちは煙るに乗じて、奥に見える岩場のエリアに移動したこだった。




