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第1115話



 戦地は、一瞬にして焼け野原に変わった。

 庭園の花々は黒く染まり、爆散した岩や建物の残骸が、次々に破壊を引き起こしている。


 先手必勝。


 こうなると読んでいたレイターは、あらかじめ用意しておいた爆弾で、この戦いを一気に終わらせることにしていたのだろう。

 魔力探知に引っかからないよう、わざわざ爆弾などという遠回りをすることに決めたのだ。


 中々の徹底ぶり。



 それ故に、見事爆弾は目論見通りに作動した。





 「ボクは嘘つきだからね」




 遠巻きで、まるで伝えるように少し大きな声でレイターはそう言った。

 つまらなさそうな表情をサバスが見せるなか、やはりレイターは大きな感情の起伏を見せることはなかった。




 「ごめんね」




 後悔も、罪悪感も、微塵も感じさせない言葉だけの謝罪。

 たった一言それを呟き、レイターは踵を返す。






 そして()()、背を向けたレイターにこう言った。





 「一体、誰に謝ってんだ?」


 「——————」




 高まった魔力が空中で形を成し、一本の槍へと変容していく。


 脳ではなく、脊髄による命令、そして攻撃。

 レイターのあり得ないという逃避が、思い描いた結末を逃さないため、渾身がその一撃に込められる。


 が、




 「無駄だ」




 槍は、形を成す前に崩れ去った。


 術式破壊。

 俺の得意技だ。




 「あーもう邪魔くさい、なっ!!」


 


 風魔法で煙を一気に振り払い、視界を晴らす。

 俺たちは、お互いに、お互いの姿を目にした。


 ああ、よく見える。


 目を見開いて驚いた、レイターの人間らしい顔が。



 そして向こうもよく見えていることだろう。

 まるで無傷な、俺たちの姿が。




 「っ、無傷………!? 気づいてたってわけかな」


 「俺の仲間は優秀でね。お前が何かしてる事には気づいてたってわけだ」




 感情を読み取るミレアの眼。

 こいつは戦う前からレイターが何かを企んでいることに気がつき、俺にあらかじめそれを言ってきていた。


 どうやら、レイター相手でも完全に目が使えないわけではないらしい。


 後は俺の眼があれば、周囲の異物が把握できる。

 爆弾があるとわかれば、後はどうとでもなるわけだ。




 「………ははっ、顔すら見ていないというのに………全く冗談じゃないね」


 「そりゃこっちのセリフだ。冗談はそのふざけたおかっぱだけにしろっての。ったく、いきなりの爆弾に加えてお前………種族まで変えてやがンな」


 「!! ………………その仕掛けにも気がついたんだ」





 足元には爆弾。

 しかし、流石にこの世界の機械文明なんて高が知れている。

 時限爆弾など作れるわけもない。


 故に自ら火種を用意する必要がある。

 それ故に、こいつは自分がサラマンダーであるという嘘を現実に変えたのだ。

 

 サラマンダーであれば、ほぼ感知できないレベルの微弱な魔力で爆発を即起こせる。




 「君らは本当に厄介だね。お陰で一回無駄になったよ。これで確実に沈められると思ったんだけどなぁ………」


 「考えが甘かったな。忠告しておくが、昨日とはまるで違うと思っとけ」


 「そうらしいね」




 レイターは、チラリとサバスの方を向いていた。

 先程までのつまらなさそうな様子はもうない。


 再び俺たちを見て妙にニヤニヤとしていた。




 「一つ聞かせてほしい。百歩譲って、爆発した土や石を排除したとして、あの爆炎の中どうやって生き残ったのかな?」


 「ああ、それか。ま、お前と同じだって言っておく」




 俺は、攻略本を片手にそう言った。


 


 「その本は………」


 「今度こそ、正々堂々戦おうか」




 片手に本を持ち、手の上で広げ、神威を込める。

 そして意識は、ほんの中へと吸い込まれていく。













————————————




——————




———












 「………よし」




 意識を本に潜り込ませ、“妖精の図書館” に入る。

 この図書館の名前は便宜上つけた名前だが、案外コウヤも気に入っているらしい。



 図書館”に入った時点で、俺の手にはサラマンダーの書があった。

 さっきはこれを使って、コウヤの肉体を一時的にサラマンダーへと変化させたのだ。




 「こいつは返して………と」




 この図書館には、いくつかルールがある。

 まず、これを使っている間、俺は少しずつ神の知恵の残存使用時間を消費していく。

 大体、3秒で時間を1秒分消費する。


 それと、借りられる本は一度に一つまでという事。

 複数所持は不可能。


 恐らく、俺が手で持っていくことが条件のようだ。




 そして、扱える本は、俺が片手で持てるものだということ。

 重すぎて持ちきれない本は、俺が書き換えきれない本。


 それは()()使えない。




 「ま、この辺の弱点は、そのうち修正できそうだけど………今はとりあえず、戦いに集中するか」




 俺は、この書庫にいくつか存在する現時点での最強の一冊に手を伸ばした。




 「あの馬鹿力にパワーで挑むのは愚策。かと言って、格上相手に遠距離だけではちょっと火力が心許ないから………よし、こいつだ」




 本を手に取り、重い表紙をあげ、神威を込める。


 内容、把握。

 一度情報を俺自身に落とし込み、改変する。



 脳をめぐる記憶の群れ。

 人生を継ぎ接ぎし、その実力を得るに至るまでに得た経験のみを抽出。



 そして、これが重要だ。

 記憶が混濁する最たる原因は、この記憶が他人のものだという点にある。


 だから、情報の中にいる人物を “誰か” からコウヤへと置き換える。

 誰かの経験ではなく、それを自身の経験に。



 これは、あくまで一時のもの。

 本を閉じるまでの、かりそめの記憶。



 しかし、そのかりそめの記憶は、これからコウヤの糧となり、血肉と化す。





 「さぁ、お披露目だ。“ロード” ——————」



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