第1119話
「………」
先程から少し様子のおかしいレイターに、奇妙な胸騒ぎを覚えるミレア。
何かを狙っているのは、傍目に見ても明らかであった。
(裏も表も隠そうとする人が、こんな露骨に………………っ!!)
レイターは、突然ゆっくりと手を上げ、指を銃のような形にして向けてきた。
すると、レイターはいつの間にか元通り余裕のある表情に戻っており、微笑を浮かべてミレアにこう言った。
「君の言う通りさ」
「………何を………………」
「何かを望む足は、誰よりも早く前へと進める足。そうだ、そうだった。そして、君の言う通り、ボクにも望みはある………………だから、もう容赦はしない」
「!!」
武器を構え、魔法に備えるミレア。
銃口に視線を集め、いつ来てもいいように、用意をしていた。
が、
「パン」
「——————!」
水の弾丸は刹那のうちに距離を越える。
顔との距離、わずか5cm前。
またも予想を上回る速度でやって来る魔法の一撃。
しかし、ミレアには見えていた。
反応し、すでに身体は動いている。
そして間一発、雷を纏った腕が弾丸を受け止めていた。
そう思った瞬間、
「!?」
それは、衝突の瞬間に大量の液体を吐き出しながら炸裂した。
四方八方に飛び散り、ミレアはそれを全身に浴びてしまう。
わけがわらず顔を顰めるミレアだが、すぐにハッと表情を変えた。
触れた瞬間にわかる異様な感触。
妙なベタつきと、刺激臭。
焼け野原になった戦場と、今浴びた液体から、レイターの目的はすぐに気づいた。
「これは………油っ………!?」
「ご名答」
炎魔法を相殺するべく、魔法を構えようとするミレア。
だが、レイターの用意できる炎は、目の前だけではない。
「逃げ道はないよ、お嬢さん」
「くッ………!!」
サラマンダーの力が、周囲の炎を支配する。
飛び散っていた炎は一気にミレアを包囲し逃げ道を塞いでいった。
「言っただろう。容赦はしないと。でも、ありがとう。君はボクの渇望に気付かせてくれた。そして、孤独を思い出させてくれた。その欲望と恐怖が、ボクをより前に進めてくれる」
無表情に加え、容赦の無さの加わっていた。
マズいことをしたな、と思いつつ、ミレアはあることを思い出した。
(孤独に恐怖………か)
それは、ここに来る以前、ケンが言っていたレイターに関するとある推測を、決定づけるものに思えた。
(やはりあの本は………いや、関係ない。同情すれば負ける。勝たないと、強くなれない。この力じゃ、私は進めない)
キッ、と前を睨み、奮起するミレア。
だが、状況は変わらず悪いまま。
火に囲まれ、全身可燃性の油にまみれている。
触れたら終わり。
慣れることのない死への恐怖。
熱気の中でも額から滴る汗は冷たい。
だが、強さへの渇望は、ミレアの思考を止めなかった。
逃げ道を塞がれても、活路がないわけではない。
するとミレアは何かに気がついた。
「………やはり、この油は………」
じっと油を見つめ、とある行動を取り、ミレアはその反応を見た。
すると、
「………うん、行けそうですね」
期待通りだったのか、小さく笑みを浮かべ、再びレイターの方を向いた。
もう時間はない。
ミレアを取り囲む炎は、既にそこまで迫っていた。
一気に詰めず、ゆっくりじわじわ詰めているのは、確実にミレアを追い込むためであろう。
焦らず、心身ともに追い込んで確実に仕留める。
だが、今回ばかりは、それが仇となりそうだ。
「さぁ」
「………何かするつもりかな? 言っておくがどこに行っても逃す気はないよ」
聞く耳など持っていない。
忠告など、ミレアにとって無意味だった。
足を下げ、助走の構えを取るミレア。
そして、
「行きます——————よ」
「!?」
何を思ったのか、ミレアは真っ直ぐレイターに向かって走っていった。
「血迷ったか………それともボクなら突破出来ると驕ったか………」
いずれにせよ、好都合。
レイターにとって、これは望むべくもない状況。
当てさえすれば良いのだ。
例え多少巻き添えを喰らっても、ミレアが負うダメージはそれを大きく上回る。
勝ちが見えた——————お互いに、そう考えていた。
「私が無策でこんな真似をすると思いましたか?」
「何………?」
レイターに向かって、何かが放られる。
放られたのは、ミレアの杖だ。
特に脅威だと感じなかった。
速度も遅く、威力もない。
だが、何か意味があるのは明白だった。
避けるだけではダメだ。
破壊しなければ。
そう思って、前に止めている炎に杖を喰わせようとした次の瞬間、
「捕食するのは、私です」
ふと、赤色が消えた。
何が起きたか分からず、呆然とするレイター。
消えたのではない。
消されたのだ。
それを理解した後ふと気がつく。
地面に落ちている杖に、先程まで感じなかった魔力を感じるということに。
「まさか——————」
魔力を吸われた。
そう気がついた頃には、ミレアは既にレイターの前まで来ていた。
「くッ………こんな………こんな馬鹿な事で………!!」
散らばらせていた炎を一気に集め、ミレアにぶつけようとするレイター。
しかし、ミレアは既に、レイターの頭上まで飛び跳ねていた。
「ええ、貴方はこんな馬鹿な事で終わるんです」
まだ、終わらない。
ミレアには、最後の切り札が残っていた。




