第1150話
「よし、行くか」
最低限必要なものを身につけて、崖の上に全員で並んだ。
改めて見ると、やはり相当広い。
こうやって見ると、攻略印の位置もわからない。
そもそもどこにあるのかもわからない。
が、普通のダンジョンと違うことなんて百も承知だ。
もとよりそのつもりで挑んでいる。
そもそも、目的は攻略ではなく、経験値集めを兼ねた修行だ。
精々強くなって帰って来てやる。
「エル、頼む」
「ご主人様、昨日も言いましたけど、この人数ならゆっくり降りるのが限界なのです。それでも大丈夫なのです?」
小型のバハムート形態のエルでは、3人乗せて飛ぶのが限界であった。
4人なら飛行は可能だが、5人となるとやはり結構厳しいものがあるらしい。
だが、問題はない。
目的はあくまでも、安全な着地だ。
「それでいい。無茶させて悪いな」
「大丈夫なのです! みんなのお役に立てて嬉しいのです」
俺の成長が止まっているせいで、こいつも成長が止められてしまっているのは本当に申し訳ない。
いつか伸び伸びと空を飛べるように、ここで目一杯力をつけねばならない。
「よし、みんな捕まれ」
俺とコウヤが尾ひれや足にぶら下がり、他3人がその上に乗る形になった。
羽がある分背中は若干広いが、それでも大きな椅子一つ分といったところ。
「よし、飛ぶぞ。せー………のっ!!」
俺とコウヤで思い切り上に飛び、最高行動に来ると、羽を動かしてホバリングを開始した。
「っぅ………」
想像以上の負担に声が漏れ、捕まっている体が小刻みに揺れ始める。
思ったより早い速度で地面に落ちていた。
このままでも俺たちは大丈夫なのだが、問題はエルだ。
「無理すんな。まず4人を先におろしてもいいんだぞ」
「っ………いえ、行き………ます!!」
身体を前に傾け、足場のない崖の先へ——————
「「「!?」」」
崖の外、異様な魔力を突如として浴びせられた。
今の今まで感じなかった異様なプレッシャーが、ダンジョンの中央から鮮明に感じられた。
環境が、変わった。
それを、ここにいる誰もが、崖の向こうに触れた瞬間理解した。
俺たちはゲート越え、とうとうダンジョンに入ったのだ。
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「はぁっ………はぁっ………………」
「お疲れ。よく頑張ったな」
「はぁっ………………へへへ………頑張った………のです」
疲れたのか、エルはすぐに影の中へ帰っていった。
しばらくは出て来られないだろう。
ここから先はしばらく空中からの偵察は無しだ。
「それにしても………ここから見るとより異様ですね」
ミレアは地面の乾いた砂に触れながらそう言った。
「土っつーか砂だな。森と砂漠が混ざってる」
ここはぱっと見は森なのだが、地面には異様に砂が混ざり、所々砂漠が侵食していた。
ただ、一応木の実もあるので、食料には困らなさそうだ。
「今んところ、周囲にモンスターはいない感じだな。ま、いきなりってのもしんどいし、丁度いいや」
「コウヤ君、油断は禁物ですよ。魔力濃度が異様に高いですから、いつモンスターが湧いて出てくるか……………っ、危ない!!」
「へ——————」
ミレアの呼びかけにハッと気がつき、後ろを振り返るコウヤ。
頭で反応した頃には、もう枝はコウヤを大きく弾き飛ばしていた。
「コウヤッ!!」
「っぶな………」
どうやら、コウヤは間一髪のところで、素早く枝と体の間に剣を滑り込ませていたらしい。
衝撃で体が宙に浮いていたが、なんとか身体を捩って攻撃の軌道から外れた。
「なんだよこいつ………モンスター?」
「じゃないな。全く魔力もなければ、生気も感じない」
生き物ではない。
動いてはいるが、規則性があって、意味のない動きが多すぎる。
「多分、ダンジョンのトラップだ」
「なるほど、どうりで魔力も何も感じなかったわけだ。なぁ、ミレア………」
返事がない、と思ってふと振り返ると、俺は思わずギョッとした。
「ミレア!?」
なんと、ミレアが息を切らして膝をついていたのだ。
慌てて近づいて様子を伺うが、攻撃を喰らった形跡はない。
しかし、ひどく顔が青ざめていた。
「どうした!?」
「目が………感情………………このダンジョン………」
混乱しているのか、言葉が支離滅裂になっている。
だが、なんとなく理解した。
どうやら、感情を見る目の力で、何かを見てしまったらしい。
「っ、う………え………………!!」
「!!」
斜め上、迫り来る数本の枝。
だが、パターンはもう覚えた。
コンマ2秒待機、そこから飛んで左からくる枝に一瞬だけ足を乗せ、身体を捻って木に身体を向かい合わせつつ、やや後方へ下がり、右上からの枝を回避。
それでもまだ攻撃の範囲内。
が、問題ない。
「リフィ!!」
そのままミレアを掴んでリンフィアの方に投げた。
「上、左、右、右………」
目視、記憶にあるパターンに合わせ、最低限の回避をしつつ、間合いから離れた。
「ふぅ………やっぱ俺のステータスじゃキチィな」
「うーわ全部避けた………金髪、お前マジでどんな反射神経してんの?」
「反射じゃねーよ。覚えた通りに動いてンだ」
トントン、と頭を叩きながら俺はそう言った。
「まぁなんでもいいけどさ、さっさと逃げようぜ」
たしかに、特に用はないので、このまま逃げてもいい。
が、少し木の動きに違和感を感じた。
よく見て見ると、何かを守っているように見える。
恐らく、中心部。
枝に隠れているが、木の幹のてっぺんに、何かがある。
「ちょい待って」
「んあ?」
物は試しだ。
何かあるなら、確かめるまで。




