第1127話
ミレアを後方に据え、俺はレイターの前に躍り出た。
コウヤはサポート。
ここでどうにか、攻撃のタイミングを見計らう。
「………君は囮だね」
俯いていたレイターは、わずかに顔を上げ、俺を見つめてそう言った。
恐らく、考えは筒抜け。
こいつは元々他人の思考を読むのが上手い方だ。
そこに感情の視認が加わったことで、より一層その能力に磨きがかかった。
だが、関係ない。
いずれはバレること。
隙ができれば、知っていようがいまいが、一撃を叩き込める。
しかし、現実はそう甘くない。
「なんでもいいよ………………早く、終わらせよう」
「!!」
——————速い。
目がチカチカするほど、広範囲に散った水の塊が目まぐるしく動いている。
水の槍の速度が想像以上だ。
恐らくいくつか被弾する。
火球で一気に蒸発を…………………と、炎魔法を準備したが、これではダメだと直感した。
「チッ」
火じゃあダメだ。
蒸発してもすぐに槍に戻される。
であれば、弾いてしまった方がいい。
「となると………こうだな」
剣を抜き、神の知恵を発動。
加速する思考の中、最効率を選び取る。
「ふぅッッッ………!!」
半歩身を逸らしながら背を曲げ、身体を添うようにさせて数本を回避。
同時に飛んで氷魔法を纏わせた剣で斬りつけ、軌道を逸らす。
——————凍らせられれば、触れて弾くことが出来る。
それに、俺の魔力を混ぜることで、敵の魔力を阻害し、一時的に操作力を失わせられる。
すぐに消える炎ではこうはいかない。
薙ぎ払い、回避し、距離を詰める。
だが、
「っ、ふ………ぐ………………!!」
避けきれない水の槍が、俺の肉を抉り取っていく。
流石に数が多い。
しかし、こちらも1人ではない。
「おいコラ、また突っ走ってん、なッ!!」
目の前の数本が凍りつき、弾かれていく。
魔法剣、アイスソード。
初歩の技だが、この場合有効だ。
凍った水の槍は薙ぎ払われ、そのまま後ろへ飛んでいった。
「お前ぇ………ちょっとは言うこと聞けよな」
「そうむくれんなよ、コウヤ。お陰でわかった」
剣を構え、2人で水の槍に向かって走っていく。
右方は俺、左方はコウヤ。
迫り来る攻撃を次々凍らせて弾き、受け切れないものを回避する。
やはりそうだ。
「流石に数が多いみたいだな。操り切れていない」
強化に体が追いついていない。
急激なパワーアップの一つのリスクと言ってもいい。
特に、貯水タンク並みの分量を操るなど、元の肉体でもしたことはないだろう。
自然に対するあれだけの支配力は、王の力があってこそだ。
「じゃあ慣れていない今がチャンスってことか」
「簡単に言ってくれんな。改めて見てみろよ」
俺がそう言うと、コウヤは一度引いてレイターを見た。
そして、眉を顰めてこう言った。
「チャンス………ある?」
「知らん。だから作ンぞ」
脳筋プレイでは絶対勝てない。
頭を使わなければ。
そのためには、もう少し情報が欲しい。
「俺はあいつを生捕にして仲間にしたいからな。倒さねぇと話にならん。手段を探すためにも、まずは無力化する」
「無力化って………近づけないんじゃ俺ら攻撃できないっしょ」
「アホ。俺らは前線での陽動ってだけで、攻撃がメインじゃない。そんでもって、アイツは後方ってだけで支援じゃない」
そう。
あくまで攻撃のメインは俺たちではないのだ。
「攻撃は、ミレアの担当だ」
「!!」
後ろから俺たちの頭上を追い越して、稲妻が走る。
想定よりも威力が大きい。
どうやらミレアは、速攻で仕留めるつもりだ。
ただ、少し急いているような気もする。
どことなく、焦りが見える。
「チッ………慌て過ぎだぜ、ミレア」
刹那、レイターは水を凝縮させ、雷をわずかに逸らした。
やはり、ミレアの方も攻撃の意思が筒抜けになっている分、バレてはいただろう。
だが、
「まぁけど………………止まったな」
「おぉ………水が………」
水の槍の動きがピタリと止まった。
やはり、強化された能力にまだ慣れていない。
意識が他を向いている時は、攻撃が出来ないのだ。
「詰めるぜ、コウヤ」
「おうよ!」
かなりリスクはあるが、もう少し距離を詰めて揺さぶってみることにした。
どの道、コウヤの “奥の手” は近距離用の技だ。
このままここでチンタラしておくよりはずっといい。
いいはずだが、
「………」
何故か、攻撃が一切来ない。
誘っているのかと思ったが、カウンターになる魔法や能力の気配はない。
今のところ警戒するべきは、頭上の水。
常に視線の端に置き、レイター本体も警戒しつつ一気に詰める。
ただ間違いなく何かある。
警戒だけは怠ってはいけない。
そもそもあまり距離はない。
俺たちはもうすぐ目の前まで来ていた。
すると、そこでようやく頭上の水に動きが見えた。
「!! 待て、コウヤ」
ぐるりと九十度横を向き、レイターの周りを旋回するように動きを変えた。
様子見もあるが、さっきから妙なことに攻撃の意思を感じない。
視線と意識そのものはこちらを向いているのだが、何故か攻撃をしようとしないのだ。
「一体何を——————」
違う。
この水の動きは、やはり攻撃じゃない。
これは——————
「見るなコウヤ!! 文字だ!!」
「っ………なるほど」
少し視線を下げ、全容が目に入らない様にした。
そう、水を文字に変えることで、俺たちに嘘を視覚から認識させようと考えたのだ。
「危ねぇな………油断も隙もあったもんじゃ——————」
「隙、生まれてるよ」
突如背後から現れた殺気と、耳元で聞こえる男の声。
前にいたはずのレイターが、今、いない。
馬鹿な、と思ったのは一瞬。
ネタはすぐに上がった。
レイターの能力は、一定範囲内の全員がレイターの嘘をなんらかの形で認識することで、その嘘を現実に変える能力だ。
現在、その範囲内にいるのは、俺たち3人とレイターのみ。
つまり、俺たちのうち誰かがその嘘を認識しなければ、嘘は嘘のままだ。
今まで通りなら。
そう、こいつは羽を喰らい、王の力を宿した。
もしかすれば、だが、能力に変化が起きた可能性がある。
いや、既に起きている。
だとすれば、答えはひとつだ。
「まさか、ミレアか………………!!」
「正解」
ミレアが文字を認識したことで、能力が発動した。
察するに、ここにいたという内容の嘘を現実に変えたのだ。
それでほぼ間違いない。
「それじゃあ、しばらくお休みだ。ケンくん」




