第1117話
「よーし成功したな」
髪色が赤のまま。
自我も思考も、ちゃんとコウヤのものになっている。
書き換えた内容を無事 “ロード” 出来たようだ。
「俺の方も消費時間は大体20秒。1分半近く向こうにいた訳だ」
だが、現実では5秒と経っていない。
全くもって不思議な空間だ。
色々と興味は持てるが、今重要なのはこの消費時間20秒と言う点。
先程、コウヤを一瞬サラマンダーにした時と合わせても、俺はまだ今日は2分半は神の知恵を使える。
「さて………」
戦うには十分な時間。
3対2で数の上では有利なので、まずどちらかに加勢し、その後全員でもう片方に挑む、というふうに戦えば、十分勝つ見込みはある。
………が、今回俺は手を出さない。
ここへ来る前、二人に言われていたのだ。
新しい力を試したい、と。
ミレアは “勇者” の力を。
コウヤは “攻略本” の力を。
少し迷ったが、これは視点を変えれば俺の使わずにあえて温存するということ。
それならありだ。
それに、勝機はやはり十分。
「見せてくれ。お前らの力を」
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ミレア対レイター。
魔法使い同士、王候補同士の戦い。
共に遠距離主体の戦闘法をとるミレア達は、お互いを警戒しつつ、魔力を練っていた。
「………てっきりボクは、あの二人のどちらかと戦うと思っていたんだけど………………うん、まぁ結果オーライかな」
「!」
眉を顰めるミレア。
しかし、すぐに表情を元に戻し、杖を構えた。
「それは、私なら倒せると思っている、と取っていいんですか?」
表情は変わらず、しかし声のトーンが僅かに下がった。
様子見を止め、雷の魔力を集中させる。
すると、
「なんだ。わかっているじゃないか。お嬢さん」
「!」
レイターは手のひらに、炎を集め始めた。
幸い、距離は近い。
今なら魔法を放つ前に杖で魔力を吸収できる。
しかし、
「っ………いや」
ミレアは咄嗟に、雷魔法へ切り替えた。
だが、それはつまり、小さな間を生んでしまうということ。
ほんの一呼吸の差だが、この至近距離では大きな差となってしまう。
「遅い!!」
数秒タイミングが遅れ、至近距離から魔法が放たれる。
そこで更なる誤算が生じた。
——————速い。
想像以上の速度にギョッとするミレア。
そう、今の奴の種族はサラマンダーだ。
見た目とは違い、炎魔法へ多少なりの強化が付与される。
「………」
だが、あくまでも冷静。
間違いを瞬時に自覚し、イメージしていた火球の動きから、実際の動きに修正する。
しかし、回避は出来そうもない。
飛ぼうにも、既に火球はミレアの胸の前まで迫っていた。
隙間などろくになかった。
が、
「甘いです」
グリンッ、と。
火球を更に上回る速度で身を翻し、紙一重で火球を背後にやった。
「なっ………………いや、そうか………足に………」
ミレアの足元から見える、小さな稲光。
地面と足に雷属性を付加し、その間に小さな磁力を発生させほんの一瞬だけ加速したのだ。
「今度は、私の番です」
そう言うと、ミレアは懐から何かの塊を取り出し、レイターの方目掛けてそれを放った。
よく見ると、それは小さな砂の塊。
一見、なんの変哲もない砂だんごの様に見えるが、
「………何かな? それは——————」
黒い砂の一部から、血が滴る。
それは空中で突然形を変え、剣の様に変化した。
なんとか紙一重で首を捻って回避したレイターだったが、反応が数秒遅れれば、眼球が一つ潰れていた。
「あっぶな………………これ、砂鉄か………………ふふ」
「何かおかしいことでも?」
「いやいや………まぁ、よもや近距離なら勝てるなんて甘い考えじゃない事を願っているよ」
来いと言わんばかりに手招きをするレイター。
安い挑発だが、ミレアはあえてそれに乗るように、砂鉄の剣を振り下ろした。
すると、
「!」
躱した。
が、驚いたのはそこではない。
滑らかで、熟練された動き。
無駄がなく、歳月を感じさせるその動きを見たミレアからは、もう欠片ほどの油断も消えていた。
「はァアッッッ!!」
砂鉄を振り回し、攻撃を続けるミレア。
だが、
「はははは。太刀筋でわかる。こっちはど素人じゃないか」
当たる気配はまるでない。
どの攻撃も最低限の動きで回避し続けている。
背景に映る、強者の影。
魔法使いという隠れ蓑の裏に、飛んだ達人が隠れていたものだと、忌々しげにミレアは睨みつけながら、それでも攻撃を続けていた。
「甘い、甘いなぁ。それに若い。わざわざ数の利があるにも関わらず、たった一人で挑むとは、驕りも甚だしいよ」
「力試しっ………ですから………!!」
僅かずつだが、魔力が減ってきている。
今使っているマグネティクスは3級。
抑えているとはいえ、消費はなかなか激しいものだった。
「力試し? キヒ………ひははは!! 馬鹿にするのも大概にして欲しいね。何を確かめるつもりかは知らないけれど、この様子じゃ大した力じゃないかもしれないよ?」
「ええ………その通り!!」
「!!」
砂鉄は一気に形を変えて、ハンマー状になって上空からレイターへと向かう。
しかし、それも簡単に躱されてしまった。
「へぇ、そうなんだ」
それはそれはと、意外そうにしているレイター。
そう。
ミレアにとって、これは力の凄さを知る戦いではなかった。
「隣で戦っている彼はわかりませんが、少なくとも、私にとってはそうです。力そのものは凄くても、使いこなせなければ、もっと言えば、使い所が無ければ意味はない。そして既に、私が得た能力はまだ大して役に立てないということがわかりました」
力の凄さではなく、力の弱さを知る戦い。
お世辞にも、戦い向けとはいえないその能力。
「ふぅん………………得るものは、あったのかな?」
「ええ。弱いことを知れましたし、まだ役に立てないこともわかりました。そして何より——————もっと、欲しくなりました」
ゾワッ——————と。
「…………」
レイターは、妙な悪寒を覚えていた。
強さへの渇望。
それは、誰しもが持つもの。
レイターにも、少なからずそれはあった。
だが、こいつほどではない、と。
レイターはミレアを見てそう思った。
潤うことを知らない、永久的な渇き。
上限などなく、喰らうことを望み続ける。
悍ましいほどの欲。
あまりにも、剥き出しになっていた。
仮面を被り、己を隠すレイターとは対照的だ。
「私、信じているんです。望めば人は強くなれる。求めるために進む足が何よりも早いんだと。それは、貴方も同じだと思いますが」
「っ………」
そう。
ミレアの眼は、しっかりと捉えていた。
この男にもまた、何かへの渇望があるということを。
そしてそれは、偶然にも、レイターの動揺を誘っていた。




