第1152話
木の形をしたトラップの繰り出す攻撃を掻い潜り、木の上にあった何かを手に入れた。
しかし、それが攻略印とは微塵も思わなかった。
一応、普通ならば触れればダンジョンクリアになる筈なのだが、このサイズ感と簡単すぎる条件からして、恐らくはこのダンジョン全体の攻略印ではないだろう。
「どうすっか………でも、まだ触らねー方がいいか?」
「ケンくん、大丈夫………って、それ攻略印じゃないですか?」
殻の中のあるのは、特有の印の入った双円錐の石。
これは、ダンジョン攻略をしたことがあるものなら、一眼見ただけで攻略印だとわかるだろう。
当然、経験のあるリンフィアも、すぐに気が付いた。
「うわ小っさ」
「一応触んなよ、コウヤ。他にもあるかもしれねーから、別のやつを見つけるまでは放置だ」
「ふーん、そっか。じゃあ割れないように保管しないとだな」
コウヤの言う通り、とりあえずポーチの中に保管しておく事にした。
殻を突いた感じ結構な硬度がありそうだが、念には念をだ。
異空間に入れておけば、それこそ安全だろう。
「でも、流石にこれに触れば終わりとは行きませんよね」
「ぉおっ!?」
思わず、喉が詰まったような声が漏れてしまった。
さっきまで倒れていたミレアだが、何事もないように話しかけて来たのだ。
「あ、あの………?」
ついマジマジと顔を見つめてしまったが、顔色もずっと良くなっていたので、正直胸を撫で下ろした。
「もう、大丈夫か?」
「は、はい。吐き気が凄かったんですけど、眼を使わないでいたら嘘みたいに気分が良くなったんです。なんだったんでしょうか」
「何か、お前の眼に反応するモノを過剰に視界に入れたんだろうな。普通じゃないダンジョンだし、今んところはっきりとした答えは分からねーな。あ、しばらくは眼を使うなよ。キツい思いさせてまで使わす気はサラサラねーからな」
「はい。ご心配をおかけしました」
笑顔に曇りはない。
無理はしていなさそうだ。
だが、気になるところが消えたわけではない。
人の感情を捉える眼。
それが過剰に反応したと言うことは………と、推理して見るが、確かめようにもミレアの眼は流石に使わせられない。
ひとまずは攻略を進めつつ、じっくりと原因を探る事にしよう。
「とりあえず、その辺のモンスターでも探す………………? なんだ?」
ふと、足元に違和感を覚えた。
意識を集中させて見ると、小さな振動を感じる。
「少し………揺れてる?」
地面に手を触れながら、ミレアはそう言った。
地震が起きているのは、もう間違いなさそうだ。
「おいおいおい、次から次へとこのダンジョンは………」
いや、少しではない。
確実に、揺れが大きくなっている。
時間が経てば経つほどに、まるで何かが近づいて来るかのように、激しさを増していった。
「気をつけろ。全員離れる、なっ………と!?」
背中合わせになり、それぞれ周囲を警戒する。
するといつの間にか、視界が揺れるほどに激しく地面が揺れだしていた。
「くそっ、このダンジョンどうなって——————!?」
「「「!?」」」
突然、森が消えた。
いやそれだけではない。
その途端に、揺れもなくなった。
様変わりしたこの場所に残ったのは、地面に敷き詰められた乾いた砂だけだった。
「………砂漠………………?」
「ははは………………どうなってんだこれ………」
次から次へとおかしな事が起こり、目が回りそうになる。
コウヤも乾いた笑い声を出し、顔を引きつらせていた。
「………あの、ケン君」
「どうした?」
「どうやら、森が消えたのはここだけではないみたいです」
「!!」
木々が消え、視界が開けたお陰で、より奥の方まで目が向けられるようになった。
上から見た光景を思い出すと、ダンジョンにおける森の割合がかなり大きかったと感じる。
それほど、視界がガラッと変わった。
確かに、これならミレアが言った通りで間違いがなさそうだ。
森が、このダンジョン全体から消えていた。
「! 話してる場合じゃなさそうだ………金髪、モンスターが来てる。急に湧いてきやがった」
「分かってる。一体か………けど、かなりでかい反応だ。いいねぇ、修行にはもってこいだ」
これも、なんとなくだが予定調和な気がしてならない。
今の攻略印はほんの序章。
このダンジョンがどういうものなのか知らしめるためのチュートリアル最初の体験だったのかもしれない。
ならば、ここからが本番という事だ。
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「!」
ふと、画面に映る文字を確認する “管理者”。
ガイアナの暴走ダンジョンに、誰かが入った事を確認した。
「………はっ………ははは………なるほど。ディアブレイズになかなか来ないと思ったら………ガイアナにいたのか」
『例のプレイヤーですか?』
「確定じゃない。けど、ダンジョンが変化したのを検知した。このタイミングでガイアナに入る異常者はもう間違いないだろう。ガイアナにいるのは、ミレア・ロゼルカの一行だ」
管理者は、お告げ等の能力を行使する代わりにプレイヤーの監視ができないというペナルティを負っている。
だが、それはあくまで直接監視することが出来ないだけで、これまでの行動から特定のプレイヤーの動きを予測することは、特段禁じられてはいない。
レイターとの戦いからの日数や、ガイアナへの侵入のタイミングを考え、管理者は攻略を始めたのがミレア達であると確信した。
「いつかミッションに使えると思って、現地民に攻略をさせないでいてよかったよ。これでしばらく時間が稼げる」
管理者は椅子から立ち上がり、そばに掛けてあるコートに手を伸ばした。
『どちらに?』
「監視役の “彼” はディアブレイズに向かわせているからね。対ミレア一行にとプレイヤーを集めたけど、無駄に終わったからね。様子を見るためにも彼は呼び戻せない」
『では………』
コートを羽織り、隣にある面を被る。
すると、視覚、聴覚が強化され、面から全身に、強固な結界を展開した。
「ようは能力を使わなければ、ペナルティに抵触しない。だから、自分の目で確かめるよ。彼らは一体、どんな連中なのかをね………っと、忘れていた」
管理者が前に手をかざすと、ガイアナ周辺の地図が表示された。
そのまま数度操作を繰り返すと、画面に開始という文字が映し出された。
『よろしいのですか? アクアレアにいたのならば、族長の娘が同行している可能性があります。もしも簡単に攻略されてしまえば、より他プレイヤーとの差が開いてしまいますが………』
「大丈夫。条件をつけたから。それじゃあ——————ミッション、スタート」
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「っと、なんなんだ、人がいざ強敵に挑もうってとき、に………」
領主との戦い以来、久々に見たミッションの文字。
内容は、このダンジョンの攻略だった。
なんて素晴らしいタイミングで………と、思ったのも束の間。
その下に、条件が書かれていた。
——————ただし、原住民が補助を行った場合、その者の名を剥奪する。




