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第1143話



 これは、ケン達がカイトにいた頃の話。


 とある日の晩、ケンは宿にある酒場での出来事。




 「ラビにニールね。また女かお前このクソボケカスクソ」


 「悪口4つ目で同じ単語が出るボキャ貧はうちに帰って寝てろバーカ。女つっても1人はリフィ崇拝の怪力ドラゴンで、もう1人はガキだっての。前も言ったろ。生物迷宮の話だよ。覚えてるか? 生物迷宮がどんなか」




 あー、と言いながら頷くコウヤ。


 覚えている。

 というか、知っている。



 何故なら、かつてケンが攻略に向かったゼロの洞窟………初期装備である白紙の服を着た者しか入れないその洞窟にいた老婆は、コウヤの育ての親であった。

 生物迷宮の話は、彼女からよく聞いている。




 「そのことなんだけど………」


 「そうだ。この際お前にも話とくか。俺らが必死こいて管理者を倒そうとする本当の理由」




 何かを言おうとしたコウヤの声は、酒場の喧騒のかき消され、おどおどしている間にケンは話を進めた。


 そして、コウヤはラビの母の話を聞いて、心底こう思った。





 ——————いま、弟の話をせずに済んでよかった。






 と。













——————————————————————————————










 「こんな調子だから、マジで話そびれてラッキーだったわけよ………って聞いてる?」




 ポカンと口を開けて固まっているルージュリア。

 一応返事は返ってきたが、この様子であればかなりショックが大きいことだろう。



 白紙化の原因を知り、そのせいで生まれた悲劇を知っているルージュリアは、言わずもがな管理者には恨みを抱いていた。


 だが、この時ばかりは恨みなど関係ない。






 『管理者は、コウヤの弟である可能性がある』





 ただ純粋に、この告白に驚いていた。






 「お、弟って………なんで急に………」


 「急じゃないよ。元々、なんとなくそんな気はしてた。ばあちゃんから色々と聞いてたし、こんな本もあるしね」




 攻略本を小突くコウヤを見て、ルージュリアはハッとしていた。

 確かに、白紙化後のこの世界について記述されたこの攻略本は、これ一つで腑に落ちるほど管理者との繋がりを感じる代物だ。




 「俺は、心のどこかで白紙化でみんなを苦しめた奴だから、制裁は仕方ないと思ってた。だから、水を差すような真似をしないために、何も言わずに、管理者が倒されるのを待とうと思った」




 『思った』




 それを聞いて、ルージュリアは僅かに眉を顰めた。




 「………コウヤ君」


 「もちろん擁護する気はない。でも、急に怖くなったんだよ………この前の戦いでやってきたあのサバスの偽物………あいつは、ラビってやつを主人って呼んでた。金髪への伝言が目的でやってきたのかと思ったけど、多分そうじゃない。向こうは向こうで、管理者を探し出して倒そうとしてる。だから、何かしなきゃって思って俺は………」




 ため息をつき、首を振るコウヤ。

 矛盾する感情、でも僅かに弟を望む感情が勝っている。


 倒すべきなのかもしれない。

 少なくとも、コウヤの仲間はそう思っている。


 だが、一目見ることすらなく、全てが終わることを、コウヤは心のどこかで拒んでいた。


 答えは、まだ出そうもない。




 「とにかく、金髪達には言わないでほしい。ラビって奴を知らないお嬢様だから、俺は話したんだ」


 「………ええ。わかりました。邪魔をしているのならいざ知らず、少なくとも貴方はこれまで彼らに貢献されていましたから………」





 『でも』と。


 わざわざ口に出すことはなかった。

 しかし、コウヤもなんとなくルージュリアの意図は汲んでいた。




 「うん、わかってる。皆まで言わなくて良い。もし俺が今後邪魔をするようであれば、さっさと敵に回ってよ。君なら、確実に俺を殺せるだろうからさ」




 それじゃあ、と言ってコウヤは先に図書館を後にした。





 「………やれやれ。本当に()()厄介な役回りを請け負ってしまいましたね」




 おっと、と口を紡ぐルージュリア。

 幸い、図書館にはほとんど人はいない。


 そもそも、白紙化によって情報を規制された図書館に、一体どれほど価値があるのやら。


 そう考えていると、ふとあることを思い浮かべた。





 「………書物でなく、口伝でもないのなら?」





 気がつくと、足を進めていたルージュリア。


 その足が向かう先は、長年妖精界にて長を務め、歴史をその目で見続けていた、彼女の父の元であった。





 「生物迷宮………………お父様ならあるいは………」

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