第1106話
「でッ!?」
部屋に戻るや否や、凄まじい拳骨をミレアから頂戴した。
やっぱり、弱体化したこの肉体ではかなり痛い。
が、この痛みは甘んじて受け入れよう。
完全に自業自得だ。
「また、無茶しましたね?」
「まぁ………………無茶というか、一応俺にも切り札はあったというか」
ただ、性分か認めたくはなかった。
それに、一応嘘ではない。
神の知恵の効果濃縮など、手は残していた。
「なるほど。ところで、疲れて空腹でしょうから、リンフィアが今作って」
「ごめんなさい。無茶でした。大無茶でした」
なんて卑怯なやつだ。
あと食べ物を粗末にするな(失礼)。
「ハァ………リンフィアは外です。今日はケン君も疲れているでしょうから、G・Rと見回りに行きましたよ」
「ほう、俺を欺くとは成長したな」
「ふざけない」
「はい」
一瞬であぐらに戻っていた俺は、再び雰囲気に正座させられた。
「………それで、さっき戦っていた彼はどうなりました?」
「ほぼ無傷で逃げられた。後はまぁ、敵の能力の発動条件なんかは知れたってところだな」
まぁ、サバスの方が分からなかったのは痛いところだが。
「へぇ、それは結構大きい収穫じゃないですか」
「まーな。様子見に全力を尽くしたお陰だ。レイターの方に限って言えば、大体底も知れた。問題は、後数日どうするかって話だ」
「そうですね………どう逃げ切るか………」
この下らない “ゲーム” の期限は残り2日と半日。
俺たちの目標は、あくまでもルージュリアを守り通すという事。
別に奴らを倒す必要はない。
だが、
「いや、守りを固める方向で行った方がいいかもしれない」
「え? でも、G・Rの能力なら、間違いなく逃げ切れますよ? ポイントさえ設置すればどうにでもなるでしょうから」
確かに、ミレアのいう通りG・Rの能力はこう言ったルールの場合非常に強力だ。
それはわかっている。
その上で、俺はこう言っているのだ。
もちろん、理由はある。
「このゲーム、何かおかしい。特にサバスだ」
「サバス………って、俺をぶっ殺そうとした奴だよな? くっそあの野郎………思い出したらムカついてきた」
膝を両手で叩きながらコウヤはそう言った。
まさにそこだ。
そこを疑問視してる。
「ああ。それさ、よく考えてみろ。あいつは何だ? 何でレイターに手を貸す? 奴はレイターの側に所属してるわけじゃないんだぜ?」
「? ああ、さっきそんな事言ってたな。だから別の奴の仲間なんだろ?」
「だから、別の奴の仲間がそう都合よく手を貸すか? もっと言うと、あんな堂々と殺すか? 使用人の目がガッツリあるのに?」
「あ」
そう。
使用人というとこは、ここの主人である領主………これをゲームとするなら主催者の手の者だ。
そんなルール違反じみた行為を、主催者の目の届く場所で堂々と行うとは思えない。
よしんば行ったとしてタダでは済まないだろう。
何せあれは完全にルールを乱す行為だ。
「単に裏切ったとはどうしても思えねー………が、俺の勘違いって場合もある。だから、そろそろ起きるであろうこの負け犬どもから奴が何者か聞けば色々とわかるだろうぜ」
「ひどい言い草」
一応、あの場で叩きのめした連中は連れ帰って来ている。
こいつらの口をどうにか割れればいいのだが、心配はいらない。
何でこっちにはミレアがいるのだから。
「尋問は私がやります。一番手っ取り早いでしょうから」
「だな。頼むぜ」
本人もやる気みたいだ。
「ところで、何を聞けばいいんですか?」
「ああ、それはな——————」
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「これでひと段落、と」
ミレアに尋問を任せ、ルージュリア護衛をコウヤ達に任せた後、俺はあえて見回りに出た。
言っていないが、もちろん囮だ。
まぁ、あれだけ言われた後なので無理はしないが、多少前のめりになるのはご愛嬌という事で。
「………やっぱり、見てンな」
普段がどんなかわからないが、おそらく今目にしている宮殿内の光景は、ほぼいつも通りなのだろう。
だが、やはり見張られている。
人の意識が、全身に張り付いている。
居心地は最悪だ。
「最近こんなんばっかだな………——————あ?」
憂鬱な気分で窓の外を眺める。
さっきまでいた公園の方角。
何かがおかしい。
使用人達の意識が、またあらぬ方に向いている。
俺の様に、視線を向けられている奴がいる。
「………………は?」
いるというか、いた。
あまりにも無防備に、無造作に、まるで警戒心などない様で外を歩いていた。
件の男、レイターだ。
そして何を考えているのか、向こうも俺を見つけ、張り付けた様な笑顔を向けたままこちらに手を振ってきた。
一体何のつもりか、真意ははかりかねるが、とりあえず俺を引っ張り出そうとしているということはわかった。




