第1114話
「おーい、コウヤ。朝だ………って、起きてたのか」
部屋に向かうと、既に支度を終わらせていたコウヤの姿があった。
凄まじい集中だ。
いい感じに魔力もみなぎっている。
「金髪か」
「なんだよ、随分とやる気だな」
「なんとなくな、こうしとかなくちゃって気がしてたんだ。その様子だと、正解みたいだな」
俺も既に、防具を着て武器を腰に提げている。
いつでも出られる状態だ。
「敵の拠点を見つけた。これから攻め入るぞ」
「お嬢サマの護衛は?」
「G・R達がいるから、万が一鬼ごっこになってもすぐ立て直せる。やるなら今だぜ。お前こそ、やれンのかよ」
挑発的に俺はそう尋ねた。
返事はない。
しかし、この異様なまでの落ち着きと、内で荒ぶっている魔力が、何よりも雄弁に応えていた。
「そうかい。それじゃあ、ケリ付けに行くぞ」
「おう!」
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3代前の族長が建てたと言ったが、その人柄が伺えるような場所だった。
湖の側にポツンと立つ小さな家。
街で見たような派手な装飾や活気は無い。
しかし、ここには街には無い落ち着いた静けさやのどかさがある。
いい場所だ。
ここならば、俗世から離れ、静かに自分の時間を過ごすことが出来るだろう。
だが、ここはじきに戦場となる。
木々のさざめきや虫の声は爆撃にかき消され、花の匂いなど忘れてしまうほど黒煙に満たされるだろう。
ルージュリアには悪いが、少し無茶をさせてもらう。
『ご主人様! ここなのです!』
「ああ、サンキュー。後はルージュリアの護衛を頼むな。耳栓忘れずもってけよ」
『もちろんなのです!』
上空から今の今まで、ずっと観察をしてもらっていた。
エルの報告からもいるのはほぼ確定だったが、離れにやってきてすぐわかった。
いる。
奴らは、むしろ俺たちを待っていた。
恐らく、逃げずに迎え撃つつもりだ。
「見てンなー」
「バチバチだな」
「もう少し緊張感持ってください………それと………」
小さく耳打ちをするミレア。
結構重要な話だったので、心に留めておいて、再び意識を離れの小屋に移した。
もはや隠す気のない殺気が、この奥から漏れ出てきている。
そしてそれは、入り口の前にいる俺たちに向かって近づいてきていた。
「「っ………」」
ミレアもコウヤもすぐに身構えた。
だが、まだ身構える必要はない。
殺気こそ感じたがそれはあくまでも一人分。
もう一人は、まだ刃を鞘に収めている。
「まだ大丈夫だ。なぁ、レイター」
扉の奥から聞こえる笑い声。
今ゆっくりと、姿を表した。
「ああ、そうさ。話したいことがあるしね」
相変わらず、面を貼ったような顔をしている。
そして後ろ、サバスだ。
こちらは対照的に剥き出しの殺気が、以前仕留め損なったコウヤに向けられていた。
「………へっ、獲物でも見るような目ェしちゃって」
格上、しかし動じることは無い。
あれに正面から向かうだけの度胸も実力も身につけたからこそ、俺たちは今ここにいるのだ。
だが、自信があるのはどうも俺たちだけではないらしい。
「迎え撃つのは、勝つ自信があるからか?」
「さぁね。ただ、少なくともこの状況はボクも望ましいとしていたところさ」
「何………?」
特別何かを用意していると言った様子はない。
だが、拠点がバレたというのに特に慌てる様子もない。
それどころか、レイターのいう通り、まるでこの状況を待っていたようであった。
「ボクはね、出来ればこの戦いで犠牲者は出したくない。レッドカーペットの最中だけれど、幸い管理者は君との戦いを条件としていないから、戦わずともデメリットを負わずに済む。まずダメ元で聞くけど、降参する意思は?」
「あると思うか?」
「そう言うと思ったよ。だから、一つ賭けをしよう」
前置きは終わり、どうやら本題に入ったようだ。
賭け、ときた。
………正直、驚くほど俺にも都合がいい。
話を聞く価値は十分にある。
「言ってみろよ」
「ふふふ………まぁ君なら受けてくれるだろうとは思っていたよ。まぁ、なんとなく察しはついているだろうけど、お互い相手に条件をつけ、負けた方が勝った方の条件を飲む。条件は先だしで、ダメだったらこの話は白紙にする。これでどうかな?」
確信めいた目。
奴は、俺がこの展開を望んでいることがわかっていた。
だが何にせよ、最高だ。
こんな条件、呑まないわけがない。
「ああ、いいぜ。それじゃあ、お前から言ってみろよ」
間怠っこしいゲームを抜き、ここでケリをつける。
それは、俺も望んでいた事。
是非もない。
そして、既に心に決めていたレイターも、俺も、満を辞して己の望みを口にした。
「ボクが勝てば、大人しく敗北を認めること」
「俺が勝てば、お前のもっている羽の欠片を寄越すこと」
お互いに一瞬眉を顰め、小さく笑みを作る。
手痛い条件。
だが、異論もない。
意思は既に決定された。
「「じゃあ、始めよう」」
間も無く、開戦する——————
「でも、じきに終わりだ」
「は——————」
前触れはなかった。
その宣言と共に、そこら一帯を飲み込む大きな爆発が生じた。
しかし、それが起こせるような魔力は感じない。
当然だ。
魔法ではないのだから。
こんな世界だから、それはむしろ死角となる。
これは、自らの手で作り出す、魔法に寄らない兵器。
そう、爆弾だ。
一瞬、視界を支配した紅蓮は直後、戦場を覆うほどの黒煙を呼び寄せた。




