第114話
「ただいまー」
俺は宿に帰るとすかさず椅子に座り、アイテムボックスからビールを取り出した。
「………っはぁ〜。あー、ここにはポリ公も教師もいねーから楽だわー。法的にOKなのがなお良いよなぁ」
向こうにいた時はコンビニなどで酒を買おうとすると、俺も街ではそこそこ顔が知れてしまってるので、買うに買えなかった。
知り合いの居酒屋や、蓮の親父さんや、琴葉のお袋さんがくれる酒を飲んでいたのだ。
まあ、いくら飲んでも何故か酔わないんだけどな。
この異常なまでに高いアルコール耐性のおかげで小遣い稼ぎをしていたわけだが、金貨を大量ににゲットした今、その必要はなくなった。
「あー、っと」
立とうと思ったら足が少しピリっときた。
「この感覚も久しぶりだな。そういや最初の方は強化魔法に慣れないで怪我しまくってたわ」
魔力はバカ高かったので、五級でもかなり強めの強化が出来たのだが、いきなりだったので体の使い方が分からず何回か失敗した。
数分で慣れたがな。
「でも、あれはヤバイな。ドラゴ○ボールみたいな動きが出来んじゃね?」
【クインテットブースト・ダブル】は想像以上のものだった。
いやはや、良いもん貰ったな。
「あ! ししょう!」
「ん、ただいま」
ビールを飲みながらひらひらと手を振ったら、こっちに近づいてきた。
「なーなー、さっきのまりょく、ししょうがやったのか?」
言われるだろうと思ってたよ。
「ああ、試運転だったからな。加減が効かなかった」
「すごいなー。あんなまりょくのやつワタシはいままでみたことないぞ」
「いやお前生まれてまだ1年くらいしか経ってねーだろ」
なるほどみたいな顔されても。
「ワタシはじめてししょうのほんきをみたきがするぞ」
「本気? あっはっは、いやちげーよ。まだ上があるんだよ俺は」
ラビは頭の上にはてなを浮かべていた。
信じられないのも無理はない。
確かにさっきのは結構いったからな。
でも………
俺はニッと笑ってラビの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「あ、ケンくんお帰りなさい」
「おー、ただいま」
奥からリンフィアとニールが出てきた。
「ケン、さっきのはやはり………」
「俺だ。今こいつにも言ったとこだ」
そして同じ質問をされ、同じ答えを返した。
「ケンくんの今のMPどれくらいなんですか?」
「あー、確か80万くらいだった」
「「は、80万!?」」
全員綺麗にハモった。
転移前、修行空間で最後に見たときは75万だったからちゃんと上がっている。
せっかくなので100万を目指したいところだ
「ニールは今どれくらいですか?」
「えっと………15000です」
プレートを確認して自分のステータスを見たようだ。
俺は鑑定があるのでいちいちプレートを懐から出さなくても確認できる。
「………ラビちゃん、私たちすごい人と旅をしてるかも知れないね」
「うん」
なんども首を縦に振るラビ。
そんな大袈裟な。
「そんな大袈裟なみたいな顔をしてるが、これは大事だぞ」
「だろうな。知られたら面倒くさそうだ。ははっ」
「お前………呑気にも程があるぞ。知られればお前は間違いなく………」
熱くなってるな。
こいつなりに心配してくれてるって事か?
「わーってるよ。でも狙われようが何しようが関係ねー。俺に楯突いてお前らに手ェ出そうもんなら」
「………!」
一瞬だが、部屋いっぱいに俺が放った威圧感が充満した。
「国や世界の一個や二個ならぶっ壊してやるつもりだぜ?」
「世界………」
「おー、ぞくっときた。かっこいいな、ししょう」
「ん? そうか?」
この時ニールとリンフィアは、同じことを考えていた。
この男なら、奪われたエヴィリアルを………
しかし、それ以上は考えることも、口に出すこともしなかった。
「ふぁ………んじゃ、俺もう寝るわー。おやすみ」
俺はそうして寝室に入って、布団に倒れ込んで寝た。
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「………」
ここは、ミラトニア王国中央魔法学院。
マギアーナという街にある、国内で最大の魔法学校だ。
「この魔力………」
その学院の最も高い場所に位置する部屋、そこに学院長室がある。
ここはその学院長室だ。
そして、その学院長というのは、三帝の1人である【魔道王】その人だ。
「ふむ、実に興味深い」
魔道王は、魔力の発生元を見つめながらそう呟いた。
ケンの放った魔力は、こんな数百キロメートル離れた場所にも届く程だったのだ。
幸いにも大抵の生徒は気のせいだとか誰かが起こした魔力だと勘違いしていた。
すると、
「ん?」
ドアをノックする音が聞こえた。
「特別魔法科・特等クラス・第三学年・一組、ミレア・ロゼルカ。学院長に所用があって参りました」
「ミレアか。入れ」
「失礼します」
入ってきたのは、縦ロールで目の大きい、いかにもお嬢様という風貌の少女だった。
「やはりお前も気がついたのか?」
「はい。では学院長も?」
魔道王は口角をあげ、少しだけ楽しそうな声で、
「ああ」
と言った。
「魔力の発生源はフェルナンキアだ。ふっふっふ、信じられるか?」
「まさか! そんな場所から放たれた魔力がここまで届くなんて………」
魔道王は、顎に手を当て、そろそろ時間だな、と言った後、ミレアにこう告げた。
「………ミレア、間も無くここにジョゼがやって来る。少し出かけてくると伝えておいてくれ」
「まさか学院長また勝手に………きゃっ!」
強い光に目がくらみ、ミレアはおもわず目を瞑る。
数秒して、ゆっくりと目を開けると、
「あっ!」
そこに魔道王の姿はなかった。
先ほどまで居たのは、光魔法で作って居た思念体だ。
数分間なら自分で操作可能な思念体を作る光二級魔法【ライトアバター】だ。
ミレア以外誰も居なくなった学院長室に書き置きが残されてあった。
「『ではよろしく頼む』って! またですかぁ!?」
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「フェルナンキアか………懐かしいな。そういえばギルが主催した祭りにラクレーが参加するってダグラスが言っていたな。ふふふ、三帝が揃うか?」
魔道王は馬車に乗り、そんなことを言っていた。
「運転手、フェルナンキアの祭りに間に合うように運転してくれ。多少荒い運転でも構わない」
「了解しました」
彼女、この国の魔法学の第一人者にして、三帝の1人、【魔道王】ファリス・マギアーナはフェルナンキアへ急いだ。
俺を狙うのは、国と世界だけとは限らない。




