第1147話
「コウヤ、今度は左だ!! 構えろ!!」
「おう!!」
木々と飛び回りながら、そのモンスターはこちらに岩を投げつけて来ていた。
俺とコウヤは馬車の上に乗り、馬車に向かってくる攻撃をいなしつつ、モンスターへ攻撃を仕掛けていた。
だが、
「ケンくん、すっごい早いです!! 全然当たりません!!」
「だったら本体じゃなくて乗り移る枝を狙ってくれ! お前ちょっと打ちすぎだ!」
これがかなりの速度で木々を飛び回るせいで、魔法が殆ど当たらない。
リンフィアの魔力弾も完全に無駄になっていた。
ガイアナに着く前だというのに、なかなか手こずっている。
「ギキィイイアアアアア!!!」
ロックエイプ。
白毛の小さい猿のモンスターで、岩を魔法で生成し、それを魔法の力で放出させてくる。
しかも、木をうまく使って身を隠しつつも、馬車の左右に機敏に動きながら攻撃を仕掛けてくるのでなかなか厄介だ。
そして極め付けに、この岩なんと、追尾してくるのだ。
「ちくしょう………クソ猿が………テメェぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!!」
「発狂する前に構えろ。追ってくるぞ」
敵の目下の狙いは馬車そのもの。
小賢しい事に機動力を奪おうとしてくる。
しかしこれ幸いに、こちらが一度触れれば追尾が消える。
それゆえに、少しばかり特殊な戦法をとっていた。
「よし飛べ!!」
ロープを腰に括り付けたコウヤが、馬車に当たる寸前の岩の前に飛び降りた。
そう、一度着地して、そこでコウヤに受け流してもらうというなんとも雑な方法をとっていた。
が、そんな面白人間モーニングスターになっているコウヤだが、それを面白がる余裕は一切ない。
一撃一撃、神経を尖らせて岩に向かっていた。
「ふーっ………」
全身から流れる尋常ではない汗の量と、軽く痙攣を起こしている腕がこの負担を物語っている。
しかし無常にも、岩はコウヤに向かって衝突した。
「耐えろ!! 頑張れ!!」
刀身を岩の斜め下にぶつけ、身体を固定させるコウヤ。
真正面、己の身体と同程度の大岩を受け止めた。
「ふッ………ぐ………」
目をひん剥きながら歯を食いしばり、岩に向かう。
その勢いと重みで身体を軋ませながらも、一歩。
支えにしている足を踏み直し、力を入れ、
「りょうッ、かい………っ、いィィィ!!」
上手く横へ流した。
その瞬間、ロープを思い切り引いて、馬車に引き戻す。
C級のモンスター相手によくやってくれるものだ。
やはり、力を確実につけて来ているらしい。
しかし、
「くっ………そ………金髪、そろそろ腕千切れそうなんだけど!?」
流石にC級のモンスターの攻撃を真正面から受け続けるのはかなりきつい。
これが自分の土俵で戦っているのだから、厄介極まりない
「悪ぃが気合いで耐えろ。けど安心しな。そろそろ例の位置だ」
だが、こちらにも策がある。
エルを飛ばして見つけた、左側に木がない道。
もうすぐ目の前まで来ていた。
ガイアナへ向かう道からは外れたが、そこは目を瞑ろう。
リンフィア曰く、奴の弱点はその防御力の低さにあるらしい。
そもそも、本体が貧弱でパワーがないから魔法に頼っているわけで、厄介な岩さえどうにかすれば勝てるとのこと。
森で身を隠しながら、機敏に戦うという戦闘法を取っているのも、その小柄な体躯と俊敏さを活かしつつ、身を守るためらしい。
つまり、動きを止めればなんとかなる。
「ミレア、右側の木を薙ぎ倒せ!! リフィはとにかく猿に向かって攻撃だ!!」
「「はいッ!!」」
猿の着地点となるポイントをミレアが雷魔法で薙ぎ倒し、リンフィアは猿がすぐ飛び移らないように攻撃を仕掛ける。
リンフィア曰く、こいつは陸ではかなり足が遅いらしいので、足場である木を倒されるのをかなり嫌がっている。
だから、来るはずだ。
こちらの妨害に対する妨害が。
「!!」
来た。
魔法発動前のモーション。
視線の先、狙いはやはり馬車本体。
「ミレア、『天秤』だ」
「! なるほど………」
岩の生成が完了し、腕を大きく引く猿。
視線は移動し、やや斜め上へ。
おそらく移動先だ。
そして、あらかじめ決めていた狙い馬車に手を向ける——————
「OK、ここだ」
『天秤』を使い、俺の魔法に効果を付与する。
同時に今度は俺が馬車から飛び降り、地上でで魔法を構える。
狙いを岩に向け、威力、範囲、効果を全て犠牲にし、速度に全振りする。
タイミングは、岩を発射する直前、今。
「行け」
腕を振りいよいよ岩を投げるという一息前、か細い光の線が岩へ飛んでいく。
本来ならば抵抗すら出来ないほどに威力の弱い魔法。
ただ、術式を書き換えることで速度だけ通常以上の速くなっているだけ。
しかしそれゆえに、今回はこの魔法は輝ける。
まっすぐただ飛んでいっただけの無能な魔法は、静かに岩に触れ、
「ギギ!?」
ピタリ、と岩の動きを止めて見せた。
「よーし混乱してる」
射出の瞬間、まだ手から離れる前、ここがポイントとなる。
この瞬間を狙って魔法を打つことで、天秤の効果で岩が今打っている小さいレーザーと均衡し続ける事になる。
そして、これが一番重要。
射出されなければ、岩から手が離せなくなるのだ。
これに関していうと、魔法を解除すれば終わる話なのだが、相手はモンスター。
これに気づくまで、時間は大いに稼げる。
さぁ、いよいよ終いだ。
トドメはもちろんあの男。
一撃が最も重い事に定評のあるコウヤさんだ。
「よっしゃあ、いけるぜ。コウヤ、トドメを——————」
………しかし、返事がない。
状況が状況なため、俺は五割り増しの速さで振り向いた。
そして見つけた。
避難する馬車に乗せているロープにくくりつけられ、そのまま引きずり回されているコウヤの姿が。
「テメェ!! なんて時に大ボケかましてんだコラァ!?」
「ごめめめめめめめめめ」
奴は後で俺が殺そう。
うつ伏せのまま引きずられていくバカに構っている暇はない。
猿も流石に気づいたようで、魔法を解除していた。
「クソッ………作戦変更だ。チキショー………全員奥の手なしでC級討伐する予定だったんだけどな!!」
ここからはもうルール無用だ。
神の知恵で時間を稼ぎ、あの馬鹿野郎の本の能力を引き出し、リンフィアにも神威をバンバン使って戦ってもらう。
「クソ猿が、さっさとかかって——————」
ゾッ——————
「ッ——————」
凄まじい殺気。
思わず、鳥肌が立ってしまった。
位置は、後ろ。
標的はこっちじゃない。
これは、
「あ………」
恐れをなしたのか、猿がもう遥か彼方まで全力で逃げていた。
これではもう、追っていけない。
命拾い………とは言わないが、一応助けられてしまった。
しかし、礼を言おうにも姿はない。
知る力で位置を探ろうと思ったが、下手に動くべきではないだろう。
完全に、俺よりずっと強かった。
「一体なんなんだ………」




