表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1110/1486

第1105話



 ぼーっと目線の先にある噴水を眺めていた。


 なんとなく気まずい。

 妙な息苦しさを感じる。


 まぁ、俺が悪いんだが。



 謝ったし、許してもらえたが、それでも何故か居心地が悪い。

 何かを話す機会を窺っている自分に、こんな不器用だったかなと小さな疑問を浮かべるが、事実こうなのだから仕方ない。



 そう思っていると、




 「さっきのはさ、俺が封じた能力なんだよ」



 公園でぼーっと座っていると、コウヤはそう言った。

 ようやく口を開いてもらってホッとした、というのは一度置いて俺は話を聞いた。



 その様子だと、さっきのは過去に使った経験のある能力だということだ。




 「そん時もちょっとやらかして、暴走して、自分がわからなくなって………まぁ止めてくれる人がいたから助かったけど、やーっぱ怖かった。俺が俺だってわかんなくなる」


 「記憶がなくなるのか?」


 「いや、それがそう単純な話じゃないんだよね」




 コウヤは本を取り出して、小さな文字を宙に浮かべた。



 「これはさ、あくまでも文字の形だけど、一つ一つが情報………知識の結晶なんだよ。でも、これは俺の持つ知識じゃない。頭の中に入れたら、ごちゃごちゃして訳がわからなくなる。多分、記憶ってのもそこの含まれるのかなと思う」




 なるほど。


 消えるのではなく、見つけられなくなるということだ。

 頭のどこかにあっても、それがわからなくなる。

 簡単に言えば、混乱するということ。




 「けど、それならせいぜい思考停止で済む」


 「? でもお前………」


 「うん。ああなったのはまた別の理由。俺はさっき、あの力で “グラディエーター” の情報を取り入れた。その能力と知識、そして経験………いや、記憶を取り込んだ。要するに、ヒト1人の情報が頭に入ってくるんだ。単体とは違って、入ってすぐはまだ情報はまとまってるけど、時間が経てば崩壊して、俺の情報と混ざり合う。その時の混乱は、今の比じゃない………………」



 「!!」




 肩をぎゅっと掴みながら、コウヤはそう言った。


 自分がわからなくなる。

 混ざって仕舞えばどれが自分かわからなくなるのだろう。



 あいつはあの時、崩れゆく自我をゆっくりと眺めさせられていた様なものなのだ。

 宙に舞う煙を掴むようなもの。

 煙は掴めずに、ゆっくりとどこかへ消えていく。


 コウヤは、それを眺めることしか出来ない。


 それは、一体どれほどの恐怖だったか。




 「そういや、外見が変わンのは?」


 「わかんね。俺も前聞いたけど、結局それが誰なのかはわかんなかった。格好や武器は、さっきで言えばグラディエーターのものなんだろうけど、髪色とか表情はなんなのか全くわからん。前、別の変身をした時も同じ感じだったから、多分そこは共通してるんだろう………と思う」




 まぁ、そこを突き詰めていったところでどうしようもないだろう。

 多分、今はコウヤも知りたくはないと思う。

 自分の中に溶け込んだ他人が誰なのか、なんて。



 これは、落ち着いて気になった時にでも掘り下げよう。





 「はぁ………これまで聞いた感じからして、やっぱ二度と使うな、って言いてーけど、正直使い様によっちゃ有用な分、いざとなったら必要になるかもな」


 「はは、そこは正直だな」


 「言っとくが、使っても自衛につかうか、マジで他のみんながヤバい時に………………っと、睨むなよ。優先順位の話だ。俺には隠し球があるから、お前やあいつらが優先ってだけだ」




 俺のためを思っての威嚇という珍しいものを見た。


 別に進んで犠牲になろうとしているわけではない。

 ただ、あまり俺を庇うのに使って欲しくはない。


 仲間の命を晒してまで自分を護ろうとは、まだ到底思えないのだ。




 「勘弁しろ。この性格は、物心ついた時からのモンだ」


 「………………ガキの頃、何かあったのかよ」




 ガキの頃の話、か。


 正直、あまり人に話す内容のものではない。

 ろくに愛されず、痛みの孤独だけに囲まれて育った惨めなガキの話なんて、誰が聞きたいだろうか。

 俺たちの中でも知ってるのは、蓮と琴葉、それにリンフィア達いつものパーティ3人とミレア。


 それだけだ。



 けど、





 「おッッそろしくつまんねーぞ」




 こいつになら、話してもいいと思えた。




 「過去なんてない分、俺のトラウマ晒したんだ。フェアに行こうぜ」


 「やれやれ………………」










——————————————————————————————











 「あー………………クソッ」




 森の奥。

 レイターは、木に手をつきながら、凄まじい量の汗をかいて息を切らしていた。




 「あの短時間で3回は無茶だったかな………………」




 いつものポーカーフェイスも崩れ、辛そうな顔を躊躇なく晒している。




 「………」




 その一方で、サバスは一切口を開くことはなかった。

 ただ静かに、逃した獲物のを思い出し、ニヤニヤと笑みを浮かべている。




 「ふぅ………………とりあえず落ち着いたかな。助かったよ、サバス」


 「………」


 「はは………………無視、か。つれないねぇ………………本当に」




 木の皮を剥ぐ様に爪をたて、ゆっくりと手を下ろすと、背筋を伸ばして服装を正すレイター。

 その顔は、いつの間にかいつもの貼り付けた様な薄ら笑いに戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ