第1128話
「おやすみだ、ケンくん」
「チッ、こいつ………!!」
能力で俺の背後に回ったレイターは、俺の背中に手を当てた。
これは流石に避けられない。
どうする。
せいぜい今からできるのは身を捩って少しでもダメージもない場所を攻撃させるくらいだが………
「………………!!」
いや、違う。
一か八かだが、策はある。
「へっ、そいつはどうかな」
俺はリスクを覚悟して、体を捩り、背中に当てられた手を少しずらした。
すると、
「!!」
魔力が僅かに揺らいだ。
予想通り、一瞬動きが止まったらしい。
僅かだが、隙は隙。
止まりさえすれば、
「かかったなバーカ!」
手を回して上に弾きながら、くるりと体の向きを変え、レイターと向き合う。
すると、すぐ様次の攻撃を仕掛けに手が飛んでくるが、体術なら俺の方が上。
腕を捌き、レイターの体を流して背後へ回った。
「くっ………」
迫り来る攻撃を全て捌き、蹴ると同時に勢いをつけて一旦退避。
だが、この状況はまだ敵としてもチャンス。
体勢が整う前に、一撃を。
敵意を剥き出しにしたレイターは、周囲の水をかき集め、俺に照準を合わせた。
しかし、
「させるかよ!!」
「!?」
俺と入れ替わるように、後ろからコウヤが飛んでくる。
構えているのは牽制のための一撃だが、当然当たればひとたまりもない。
レイターは顔を顰めながら構えていた水を前にやり、防壁を貼りつつ僅かに後退した。
「へっ、流石だなコウヤ。いいタイミングで来やがる」
「ったくお前ホント懲りないな」
ガクリと肩を落とすコウヤ。
また無茶しやがってと口をうるさく言ってくるが、この状況だからいちいち聞いていられない。
「しょうがねーだろ。あれが一番安全だったんだからよ」
「だから俺もキレてはないだろ」
まぁ、正直危ない手ではあった。
何せ、自分の命を人質にしたのだから。
「イカれてるね、君。一才の恐怖が見えないんだけど」
そう。
先程の攻撃で俺はレイターが放つはずの攻撃の位置を心臓へずらした。
放たれていれば俺は死んでいただろうが、今はまだゲームの最中。
俺を殺してしまえば、結婚はなかったことになる。
レイターとしてはそれは避けたいところだろう。
「失敬な。俺はお前の渇望と良心に賭けただけだ」
「そうか。じゃあ失敗だったね」
「?」
周囲の魔力が慌ただしく蠢いている。
何か仕掛けるつもりだ。
より一層警戒を強め、周囲を探ろうとすると、ある異変を目にした。
「………なんだこれ」
地面が光っている。
その光はゆらゆらと絶えず揺らいでおり、まるで水面のような——————
「っっ………!!!」
振り向くとそれは、いつのまにかそこにあった。
前方の湖から、そして後方の都市から、凄まじい量の水が、こちらを飲み込まんばかりの勢いで迫って来ていた。
「あの野郎ここまで………!!」
動きだけをある程度指定し、後は水の勢いに任せて自ら運ばせる。
細かい操作をしない分、水を早く動かせるわけだ。
よく考えている。
「ここが離れでよかったよ。お陰で特に何かを壊すわけでもなく、水を運んで来られるからね」
「!………………………コウヤ、本。あと耳貸せ。それと………」
音魔法でミレアにも作戦を聞かせる。
そして数秒後。
押し寄せる波は、俺たちはを一気に飲み込んだ。
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「水が………」
ルージュリア達は、突然町の水が消えたことに言葉を失っていた。
「十中八九、あちら側で何かが起きているんでしょうね。エルさん、状況はわかりますか?」
「………レイターって人が、ウンディーネの能力で水を操ったみたいなのです。ご主人様達は………………飲み込まれました」
「えぇ!? それ………………だ、大丈夫なの!?」
目に見えて動揺してみせるG・R。
妖精の持つ属性の操作能力の中でも、今のレイターのそれは異常と言ってよかった。
そして、それはつまり、本体もその能力に準ずる強敵だということ。
現状を把握し、次第に二人の表情には翳が差し始めた。
エルも自信を持って大丈夫だと返事は出来ず、次第に空気が澱んでいく。
しかし、
「大丈夫だと思いますよ、みんな」
じっと戦場の方を見つめるリンフィアだけ、そう言っていた。
「今のところ強い神威を感じないあたり、切り札っていうのが、まだ残っているみたいですから」




