第1132話
「.........っ!!」
「お、お目覚めだ」
あれからしばらく気を失っていたレイターが、ようやく目を覚ました。
寝起きだというのに、ガチャガチャとやかましく手足を動かしている。
まだ闘争心の消えない目を見るに、ここから逃げるつもりだろうが、そうは問屋が卸さない。
蓄積したダメージと今度こそきつくしめた拘束が、レイターをしっかりと捕縛していた。
「抵抗したところで今のお前じゃ解けねーよ。諦めて寝てろ」
「………」
観念したのかため息と共に地面に倒れ込むレイター。
茫然と空を見つめ、ふと険しい表情になったと思うと、絞り出すようにこう尋ねてきた。
「.........ボクは.........負けた、のか?」
「客観的に見ればな。ちなみにお前的にはどう思ってる?」
「..................」
どの道殺せないし、俺はこいつを無闇に傷つけるつもりもない。
レイターが戦う意思を捨てない限り、再戦は十分ある。
しかし、
「いや、これでダメなら、きっともうダメかな」
そう言いながら、レイターは倒れ込むように寝そべった。
意外にも、さっぱりとした様子であった。
「おぉっ、諦めるってことか!」
「まぁ、そうなるよね.........って、あからさまにニコニコするのやめてよ」
余計に戦わずに済んで嬉しいのが顔に出ていたらしい。
気を付けねば。
「..................」
「心配すんなって、あの水はアクアレアのウンディーネ共が片付けけたから」
「そこまで察しがいいと、もはやプレイバシーの侵害だよね」
「感情のぞき見られる奴に言われたかねーんだが」
負けたというのに、どこか余裕がある。
納得したとでも言うふうに、満足そうにしている。
「ねぇ、ケンくん」
「あン?」
「あんなやり方してまで、何でボクにこだわるの? 正直、ボクを味方につけるのはデメリットでしかない。だと言うのに、何故?」
あんなやり方………………最後の自爆戦法のことだろうか。
正直、「あんなやり方」と言われるほど俺にとっては必死な方法というわけででもない。
だけど、必死を覚悟で飛び込むくらいの価値は、こいつにはある。
だからやっぱり、理由は変わらない。
「お前みたいな奴が仲間に欲しいから。そんだけだ」
「………………信じられるの? 嘘つきのボクを」
「信じられる奴だから、命をかける価値があるんじゃねーか」
「!」
必死こいて欲しいと思えない奴を、俺はわざわざ誘いはしない。
だったら最初から、確実な方法潰しに向かってる。
「あはははははははははっ!!」
「!?」
レイターは、突然大声を上げて笑い出した。
それはもう、心の底から愉快そうに。
「............なんだろうね。ずっと悩んでたことが馬鹿馬鹿しくなったよ」
「突然大声で笑い出したと思ったら………まぁ、解決しちまえば悩みなんざ大抵馬鹿馬鹿しいもんさ」
「ははは、そうかもね.........うん、きっとそうなんだろうね」
レイターはジッとこちらを見て、何かを口籠っている。
しかし、躊躇いはすぐに消えていた。
「ボクはもう、この戦いを降りる。君の勝ちだ」
「「!!」」
降参宣言。
それがすなわち、目標を自ら諦めたということ。
「本当にいいのか?」
「うん。ボクの願いは、君らに託すよ。ああ、それと、」
レイターはチラリと少し離れたミレアの方を向いた。
「仲間になるからには、羽を渡さないとね。レッドカーペットの制限はどうにかなるかもしれないけど、こればかりはそうもいかないだろう?」
「!」
そうだ。
まだ問題は山積みだ。
レッドカーペットは、通常のミッションとは違い、指令に背くプレイヤーを殺すというデメリットがついている。
故に、それを誤魔化すかレッドカーペットをどうにかして辞退しなければ、レイターを仲間として迎え入れることは難しい。
だが、俺たちにはコウヤがいる。
俺の知識にないこの世界特有のルールも、コウヤならわかるかもしれない。
「どうだ、コウヤ。何とかなりそうか?」
「ん………おぉ、俺か」
視線が一気に集まり、やりにくそうに目を泳がすコウヤ。
誤魔化すように本を手に取り、検索を始めた。
すると、
「………うーん。方法自体はあるけど………今すぐってわけにはいかない、ってところか。少なくとも、もっと力をつける必要がありそうだ」
「………」
おかしい。何だ、この違和感。
妙な焦燥感に駆られ、反射的に頭を回す。
答えは割とあっさり出た。
………ああ、そうか。 違うのか。これは——————
——————ブチッ
気がついて振り返った頃には、もう遅かった。
拘束はしている。
手も足も使えない。
しかし、魔力はある。
レイターは、その魔力で水を操作し、己の首を掻き切った。
——————その眼の力で、コウヤが嘘をついたとわかったから。
「何やってんだよお前ッッ!!!」




