第1126話
「ちくしょう………………あの野郎ふざけやがって………ッッ!!」
もう少しで仲間に引き入れることが出来た。
余計な犠牲を生むことなく、戦いたくない奴の戦いを避ける事ができるはずだった。
余計な横槍が入るまでは。
思えば、あの緑髪は前もそうだった。
ミレアに余計な事を言って、強さへの異様な執着を持つ要因となった。
いつも余計な真似をしてくれる。
だが、まだだ。
まだ諦めるわけにはいかない。
「聞くなレイター!! それはお前の声なんかじゃねぇ! 惑わされ——————」
「分かってるんだよそんな事は!!」
俺の声をかき消すように、レイターは大声でそう言った。
「………でも、怖いんだよ………………また同じ事を繰り返せば、今度こそ立ち直れない。もうあんな思いは………だから……………」
「——————!」
そう言って、レイターは懐から小さなカケラをいくつか取り出した。
わざわざ注視せずともわかる。
こちらへ漂うその魔力は、よく見知ったものなのだから。
「妖精王の………羽の欠片………………」
これは、王の選別に王手必要な道具。
だが、集める以外基本的に使い道はない。
ただ一つを除いては。
こんなときに、レイターは絶対に意味のない事はしない。
つまり、奴は気づいている。
知られていないはずの、欠片の使い方を。
「よせ………何する気だ………」
「ずっと不思議だった。何故、そこの彼女の体から王の魔力を感じるのか、戦っている時も気になっていた。でも、お陰で分かったよ。これがどう言う使い方をするものなのかって」
「やめろ、おい………何してんだ………!!」
レイターが強く欠片を握った途端、ドッと冷や汗をかいた。
“最悪” は、連鎖する。
それがはたまた偶然か、それとも不運に対して敏感になっているからそう思い込んでいるだけか。
何にせよ、続いてしまった。
「もう、後戻りはできないんだよ」
「「!!」」
ゴクリ。
それが喉を通る様を、俺はただ黙って見ていた。
あと少しだった。
ちょうど今みたいに、俺はもうレイターのすぐ側まで来ていた。
しかし、確かに近づいていた俺を否定するように、刺すような魔力が向けられた。
もうダメだ。
こうなった以上、選択肢はただ一つ。
俺たちは、ミレアを王にするため、レイターをいずれ殺さなければならない。
「ああ………………ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………………」
弱々しい声で地面に突っ伏し、謝り続けるレイター。
しかし、そんな情けない姿とは対照的に、周囲の魔力と羽の魔力を吸収し続けているレイターは、どんどんMPを回復させていき、以前のそれを遥かに超える魔力の片鱗を見せ始めていた。
「この圧力………………以前よりずっと強い………!!」
厄介なことこの上ない。
周囲は湖。
王の力を得たことで、自然を支配する力を強めたレイターが、この膨大な自然を我が物とする事が出来る。
目の当たりにした状況と、この先の未来を考えて、俺は思わず身震いしていた。
敵は、アクアレアの自然そのものだ。
「背にあるあの虹色の羽………勇者の力を得る以前の私と同じですね………つまり、私と同様に感情の視認が可能ということ」
「同じじゃねぇよ………」
「え?」
「忘れたのかよ。お前は、奴の感情が見られないだろ」
レッドカーペットの能力で、奴は感情をこちらに悟られないようにすることができる。
しかし、逆に向こうはこちらの感情が読める。
騙し討ちが端から封殺されているようなものだ。
加えて、こちらはどうにか向こうの騙し討ちを察知しながら戦わなければならない。
思わぬ面で不利になってしまったものだ。
「キツそうだな、金髪。手ェ貸すよ」
「………ああ、頼む」
コウヤもいつの間にかこちらに来ていた。
サバスの方はもう敵というわけではなさそうだ。
かといって、味方でもないらしいが。
「一応聞くけど、フードの奴は?」
「おお、サバス………じゃないんだったか。あいつはパスらしい。バトルジャンキーかと思ったけど、いまいち掴めん」
「チッ………クソッ」
仕方ないとしておこう。
どの道3対1。
数ではこちらが上。
しかし、圧倒的な地の利が向こうにあるので、一概に卑怯とも言えないだろう。
「ちなみに、本を使って俺がウンディーネになったらちょっとは状況がマシになることはある?」
「ない。向こうが断然格上だ。水を支配しようとしても塗りつぶされる」
「だよねー………って、ダベってる暇なさそうだね」
拘束具を破り、レイターはゆっくりと立ち上がった。
目の前には、湖から呼び寄せた、膨大な量の水がそこら中に浮いている。
水は一気に凝縮し、しかし莫大な量のまま小さな水の槍をそこら中に生成した。
「ちまちま戦ってたら不利だな………………コウヤ、ナイトで行く。片手剣で攻めるぞ」
「了解。奥の手は?」
奥の手………正直、敵を殺す恐れがあったからなるべく使わないようにいっていたが、そうも言ってられない。
「ああ。タイミングが来たら使う。それまでは極力最前線に立つな。陽動は俺がする」
ここが正念場。
まずは、確実に無力化させる。




