第1124話
「なるほどな………人も己も、幸せな嘘で欺く道化。お前はそれになろうとしたんだ。己の中に、少なからず残った憎しみを押し殺して」
ならば、そのレッドカーペットはいわば天職だったということだろう。
察するに、嘘で王に上り詰めるという役割。
それは奇しくもレイターを選んだ。
「そういうことさ。これがボクの全て。『サバスの様に、嘘をついてでも誰かを救う王になりたい』それがボクが戦う原動力だよ」
「………なんつーか、難儀な人生だよな。お前」
「キヒっ、君みたいな若造にそんな事を言われるとはね」
この話し方と見た目でついつい忘れそうになるが、こいつは多分俺よりもずっと年上だ。
おっさんと言ってもいい。
「いやおっさんじゃないから」
「読むな心を」
「というわけで、ボクは彼の様な王様になるために負けるわけにはいかないから。せいぜい今からでも逆転の目がないか色々と試行錯誤してみるよ」
レイターは両手を頭の後ろに持っていき、余裕のある表情で寝転んだ。
しかし、俺の方はまだ話が終わっていない。
「王様、ねぇ」
「………何かな?」
片目を開き、俺の小馬鹿にした様な口調に少しムッとするレイター。
しかし、俺はそんな事は無視してあっけらかんとこう言った。
「一つ提案なんだけどさー、俺たちに賭けてみるってのはどうだ?」
「何を?」
「お前が王様になってやりたい事を、俺らが代わりにやってやるっていう素晴らしい提案だ」
そういうや否や、レイターはハッと鼻で笑った。
馬鹿馬鹿しいと、相手にしていられないと言わんばかりに背を向けようとした。
「信じないね。君らに妖精たちを救えるとは——————」
しかし、レイターを遮って言った次の言葉を聞いて、レイターは再びこちらに振り向いた。
「お前の望みはそうじゃないだろ」
「………」
くるりとこちらを向き、大きなため息をつきながら姿勢を正して座り直した。
「随分と、知った様な事を言うじゃないか」
「同じ望みを持ったことが、俺にもあるんでね」
向き合って座り直し、少し前のめりになる。
さて、少しずつ剥がしていこう。
「あいつ………サバス(仮)とでも呼んどくか」
俺は先ほどまでサバスだと思っていたローブの男を見てそう言った。
「あいつにサバスと名付けたのは、サバスに未練があるからって言ったよな。それが多分全てだ」
「………………何を言ってるんだ?」
「お前、寂しがってるんだよ」
「——————」
ビクッ、と。
明らかに動揺してみせた。
いい反応が取れたが、それじゃあ足りない。
まだ続ける。
「お前の唯一の味方である守護者。あんな奴は味方じゃない。そんでお前もそれを理解してるだろ?」
エルを通して見たので知っている。
あの守護者は、仲間などではない。
利害が一致しているから同行しているだけの同僚だ。
しかも、平気で裏切りもする。
「あんな奴はいようがいまいが関係ない。けど、だからこそお前は孤独だった。寂しかったんだよ。でも、お前はサバス(仮)に出会った。そして、能力で決して裏切らない仲間にした。サバスなんて名前をつけたのはだからなんじゃないのか? もう二度と、裏切られない様に、ってな」
「違っ………………!!」
「否定することァねぇよ。お前の目標なんだろ?」
こんな事を言ってはいるが、こいつが否定したがるのはわかる。
これを肯定してしまえば、こいつが抑圧している本当の望みを認めてしまう事になる。
どれだけサバスを目標にしていようとも、強く思っていようとも、これは否定しなければならないのだ。
「それともう一つ。それはルージュリアとの結婚だ。これも同じだ。“裏切らない婚約者” お前はそれを欲している」
「違う、そうじゃない!!」
出てきた、出てきた。
化けの皮が剥がれ、核が見え始めている。
もう少し。
手を伸ばせば見えてくる。
こいつの心の奥にある、戦う本当の理由が。
だから、レイターは抵抗している。
嘘の仮面を被ることも忘れ、剥き出しの感情で俺に向かって吠えていた。
「さっきから勝手なことばかり言って………ボクはあの頃とは違う!! そんな理由で戦っているわけじゃない!! そんな事を思っているわけじゃない!!」
「いいや俺の言っている事は正しいね。お前は寂しいんだ。結婚に対する執着も、サバスの件も、全てはそこが源だ」
「違うっ………ぐッ…………」
抵抗し、拘束を解こうとするレイター。
無駄だ。
傷は治したが、体力は戻していない。
魔力も然り。
戦えるほど残してはいない。
「いい加減求めろ。俺って割と相応のわかるんだよ」
「じゃあ何か!? ボクは別に人を救おうなんて思っていないってこと!? 私利私欲のためだけに、独りよがりの戦いをして——————」
「それは違うッッ!!」
地面を叩き、喝を入れる様に、俺は叫んだ。
「俺はまだ、お前の全てを知らない。だが、お前が当たり前に人を助けるいい奴だって事は、俺も知ってる」
「!!」
「それに………私利私欲? それはどうした。お前の望みが誰かに迷惑をかけるか? 違うだろ。お前が王になって為したい事を為して救われる奴はきっといる。俺は決してお前の願いを責めも笑いもしない」
まっすぐ俺はレイターの目を見た。
こいつは確かに嘘つきだ。
けど、嘘つきは決して悪人とイコールではない。
そして、こいつも決して悪ではない。
「いいか、今から俺が、きっちりお前の正体を教えてやる。耳かっぽじってよく聞いてろ」




