第1148話
「はいというわけで始まりました、大戦犯リンチッチ裁判。今回の被告はこの方。俺がマジでやばい状況でクソギャグかましたコウヤ君でーす」
あの後ロープに絡まっていたコウヤをさらに簀巻きにしてガチガチに固めた。
なお被告は無罪を主張している。
「まて金髪。復讐は何も生まないぞ」
「残念ながら復讐推進派なので」
「こいつ全然平和じゃない!!」
さてどうしよう。
この辺りのモンスターの分布は大体理解した。
その巣にこいつを放り込むのも一興だ。
「あ、そうだ。この辺ファジーエイプが沸いてたよな。雄ならなんでも襲うあの」
「イヤアアアアアアアアアアアアア!!! やめてえええええええええ!! お嫁に!! お嫁に行けなくなっちまうぞ俺が!!」
「馬鹿野郎。お嫁に行くんだよ」
男の天敵ファジーエイプ。
数刻前遭遇したが、御者が気が狂ったように逃げたので、ろくに戦っていない。
これはいい機会だ。
「大丈夫だ、死にはしない。ただ死にたくなるだけだ」
「ヤダこいつガチの目だ!! 俺じゃなくてこいつ捕まえたほうがいい!! 助けてお巡りさーん!!」
と、茶番はここまでにして、
「それはそうと、お前らさっき気づいたか? やばそうなのが近くにいたみたいなんだけど」
「? なんの話ですか?」
ひとまず、リンフィアは気づいていない。
ミレアも首を振っているし、コウヤもルージュリアもそれらしい反応はないので、おそらく殺気に気づいたのは俺だけなのだろう。
あれは一体、何者だったのだろうか。
「ケンくん?」
「!」
リンフィアが顔を覗き込んできてようやく我に帰った。
あまり心配しても仕方ない。
警戒するべき何者かがいると分かっただけ儲けものだ。
今はとりあえず、ガイアナに向かうことを考えよう。
「ああ、悪ィな。ちょっとぼーっとしてた。とりあえず猿も消えたし、さっさと進もうぜ」
「はい! あ、そういえば、御者さんがそろそろ休憩所があるから休めるって言ってましたよ。お馬さんもそろそろ疲れる頃ですし、今日はそこで野営しませんか?」
「いや、もうちょい進んだほうが良くないか? 疲れたならお前はしばらく中にいてもいいし………」
「しませんか?」
すごい、目がしゃべっている。
凄まじい勢いで空腹を訴えかけてくる。
さっきあれだけ食ったと言うのに。
「………ハイ、従います」
「はい、えらいですね」
まぁ、確かにリンフィアはここにくるまで相当エネルギーを使っている。
それに、今回の戦闘の反省もしておきたい。
動き回る馬車ではせいぜい携帯食くらいしか食べられないし、今日のところはゆっくりできる場所に移動したほうがいいだろう。
腹が減っては戦はできぬ。
ということで、俺は大人しく馬車に向かうのであった。
「………解いてけよ」
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「絶対………おかしいな」
ガイアナへの経路へ戻ってかれこれ2時間。
近くにあると言っていた休憩所に着く気配はまるでなく、延々と馬車は森の中を走り続けていた。
「道に迷った………? のでしょうか?」
と、尋ねてはいるが、ミレアは全くそう考えて無さそうだった。
当然だ。
しばらく前から完全な一本道。
本当ならば迷いようもないのだ。
「んー………なぁ、お嬢様。御者にも確認した感じ?」
「ええ、先程………」
さっきどころか、ルージュリアはずっと御者と会話を続けていた。
違和感には、だいぶ前から気づいていたらしい。
「休憩所が消えたのかもしれない、と思っていたのですが………どうもそれほど単純な話でもないようです………っとと。止まった?」
気になるところで話が途切れたが、これまで歩き続けていた馬車が突然止まってしまったので、話は自然とそちらに流れていった。
「敵か!?」
「いや、流石に俺とミレアより先に感知するってことはないだろ」
構えるコウヤを制してそう言った。
『知る力』もミレアの目でも、敵の反応………というか、他の生物の反応がない。
いや、それ以前に………
「あのケン君………気になっていたんですが、さっきこロックエイプとの戦い以来、まるでモンスターの気配がしない………ですよね?」
「ああ。全くねーな。感知のエリアを広げてみたけど、まるで反応がない。完全におかしい。この魔力濃度でこの静けさなのは、確実に何かが起きてる………」
「うわうわうわ!? なっ………なんだ!? 森が………!?」
馬車の外からコウヤの声が聞こえる。
どうやらいち早く外に出ていたらしい。
「おいコウヤ、お前もっと緊張感を………」
扉を開き、正面を向く。
そこにあったのは、頭の中に残っている森のイメージとは、まるでかけ離れた全く別の光景。
馬車が止まった理由は、すぐに分かった。
「おい………マジか」
道はプツンと途切れ、その先は、断崖絶壁となっていた。
そして、その崖の下には、森や岩山、平原、海、雪原、遺跡といったものが、入り混じった異様な光景が広がっていた。
そこでふと、思い出す。
ガイアナで、今なにが起きていたかということを。
「じゃあこれが………ダンジョンの暴走か………!?」




