第1122話
消える。
みんな、いなくなる。
何をしたというわけでもない。
それは、彼女にとっては単なる気まぐれだった。
彼にとってはたかがあそびだった。
それでも、ボクにとっては、世界を壊されるに等しいほどの衝撃で、痛みで、苦痛で、絶望だった。
あちら側からすれば、100から1が消えるだけ。
けれど彼らは知らない。
ボクにとっては、99が消える出来事だということを。
だから、ボクは今必死にかき集めている。
平気と書いた仮面を被って
何よりも嫌いな、嘘つきの仮面を被って。
今日も人を騙し、己を騙し続ける。
ああ、願うことならば、ボクは——————
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「さ………ばす………」
声が聞こえて振り返ると、レイターは目を覚ましてどこかに向かって手を伸ばしていた。
「サバスがどうかしたのかよ」
「………やぁ、英雄くん。人助けは順調かい?」
「まぁ、たった今成功したところを見るに順調なんだろうぜ。拘束はさせて貰ってるがな」
レイターはハッとした様子で、足に巻かれている鎖を見ていた。
どうやら気がついていなかったらしい。
「お前に関しては手があろうと無かろうと関係ないから、拘束は足だけにしてる………つっても、それを言い出したのはあくまでもミレアだ。俺はガチガチに簀巻きにしときたかったけどな」
「怪我人に酷くないかい?」
「当たり前だろ。お前ヤベーんだよ。マジで。これまでの誰よりも油断ならねぇ」
とはいえ、格闘や武術系の技能を持っていないレイターなら、手を出していようがいまいがあまり関係ないのも事実。
油断出来ないことには変わりないが、このくらいの温情は許されるだろう。
「あと、ミレアを擁護する気はねーけど、恨みっこなしだぞ。少なくとも、この戦いはどっちも真剣だったんだからな」
「責める気は無いさ。ただ、良心があるくらいだから、取り憑かれきっていないんだなって思っただけさ」
どうやら、ミレアの持っているちょっとした荷物を、こいつは見抜いているらしい。
流石というべきだろうか。
「はァ………巻き返し、難しそうだなぁ」
「お前よくも堂々と………………させる訳ねーだろ」
「まぁそうかもね。それに出来ないかも。今のボクには味方がいない訳だし」
もう一人いるだろう、と言いたいところだったが、エルから連絡は入っている。
もう一人はあっさり裏切ったらしい。
そもそも、元々対して結束もなかったとの事だ。
やるせない話だ。
………少し、話題を逸らそう。
「よぉ、気付いてるか?」
「?」
「お前、あんだけ燃えて、髪も皮膚も完璧に戻ってるぞ」
「え?」
ぺたぺたと肌や頭に触れるレイター。
これには俺も正直驚いていた。
この特殊な肉体故だろうか。
回復までではカバーできない所も完璧に治してしまっていた。
「キヒ、2枚目は健在って訳だ」
「2枚目とか久々に聞いたな………」
「ははは………………」
どうやら、話を逸らしてもあまり意味はないらしい。
ならば、
「どうせしばらくは戦えないんだ。話でもしようぜ?」
「話題があるのかな?」
「ああ、ある。俺が話題を提供して、お前が語る。そんで、テーマは “お前の話” だ」
「ボク?」
「そうだ。あんま勝手なこと言いたくはないが、多分お前の抱えてるモンは、誰かに吐き出した方がいいモンだ。知ってもらうこと。繋がることの第一歩はそれだ」
僅かに反応を見せるレイター。
こういう自分の本心を見せる奴は、かえって僅かに反応した方が分かりやすい。
皮肉話だ。
だが、それでいい。
そうだ。
吐き出せ。
回りくどいことをしなくても、こいつは望みを得られる筈だ。
「………そこに、サバス………いるでしょ?」
「ああ」
「実はさ、本当は彼の名前はサバスじゃない。それどころか、赤の他人だよ」
「!」
そういえば、サバス………はないのか。
ローブのあの男は、元々他の夫候補の仲間………と思いきや実はレイターの仲間だったとは聞いていた。
しかし、まさかそれすらもこいつのでっち上げた嘘だったとは。
全くややこしい話だ。
「偶然出会った強い人材に、偽名としてつけた名前だったんだ。本名を教えてくれなかったから」
「お前………よくあれに勝てたな」
「油断もあったし、何故かかなり弱っていたからね」
まぁ、極論それはどうでもいい。
問題は、
「そのサバスって名前は、思い入れでもあるのか?」
「思い入れというか、未練というか、因縁というか………まぁ、馴染みあるって点で言えば確かだよ」
もはやこちらには興味すら示さないローブの男。
何か物憂げな顔でじっと何処かを眺めていた。
「似てたのかよ」
「いや、全く。だからむしろ名前がつけやすかったのかもね。未練はあっても、決していい思い出じゃないから。ボクが今嘘つきをやってる理由も、その本当のサバスにある」
「………じゃあ、昔はそんな感じじゃなかったのか」
「うん。まぁね」
そして、レイターはポツポツと語り始めた。
こうなる以前の、嘘つきとなる前の、レイターの話を。




