第1107話
「やぁ、友よ。さっきぶり! 元気だったかな?」
「………………」
無視しようかとも思った。
だが、大声で呼ぶ上に手まで振ってくるので、こちらとしても向かわざるを得なかったのだ。
「お前………よくそのテンションで喋れるな」
「ははは、いついかなる時もクールに振る舞うのが僕の信条だからね」
頭がおかしいのかもしれない。
だが、そんな奴の呼びかけに応じてのこのこやって来る俺も大概だ。
それにしても、一体どういうつもりか。
「安心しなよ。ボクは手を出すつもりはない。手じゃなくて口を動かしたい気分なんだ。単なる暇つぶしさ」
「そうかい。まぁ、俺としては戦り合っても構わねーけど?」
「ボクは構うよ。戦いは疲れる。特に、あの短時間でボクのレッドカーペットを見切る様な人とそうそう戦いたくない。これまではまるで見破って来る人がいなかった分、ボクは君が恐ろしい」
レイターは俺を指差しながら、小さく笑みを浮かべてそう言った。
少し、人らしさが滲み出ている笑みであった。
「恐ろしい、ねぇ。興味津々の間違いじゃねーの?」
「こう見えても好奇心は強い方なのさ。怖いもの見たさというのが人一倍強い自覚はある」
そう言って、居座る気満々な様子で噴水のヘリの腰掛けた。
追い返そうとしたところで無駄だろう。
まぁ、相手を読み取る上で対話というのは大事だ。
最初こそ面倒と思っていたが、今は相手をしてやるのもやぶさかではない。
………後で後悔することになるかもしれないが。
「………へぇ、意外だね。情を持ちたくないって顔してる。あの戦争で何万人も殺した男とは思えない」
「今見てる限り、お前は別に悪人じゃないからな」
「どうして?」
俺はふいっと振り返って明後日の方を向いた。
視点の先は、先程まで戦っていた場所。
戦闘後にしてはやたら綺麗だ。
そして何より、俺たちの血以外は一滴たりとも残っていない。
「周りにいた使用人達にも気遣いながら戦ってたろ? 俺も戦い易かった。普通でももうちょい荒れるのに、公園はあんなに綺麗だ。そう言うところに気を向けられる奴が悪い奴とは思えん。だからお前は多分、いい奴なんだよ」
「………………」
やりにくそうな顔だ。
今、一番人間らしい顔を見せているかもしれない。
「………そんな奴が、こうまでして戦いに来てるんだ。王になる理由も、まぁお前にとっちゃ大きいもんなんだろ」
「さぁね。案外下らないかもしれないよ?」
「他人の戦う理由なんて、大体下らねーよ。そりゃそうだ。他人の望みで飯が食えるなんてことは稀だからな。ただ少なくとも、お前が下らないと思っていない限り、その理由が本当に下らないものになることはない。下らないかどうかはテメーが決めろ」
なんとなく、思ったことを言った。
そうしたら、思ったよりも刺さったのか、レイターは神妙な顔をしていた。
こんな世界だ。
やむを得ず剣を取る事は珍しくない。
こいつに石を投げられるのは、こんな環境でも戦わず生きてきた様なやつだけだ。
ただ、
「一応言っとくが………遊び半分でこんな殺し合いに出向いているんだとすれば、俺は容赦なくテメーを斬り捨てるぞ」
「そこは安心してほしいな。一応ボクにとってはこのゲームも選別も、命をかけるに足るものなんだから」
「どうだか………結婚したいから戦うなんて言ってたやつの言葉なんざ——————」
おっと?
笑顔がいつもの貼り付けた様なものに戻っている。
こういうやつの本心は、俺でもすぐには見抜けない。
知識や知恵でこじ開けられるほど、心の壁は甘くないのだ。
だが、一つだけ確かな事がある。
たとえその中身が分からなくても、壁があると言うことはわかるものだ。
「なんだ。ありゃ単なる軽口じゃなかったのか」
「なんの事かな」
そう言いながら、レイターはゆっくりと立ち上がった。
本当に戦う気はないらしい。
「それじゃあ、また後で」
「何分も話してねーのにもう行くのかよ」
「興が醒めたってところかな。じゃあね」
「………」
少し、撤回をしておくべきか。
本心は、全くわからないわけでもない。
そうだったからか、少し思い当たる節がある。
だから俺は、最後にこう言っておいた。
「おい」
「?」
「命をかけたいものが、命をかけなきゃダメなものとは限らないんだぞ。お前のそれは、どうしても戦わないとダメなものなのかよ」
ポロッ、と。
貼り付けていたものが、わずかに溢れる。
するとレイターは、振り返る事なくこう言った。
「ボクさ、もう疲れちゃったから………例え険しくても、見つけた近道を素通りできないんだ」
その去り際の一言は、嘘つきとは思えないほど、何かが籠った言葉に思えた。




